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アスリートと生理100人プロジェクト VOL.1 :自分の身体と向き合い続けたからこそ分かる、女子バスケ界トップ選手の「生理の時の自分」
「ジェンダーのアタリマエを超えていく」をビジョンに掲げる株式会社Reboltが企画する「アスリートと生理100人プロジェクト」。日々挑戦し続けるアスリートは、生理とどのように向き合ってきたのか。そのリアルな声を、生理で悩む人たちへの解決策・周囲がサポートするきっかけへと繋げることを目的としています。
記念すべき第1回は、バスケットボール女子日本代表にも選ばれている林咲希選手。精華女子高校ではインターハイに出場。大学では4年連続でインカレに出場し4年目には優勝を飾り、現在はWリーグ(バスケットボール女子日本リーグ)のENEOSサンフラワーズに所属。ハイキャリアを歩んできた選手だ。
そんなバスケ界のトップ選手である林選手は、日々挑戦し続ける中でどのように生理と向き合い付き合ってきたのか。そのリアルな声をお届けする。
林咲希。女子バスケットボール選手。ENEOSサンフラワーズ所属。2018/19年には日本代表にも選ばれている。得意なプレーはスリーポイントシュート。
自分の身体と向き合ってきたからこそ分かる、生理による不調
-生理に対して、ネガティブ・ポジティブなイメージをそれぞれ持っていますか
ネガティブな捉え方になりますが、生理のときに身体が重く感じたり、腰やお腹が痛い選手が周囲にかなりいます。自分はお腹は痛くなりませんが、腰が張ると感じるときはすごくあります。ポジティブな捉え方となると、生理のときの方が動けていると感じるときもあります。動けているときはポジティブに捉えますが、バスケをしているとき以外はネガティブな捉え方が多いです。
-身体の不調は辛いですよね。ちなみに初めての生理はいつだったか覚えていますか
中学2年生ですかね。
-なるほど。バスケ選手は学生時代から身長が高いイメージがあります。林選手は中学生時代から身長は高かったのでしょうか
中学生でかなり伸びました。小学生のときは前から5番目くらいでしたが、全員抜かしてしまってうしろになりました。
-中学2年生のときに身体が大きく変化したのですね。当時は、現在のように腰が張ったり身体が重くなる不調を感じることはありましたか
中学時代はありませんでしたが、大学時代からすごく不調を感じるようになりました。体型や骨の形によって痛みの具合は人それぞれ違うと思いますが、もともと自分の骨の形は人と違うようで、生理のときに臀部の痛みがもっとひどくなります。自分の場合は、右の腰が常に張っていて、生理のときにより強く張る感覚があります。
-大学時代から不調を感じるようになったきっかけはありますか
大学生になってから、寮生活になりウェイトトレーニングが増えました。筋肉をつけるようになり身体も少し重くなりつつ、ウェイトトレーニングの器具も持つので骨のぶつかりも増えていて。そのせいで、右腰の痛みが強くなったのではと考えています。
-確かに筋肉の変化は影響がありそうですね。筋トレをすることで、身体の感じ方も変わってくると思います。
高校のときはウェイトトレーニングはありませんでした。トレーニング量は多かったのですが、全て体幹や自重のトレーニング。そのおかげで身体の軸はできていたのですが、大学時代はウェイトトレーニングのやり方をあまり知らずに重さをあげていましたね。自分の身体とマッチしているウェイトトレーニングをやった方が良かったのではと思います。
-ウェイトトレーニングに限らず、バスケは練習量が多いイメージがあります。練習量が多いことで起きる生理の問題はありますか
生理のときは、動く前の準備が多くなりますね。気になってしまう腰のほぐしから入ります。トレーナーからもう緩んでいるからこれ以上緩めないで欲しいと言われてしまいますが。また、生理のときは身体が緩んでいるのであまり緩まさせない、腹圧をちゃんと入れておく必要性は聞くので、そこを中心に準備します。
ナプキンが引き起こす、運動時のモレやムレ
