マガジンのカバー画像

僕らのレアグルーヴ漂流記

8
トマトケチャップ皇帝による音楽コラムです。洋楽に対しての熱い思いや、音楽とともに歩んだ青春の記憶は共感必死。「30歳を超えてやっと邦楽の魅力に気づいた」という彼のメインストリーム…
運営しているクリエイター

記事一覧

【S09:COLUMN】幻視する風景

Jóhann Jóhannsson(ヨハン・ヨハンソン)が亡くなったことを知り残念に思う。 ヨハンソンのように出自をクラシックに持ちながら電子音楽とクロスオーバーしていくアーティストは一般にポストクラシカルと呼ばれている。 このジャンルは映像との親和性が高いため劇伴に使われることも多く、特にヨハンソンの作品はコンセプチャルな作りで多分に視覚的な要素を含んでいた。 例えばアルバム『IBM 1401, A User's Manual』では彼の故郷アイスランドに初めて上陸したコンピ

【S07:COLUMN】音楽とファッション

音楽とファッションは呼応するところがある。 ラッパーは示し合わせたようにオーバーサイズのパーカーを着ているし、文系バンドマンはよれたネルシャツを着ている。 テクノアーティストは大きめの眼鏡をかけているし、ジャズマンは夜会服みたいのを着ている。 これは音楽がイメージを想起するところもあるのかなと思う。 ほら、テクノってパソコン作業だから目を悪くしそうじゃない?(頭の悪い感想) リスナーも所属を示すようにアーティストに寄せた格好をしていく。必然、くるりのライブには岸田繁クローンが

【S06:COLUMN】渋谷系探訪

後追いで渋谷系の音源を集めている。 DMC※で散々ネタにされたせいで痛いジャンルという決めつけがあったのだが、岡崎京子※※を読んでいたらオザケン※※※との親交が書かれていて興味を持った。彼女の描く冷めた終末感と軽薄なポップバンドの繋がりが不思議に思われた。 ということでフリッパーズギターから順に辿っている。 大人びたAORを奏でるオリジナルラブ、都会をクールに疾走するICE、音響的な実験を繰り返すコーネリアス。どれもバブルの徒花と言うには実があるプロフェッショナルの仕事で認識

【S05:COLUMN】ジャズへの憧れ

ジャズが分かるようになりたい。もう10年くらい思っている。 そんなわけで名盤扱いされているものを手当たり次第聴いた。ソニー・クラーク、アート・ブレイキー、マイルス・デイビスetc。 ジャズ喫茶にも足を運んだ。オススメを尋ねるとしたり顔のマスターが心地良い音楽を流してくれるのが有難い。の、だが、曲の輪郭がよく分からない。 同じ曲でもテイクによって展開を変えてくるし、演者によって解釈が全く異なる。そもそもオリジナルの概念が希薄なので自分が本当にその曲を聴いているのか分からな

【S04:COLUMN】J-POPとの邂逅

30を超えて邦楽を聴き始めた。 J-POP=セルアウトという偏見があったのだが、偶々くるりを聴いたところ良質なインディーロックを鳴らしており印象が一新された。鉱脈を見つけた気分である。 手始めにとディスクガイドの上から順にdigしている。その流れで椎名林檎に辿り着いた。 デビュー当時の林檎は異端として扱われていたと傍目に記憶している。 今になって1stを聴いてみるとキャバレー音楽調のアレンジと寺山修司的な詩作、なるほどオルタナティブな音楽性である。 女子高生だった林

【S01:COLUMN】微笑みのルークトゥン

タイに行ってきた。 タイという国は至るところで路上ミュージシャン、というかホームレスがハンディカラオケで歌っている。特に上手くもないのだが歌い終えるや胸を張っておひねりを求める緩さが個人的には好きだ。聞こえてくるローカル音楽は歌謡曲中心で、調べてみるとルークトゥンと呼ばれるジャンルらしい。 旅の記念にアルバムを持っておくのも良いかと思い現地のレコード屋に赴いた。アジアらしい雑然とした店内で、カウンターには無愛想な小太りの青年が座っている。 こっちの人は言うほど微笑ま

【S02:COLUMN】青春のディスクユニオン

ディスクユニオンが好きである。 あの黒地に赤のロゴがプリントされた袋を持っていると一端のレコードコレクターと認められた気がするし、店名からして何かの結社ぽくて僕の自尊心を満たしてくれる。 ユニオンの店頭には特価CDが突っ込まれた段ボール箱(通称エサ箱)が設置されている。そこが僕のミュージックライフの出発点だった。 ニルヴァーナも200円で買ったしセックス・ピストルズ も200円で買った。 どちらも大して好みじゃなかったけど、カート・コバーンやジョン・ライドンを知り合いのよ

【S03:COLUMN】静謐の歌姫

エリザベス・フレーザーの歌声が好きである。 その特異な、意味性を放棄したボーカルスタイル(これに関しては聴くのが早い)には現実逃避的なところがあって、音楽に人生の慰めを見出していた僕に訴えるものがあった。 後になって彼女が幼児期に虐待を受けていたこと、かつての自分と同じ立場の人間に向けて歌っているとインタビューで語るのを聞いた。悲しみと優しさが歌われていたのだと分かった。 ボーカルを務めたコクトー・ツインズ解散後、各所の客演でこそ存在感は見せたものの彼女は表舞台からフェード