見出し画像

「Rebirth(仮)」(9)敗血症性ショック

前回(8)

兄が入院してから4か月ほど経ったある朝、私はお昼から大学の授業があったため、地元の最寄り駅まで向かっていると、途中、仕事中の母から電話がありました。


「今病院から連絡があって、祥一の容態が悪いみたいだからすぐ病院に向かって」


急いで病院に行くと、兄は既に血圧が下がっており、話すこともできず危険な状態でした。仕事中だった両親と姉も病院に到着し、主治医から兄の容態について説明を受けましたが、私は突然の出来事にただただ呆然としていました。

主治医曰く「今夜が山」とのことでしたが、病院に何人も泊まれないため、その日の夜は父だけが病院に泊まって兄に付き添い、私は母と姉と一緒に自宅へ戻りました。
「無事に今夜を越えてくれ」と祈ることしかできませんでした。

その日の夜、兄は敗血症性ショックで意識を失い、一週間以上意識が戻りませんでした。

夜、苦しむ兄の様子を見た主治医が、挿管するか父に確認しました。挿管によるリスクや生存率など説明を受けた父は、「今より少しでも楽になるなら」と了承し、挿管の処置に入ったそうです。

父曰く、「意識はなかったはずだけど、口から太いチューブを入れられることに体が拒絶反応を起こしてたのか、処置中手足が暴れていたから3~4人に体を抑えられていた」とのことでした。
あまりにもショッキングな光景に、父はこの時のことがトラウマとして残っているようです。

幸いにも兄は一命を取り留めましたが、意識が戻ってからも少しの間、口にチューブが入っていて話すことができなかったので、小さいホワイトボードに筆談で私たちの質問に返事をしていました。

チューブが外れてからも、せん妄による幻覚を時々見ては、「カーテンのところにずっと人がいるけど、先生に言った方がいいかな?」と何度か両親に聞くこともあったようです。


体が回復してきて少し経った頃、お見舞いに行くと、ベッドに横になっている兄は相変わらず色々な管に繋がれていて目が虚ろでした。
いつものように一言二言会話をしてから黙って椅子に座っていると、兄が私に聞きました。

「お前が俺の立場だったらどうする?」

突然の問いに、私はしばらく考え込んでしまいました。

その時私の頭の中に浮かんだものは「病気前の兄の姿と、病気後の目の前にいる兄の姿」でした。

当たり前のように健康で、好きな時に好きなことをできるような、そんな兄はもういないのか。ベッドに横になって、沢山管に繋がれて、生きるか死ぬかなんてことをこの若さで考えないといけないのか。

そんなことを考えていると、涙が溢れ出てきました。

兄が病気になってから、なるべく兄の前で泣いたりしないでおこうと決めていましたが、我慢することができませんでした。

「お前は泣くなよ…お前が泣くと、不安になる…」

そう言う兄に、私は「うん」と返事をするのがやっとでした。

続き(10)へ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?