【N05】どこからが常世だろう#旅する日本語
小学生のころ、林間学校で登山をした。
「山は、僕たちが住んでいる場所とは別の世界です。ゴミなどを持ち込まないようにしましょう」と先生は言った。
道中、地元のボランティアさんがガイドをしてくれた。
色んな高山植物の名前を教わった。
とても綺麗な花があって、私は一目で気に入った。
ガイドさんは一輪手折って、小瓶に入れて、プレゼントしてくれた。
「みんなには秘密だよ」と。
高い高い山を登り終えて。
頂上でレクリエーションがあって。
下山するとき、先生は言った。
「山は別の世界です。山で拾ったものは山に返して、持ち帰らないようにしましょう」
私は泣く泣く小瓶を置いて帰った。
あの山は、あの花は、何という名前だったろう。
去年、富山県へ旅行して、立山に登った。
高山植物が咲いているような高所までバスで上れた。
どこまでが現世で、どこからが常世なのだろう。
考えるのも野暮だと思うほど、ただ美しい景色と空気が、心を洗った。
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