世界の美しい瞬間 11
11 シンクロナイズド
京都はパン屋さんが豊富だ。
チェーン店菓子パンに始まり、
ハード系のパン、小麦重点系、全粒粉推し、天然酵母系、俺様のこだわり系、おしゃれ系、素朴系、バラエティー系、地元密着型、ベーグル得意系、などなど、とにかくどの店を覗いても楽しめる。
自分好みのお店が何軒かみつかると、気分に合わせて選べるのも嬉しい。京都に来たら、とにかく一店でもいい、路面のお店の扉を開けてみて欲しい。
パンの香ばしい香り、どこか甘い酵母の匂い。
目にも口にも楽しい幸せな空間。
ぎりぎり無愛想との境目なご主人もいれば、超気さくなお兄さんもいる。
もちろん、めっちゃ可愛いバイトの女子大生も。そしてなぜなんだ、ベーカリーのバイトに入った男子学生は、すこぶるやわらかでまろやか男子が多い。
1週間くらい前、前の職場で一度流行った、某チェーンの生食パンのことをなぜか思い出した。
ちょっとしか食べられなかったが、美味しかったなー、
それで忘れた。
さて、1週間経った。
残業残業で、なんというか、脳は、色々忘れた。
休みの日、用事で、ある店に行った。
色々話し込んで、さあ帰ろうかと言うときに、ご主人が「あ!ちょっと待って」とぱーっと奥に引っ込んだ。
程なくして出て来られ「パン食べます?」と、紙袋ごと、わたしに差し出した。
そのパッケージを見て仰天した。例の、生食パンなのだ。
見れば、なんとほぼほぼ一斤。
ほんとに良いのですか?
いや、こちらも余ったからもらってくれたら嬉しい。
そんな会話を交わし、遠慮なく頂いて帰った。
なんという幸せ。
一年ぶりくらいに食べたそれは、ほんとに美味しかった。一年前に食べたそれより、美味しく感じた。
ご主人と話していたのは、互いを活かす、ということについて。
きっとご主人は、思いつきもあったかも知れないけれど、わたしにそっと、彼のやり方で、パンと同時にエールも贈って下さったのだ。
パンも菌がなければふくまらないし、菌もその役割が活きるから美味しくなる。
なんとも心もお腹も満たされた午後になった。
シンクロが起きたとき、わたしと世界は愛し合っている瞬間なのだな、と感じる。
もっと、ずっと、わたしは、この世界と愛し合いたい。