【R29:WORKS】境界線のない絵と音楽と、他のアーティストと響き合う創作
絵、作曲、シューゲイズなど、多方面で才能を発揮しているアーティスト・みけたはな。彼女の絵の描き方やオリジナル曲の作り方、代表曲『白いしかく』の内容などを聞いた。
絵と音楽の関係と、代表曲『白いしかく』について
絵描きであり、音楽家でもある、みけたはな。「私にとって、絵と音楽は、チャンネルが違います。『曲を作りたい』ってときは曲が頭に浮かぶし、『絵が描きたい』ってときは、絵が浮かぶんです」。
ふたつの表現は、完全に分かれているわけでもない。
「YouTubeに投稿しているオリジナル曲のMVは、先に音楽が完成して、それをイメージしながら描いたものがほとんどです。逆に、自分が描いた絵にインスピレーションを受けて、曲ができることもあります。ベン図のように重なった関係ですね」。
画材はクレヨンが中心で、一度描き上げたあとPCへ取り込み、デジタルで修正している。その独特なタッチは、和とも洋ともジャンル分けできず、神秘的だ。
それぞれの絵には、言語化できない意味がこめられている。
「自分のなかには『これだ』っていう思いがありますが、言葉にするのが難しいので、絵に描いています」。
完成した作品のほとんどはTwitterで公開中だ。
「気に入ったら印刷して、自分の部屋に飾っていたりします。ポストカードとして商品化する絵は、カードという形にしたとき見栄えがいいものを選んでいます」。
楽曲の制作は、コードを鳴らすことから始まる。
「録音しながらギターをぽろぽろ弾いて、適当に歌って、あとから歌詞をまとめます。特定の相手をイメージしているわけではないけれど、誰かに語りかけるように書くことが多いですね」。
相手を大切にしたい、優しくしたいという感情がこめられている。
「『大丈夫だよ』って思いを、間接的な表現で語りかけていくというか。すごくネガティブな言葉が出てきたとしても、私の中ではポジティブな表現だったりします」。
そんな彼女がこれまでに作ってきたオリジナル曲の総数は、100を超える。「ボツにした作品もあるので、ライブのレパートリーとしては30曲ぐらいです」。
代表作は『白いしかく』だ。
「学生のころに作った、私自身を凝縮させたような曲です」。
制作のきっかけになったのは、中学生時代に書いた日記だ。
「中学生のころの私は、思春期だったのもあって、トゲトゲしていました。普通になりたいけど、なれないし、『普通になりたい』と思ってしまうことも嫌でした」。
鬱憤を晴らすために書いていた日記だが、いつの間にか、何を書いたかも忘れていた。18歳になったころ、たまたま見つけて読み返すと、新鮮な気持ちになった。
「たった数年前の自分なのに、まるで別の人のようでした。でも、間違いなく私の芯にある部分で、これを曲にしたいと思いました」。
タイトルにも、当時の感性が生かされている。
「中学生のころは、学校を学校とも呼びたくなくて、ただ『しかく』と表現していたんです。その言葉に『死角』という意味もこめて、自分や他の人の二面性というか、見えづらい人間関係についても歌っています」。
『白いしかく』は、彼女が初めてDTMに取り組んだ楽曲でもある。
「iPhoneで録音したギターや歌に、ガレージバンドを使って、フルートやストリングスの音を入れてみたんです。今聴くと拙い部分も多いですが、思い入れはありますね」。
現在はパソコンでの音源制作に挑戦している。
「DAWソフトを購入して、勉強をはじめたところです。いずれは、ちゃんと配信リリースできるような音源も作ってみたいです」。
まだまだ拡大を続ける彼女の世界に、期待が高まる。
シューゲイズバンドでの活動と、ゲーム主題歌の歌唱について
ソロアーティストとして、ギター弾き語りでライブをすることが多いみけたはなだが、他のアーティストとともに音楽活動を行うこともある。
「もともと高校生のころ、グランジ・ロックにハマって、シューゲイザーを好きになりました。本当は、所属していた軽音部でもそういう音楽をしたかったんですが、私の周りには同じ趣味の子がいなかったんです。卒業する前に一曲だけ、バンド仲間と作ったのが『Toumei Ningen』という曲です」。
卒業後も、バンドで音楽をしたいという思いはあったが、機会に恵まれずにいた。しかし2020年、ライブハウスでの演奏後に、思いがけない出会いがあった。
「RANTZさんという海外の方で、元々は私の対バンを見に来ていたお客さんでした。私が演者さんと音楽の話をしていたら、『それ知ってるの?』って会話に入ってきて、驚くほど音楽の趣味が一致したんです。『一緒にシューゲイザーをやりたい!』ってなって、Moneを結成しました」。
20年12月20日には、1st mini Album『Chimera』を配信リリース。ヘヴィーなトラックと、甘く囁くような歌声に魅了される一枚だ。
「今はRANTZさんが日本にいないので、リモートでやりとりしています。お互いに片言でしか喋れないけれど、楽器を鳴らしたら通じ合えて、とても楽しいです。いつかライブもやりたいですね」。
他にも、2023年春には、Nintendo SwitchおよびSteamで発売予定のアドベンチャーゲーム・OUの主題歌『おまじないのように』の歌唱を担当。ゲームクリエイターの幸田御魚氏が作詞し、『トモダチコレクション』や『リズム天国』等のサウンドを手がけた椎葉大翼氏が作曲した楽曲を、物悲しくも美しく歌い上げた。
本楽曲の制作に参加したきっかけを訊ねると、「いつものようにTwitterへ絵と楽曲を載せていたら、たまたま幸田さんの目に留まったんです。『いいね』をつけて下さったあと、『みけたさんの作品は、自分が作っているゲームに凄く合うと思いました』とメッセージをいただきました」。
しばらくメッセージをやりとりし、さらに互いを知るために、まずは一曲だけ、共作してみることになった。
「私が曲を書いて、幸田さんが詩をつけたんです。とても世界観がマッチして、素敵な作品ができました。そこから発展して、今回の楽曲の歌唱をさせていただくことになりました」。
『おまじないのように』では、椎葉氏の肝いりで、英語版の歌唱も行っている。ゲームと合わせて、ぜひお楽しみいただきたい。
「これからもインプットを欠かさず、探求心を忘れずにいたいです。自分なりにアーティスト活動を続けていって、出会いやきっかけがあれば、色んな作品に関わりたいなと思います」。
貪欲に創作活動へ取り組む姿勢は、ぜひ見習いたいと思った。
text:Momiji,Tsubasa Suzuki edit:Momiji