-普段、林選手はどんな生理用品を使っていますか
タンポンです。寝るときはナプキンだけ。タンポンを長い時間つけない方が良いと聞くので。
*タンポンについてのトキシックショックについてはこちらから
-いつからタンポンとナプキンを併用していますか
大学に入るまでは、タンポンを入れることにすごく抵抗があったのでナプキンを使っていました。ですが、ENEOSに入団してから周りの選手にタンポンがいいよと言われて。使ってみたら意外といけました。自分から使用する勇気はなかったです。
-ちなみに、チームメイトが使用している生理用品の割合は
多分ですが、タンポンが多いですね。それで、練習後はナプキンをつける。タンポンとナプキンの両方をつけている子もいるかもしれません。
-サッカーではナプキンが落ちるハプニングはよくあると聞きます。バスケでも、同様に生理用品にまつわるハプニングや”あるある”はありますか
モレはありますね。年に1回から2回ほど、生理の量が多い子はモレることがある。前もってモレていないか見ておいてと伝えてくる子もいます。あまり問題だとは感じていませんが、気にしてる子は多いです。バスケの場合は、スパッツを履かない人はほぼいないと思いますし、ナプキンが落ちたりすることはないです。
-夏場の体育館は暑いですよね。ユニフォームの下にスパッツを履いてナプキンすると、ムレることがあるのでは
暑さよりも、もも裏が揺れるのが嫌で固定したいのではと思います。確かに暑さでムレますが、ユニフォームに経血がもれる方が心配なので、スパッツを履くのでは…。
-スパッツ以外に、生理用品によるモレやムレへの対策はしていますか
ベビーパウダーを使っていましたね。ムレがひどいときは、ベビーパウダーを使わないとヒリヒリしてプレーにも影響してしまうので。
-そのベビーパウダーは誰からの伝授なのでしょうか
高校時代、脇の下や締め付けの部分にブラジャーのズレが起きたことがありました。合宿をしていたので、洗濯の洗剤が残っていたのかもしれませんが、チームのみんながズレてしまっていました。その際に、みんなでベビーパウダーを塗りたくって対処したので、その流れで生理のときもベビーパウダーを使っていましたね。
--とりあえず、ムレやズレでかゆくなったらべビーパウダーだということになったんですね
「生理だから」を聞いてくれる環境の必要性
-指導者の方の話を聞かせてください。指導者とアスリートが生理の話をするシチュエーションを聞くことは少ないですが、林選手の実際のところはいかがでしょうか
監督と生理の話はあまりしませんが、女性のトレーナーとは話します。ウェイトトレーニングの際にいてくれるトレーナーの方は男性ですが、その方とも生理だから体が重いなどの話をしますね。
でも、言える選手が全員ではないですし、自分の性格だから言えることもあると思います。自分でも少し抵抗感はあって、あからさまに生理だから重いと言える感覚ではないです。
-トレーナーの方は、普段から気にかけてくれるのでしょうか
そうですね。症状がひどい子は決まっているので、その子に対して注意深く見てくれています。
生理痛がしんどい子の中には、すごく痛がったり下痢になる人もいます。しんどいなと考えたときから一層しんどくなると思うので、生理痛はメンタルにも関わってくると思います。
-症状がきついときや痛みを止めるために、どんなことをしていますか
最終的にはロキソニンを飲んでいます。しんどすぎて寝付けなかった子もたまにいるので、その子達に対しては「もう、休みな」と伝えたりすることもあります。でも、チームの練習は出なくてはならず、自主練や朝練で調整します。完全に自己責任ですね。
-今まで、チーム練習を生理で休んだことはありますか
自分はないです。高校時代に、お腹が痛くて動けない子で休んでいる子は何人かいましたね。
-チームメイトや指導者含め、生理で休んだときの周囲の反応はどうでしたか
