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【掌編小説】サラマンダーの息吹
風の色に鉄錆のような赤が混ざり始めたのを見て、ムゥジは慌てて自宅へ駆け戻った。
「赤風が来そうだ」
ムゥジが戻ってきたのに気がついたドリィは、
「あら、今日はそんな予報あったかしら」
と首を傾げる。
「最近は急に赤風が吹くことが多くなったからなあ。もうこの村も住めなくなる日が近いのかもしれん」
ムゥジは静かに眉根を寄せながらゴーグルとマスクを外すと、身体中に付着した赤風の粉を吸着シートで拭った。そのまま木の椅子に腰を下ろし、これから会うはずだった友人に赤風が止んでから家を出ると連絡した。
ムゥジは窓辺から赤く染まり上がる世界を眺めて、心を痛めた。彼が幼少期を過ごした青い星は今、恐ろしい姿へ変貌を遂げつつある。
この大地に赤風が吹くようになってから約七十年。この鉄錆色の風の中に十数分もいれば、胸が焼けるように痛くなり、ただれてしまう。現代医学を持ってしても赤風の正体は分かっておらず、唯一明らかなのは、この炎症が人間にだけ起こるということだ。
〈まるで人間だけを地上から一掃しようとしているみたいだ〉
此度の烈風は七日間、止むことはなかった。
人々は赤風のことをこう呼ぶ。『呪いの風』と。
#シロクマ文芸部 のお遊び企画に参加しています。
皆さんの日常にちょっとお邪魔して、面白いと思っていただければ嬉しいです。
それでは皆さん、良い週末を🐻❄️