世界の美しい瞬間 12
12 存在給
電球が切れたので、帰り道、ホームセンターに寄った。
目的を果たした後、ふとハーブのコーナーに目が行った。
うちもプランターを充実させたい。
細々とした九条ネギ(八百屋さんで買ったやつの根っこを植えた)と、何か分からぬ発芽したてのスプラウトだけでは、なんとも華やかさに欠ける…。
そこで、バジルを買うことにした。初夏にはバジルソースにしてパスタを食べることに決定。
レジカウンターに持って行くと、少しだけその場から離れていた店員さんが、すみませーんとすぐに来てくれた。
店員さんは、レジに辿り着く前にわたしがカウンターに置いたバジルをちらりと見て、レジを打つ前に、さらりと言った。
「213円です」
なんと、消費税込のお値段を、機械に任せることなく伝えてくれたのだ。
わたしの待ち時間や財布からお金を出す時間の短縮、更には自分の仕事も効率よく進む。
さすが、と思わずお伝えした。
店員さんは満面の笑顔で、ありがとうございます!!またぜひ来て下さい、と返して下さった。
おかげで、清々しい気持ちで一日を終えることができたのだ。
タイムマネジメントとか、仕事の効率を良くとかどこかで流行っているが、それには、その仕事の経験値や、その場所でどれくらい苦労し、自ら編み出した対応策があるかも掛け算されると思う。
少なくとも、店員さんの対わたしのやり取りは実にスマートだった。
長く勤めれば時給が上がる。それは、もちろんそうだろう。
でも、どれだけ自身が心地よく働くために工夫し、どれだけお客さんを心地よくさせるかは、経験だけがもたらすものではない気がする。
その存在そのものに給与が払われている、そう思いたい。
それは、お金以外のものでもあるかも知れない。
少なくともわたしは、次に苗が欲しくなったら、またあのホームセンターに寄ろう、そうしよう、と決めている。
そしてわたしも、心地よく存在することを諦めないでいようと、そう思った。
見上げると、新月が、笑顔で空を象っていた。
世界はすぐに答えを返してくれるのだ。