指導者は、分かってくれていました。「うん、分かった」と普通に返してくれていたので。自分が今まで関わってきた監督は良かった方で、今でもトレーナーさんと話せる環境にはいますし、恵まれていたと思います。話せない環境だったら辛かったと思いますし、生理だからきついと言える環境は本当に必要だと思います。自分だけで抱え込むのはプレーにも影響しますし、調子が悪くて怒られても理由が言えないのは一番きついですから。聞いてくれる環境が必要です。
-聞いてくれる環境を作るために、チームができることのイメージはありますか
自分のチームでは「アトレーター」というアプリで、気分や体重や食欲を毎日入力しています。生理かどうかを選択する部分もあるので、スタッフやトレーナーに知ってもらえることは良いと思いますね。
-その入力したものは、指導者にそのままデータが届くのでしょうか
はい、そうです。選手全員の合計点数が指導者に届くので、練習の強度がすごく変わるかと言えばそうではありません。それでも、身体の負荷の点数が全体的に高ければ、強度を落とさなければいけないとスタッフも考えてくれているようです。自分の身体と向き合う時間が、1から2分でもあるのは良いです。
-林選手は、生理に関する悩み事があったとき、どんな人に相談しますか
チーム内で励ましあいますね。選手同士、お互いに生理の悩みは分かるので共感するしかないです。生理だからといって練習強度が下がることはないので「今日、頑張ろうね」と言いあうこともあります。しんどいことはチームメイトが分かってくれるので、チームスポーツはいいなと思うんです。
女子バスケ界の選手一人ひとりを見て欲しい
-最後の質問です。Reboltは「ジェンダーの当たり前を超えていく」をビジョンに掲げています。これは女子サッカー界や女性スポーツ界にいる中で、「女の子だから」「女性だから」という「ジェンダーのアタリマエ」で選択肢が制限されることが多いと感じてきた経験から生まれたビジョンです。
林選手の中で、バスケ界や女性スポーツ界にいる中で感じた「ジェンダーのアタリマエ」はありますか
そうですね…男子はプロなので、コロナの影響でバスケができないとお金が入ってこないと聞いています。賞金の額が男女で違いますが、コロナの件などを聞いていると、男子の方がバスケにかける想いは強いのかなと思います。うーん…
-すごく悩ませてしまっていますね…
女子選手は頭を使うのが上手で、一人ひとりの性格がコートに現れるんですよね。
例えば、プレー中にバタバタしている子は、普段もすごくバタバタしているだろうと自分は見ています。ルーズボールを頑張って追う子は優しい子だったり。上手いからメディアに取り上げるだけではなく、他にも魅力がある選手がいるので、もっと一人ひとりのストーリーを見て欲しいです。どんな練習をしてるか、どんな意気込みで試合に臨んでるのか、取り上げて欲しいですね。
あとは、ツイッターやインスタなどのSNS発信の仕方を学べる場所があれば、バスケの楽しさが伝わり広まっていくのではと思います。
一人ひとりの個性や練習や試合に対する姿勢など、伝えたい部分はたくさんあります。今は控えめなことしか載せられていませんが、どのようにすれば伝えたいことを届けられるか知ることができたら、SNSを使いたくなります。SNSを知って色んなことをあげたら、もっとたくさんの人が自分たちを見てくれる。そうやって、バスケをもっと広げていきたいです。
----------終わりに----------
日本のトップレベルを渡り歩いてきた林選手の言葉から、自分の身体の声と向き合う大切さが伺えます。試合や練習に良い状態に望むためには、自分自身の状態を把握し対応すること。その大切さを林選手はしっかり理解し競技に望んでいることが伝わってくるインタビューでした。
また、セルフケアにも限界があり、トレーナーさんのように周囲のサポートが必要になってくること。そして、そのためにも話せる環境が必要だということも林選手は伝えてくれています。
それぞれが所属するスポーツチームや職場、学校生活の場など、生理で悩んでいる人が悩みに対してSOSを出せる環境を作ることはとても大切なこと。林選手のリアルな声を参考に、話せる環境を作ることを日々の生活で意識すれば、悩んでいる人たちは声をあげやすくなるのかもしれません。