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パワーリフターの負傷率

「パワーリフターが、よく負傷する部位は何処か」

パワーリフターのみならず、筋力トレーニングを行う方で、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトのいずれか一つでも行っている方は多いと思います。
そして、このパワーリフターの怪我について研究を行った、とても興味深い論文があるので、今回はこれを私なりにまとめてお伝えします。
(全文をご覧いただく場合は以下にURLを載せています)

  • パワーリフターは、どのような怪我が多いのか。

  • 怪我のキッカケは何か

  • 何が原因だったのか など

パワーリフターや、BIG3のどれか一つでも行う方にとって、とても重要な研究内容でしたので是非最後までご覧ください。
「怪我をしていないから大丈夫」「どこも痛くないから大丈夫」と決して他人事と思わないようにご注意ください。
その理由はこちら。

Prevalence and Consequences of Injuries in Powerlifting: A Cross-sectional Study
(パワーリフティングにおける傷害の発生率と結果:横断的研究)
Edit Strömbäck , Ulrika Aasa , Kajsa Gilenstam , Lars Berglund

引用:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29785405/

◇どのような人を対象にしたアンケートか。
➡エリート(プロ)パワーリフターは除外されています。
 アンケートに参加した方の情報は以下をご覧ください。
※アンケート内容は全てではなく、私が抜粋して記載しています。

◇エリートパワーリフターをアンケートから除外した理由は何か。
➡国内レベルのパワーリフターは国際レベルのパワーリフターと比較して負傷率が高いことがわかっている。
➡エリートパワーリフターをアンケートから除外することで、一般的なパワーリフターに適用し、パワーリフターではないが同様のトレーニングを行うアスリートにも適用できるようにするため。


1.アンケート結果

ⅰ.アンケートからわかった関連性について

  1. 「スクワットの頻度が多い=負傷率上がる」ではなかった。

  2. デッドリフトが強い人の負傷率が高かった。

  3. 「トレーニング回数の多さ=腰・骨盤部の負傷率が上がる」ではなかった。

  4. 腰・骨盤部の負傷のキッカケはデッドリフトが最も多かった。

  5. 週あたりのトレーニング時間が股関節の負傷率に影響を与えていた。

  6. スクワットの頻度が股関節の負傷率に影響を与えていた。

  7. ベンチプレスの頻度が股関節の負傷率に影響を与えていた。

  8. 肩の負傷のキッカケはベンチプレスが最も多かった。

  9. トレーニング頻度が大腿部の負傷率に影響を与えていた。

  10. スクワットの頻度が大腿部の負傷率に影響を与えていた。

  11. トレーニングギアの使用頻度が膝の負傷率に影響を与えていた。

  12. トレーニングギアの使用頻度が胸部の負傷率に影響を与えていた。


《詳細》

①「スクワットの頻度が多い=負傷率上がる」ではなかった。
現在負傷している身体のどの部位においても、スクワット(週の回数)との有意な負の相関が示された。
➡現在負傷しているパワーリフターは、現在負傷していないパワーリフターよりも、スクワットの頻度が低かった。

②デッドリフトが強い人の負傷率が高かった。
デッドリフトの自己ベストは、現在負傷している部位と有意な正の相関があった。
➡現在負傷しているパワーリフターは、現在負傷していないパワーリフターと比較して、デッドリフトの自己ベストが高かった。

③「トレーニング回数の多さ=腰・骨盤部の負傷率が上がる」ではなかった。
腰・骨盤の負傷と、パワーリフティングのトレーニング回数(週)には有意な負の相関が認められた。
➡現在、腰・骨盤を負傷しているパワーリフターのトレーニング頻度は、現在、腰・骨盤を負傷していないパワーリフターと比較して低かった。

④腰・骨盤部の負傷のキッカケはデッドリフトが最も多かった。
デッドリフトのトレーニング中に発生する腰・骨盤の負傷には有意な正の相関があった。
➡現在、腰・骨盤を負傷しているパワーリフターのうち、デッドリフト中に負傷したと答えたのは52.4%であったのに対し、それ以外は19.0%であった。

⑤週あたりのトレーニング時間が股関節の負傷率に影響を与えていた。
・現在、股関節を負傷している男性は、週あたりのトレーニング時間が、負傷していない男性と比較して少なかった。
・現在、股関節を負傷している女性は、週あたりのトレーニング時間が、負傷している女性と比較して多かった。

⑥スクワットの頻度が股関節の負傷率に影響を与えていた。
・現在、股関節を負傷している男性は、負傷していない男性と比較して、スクワットの頻度が少なかった。
・現在、股関節を負傷している女性は、負傷していない女性と比較して、スクワットの頻度が多かった。

⑦ベンチプレスの頻度が股関節の負傷率に影響を与えていた。
・現在、股関節を負傷している男性は、負傷していない男性と比較して、ベンチプレスの頻度が少なかった。
・女性は関連性が認められなかった。

⑧肩の負傷のキッカケはベンチプレスが最も多かった。
・ベンチプレス中に発生する肩の負傷には有意な正の相関があった。
➡肩を負傷しているパワーリフターのうち、ベンチプレス中に負傷したと答えたのは56.3%であったのに対し、それ以外は21.3%であった。

⑨トレーニング頻度が大腿部の負傷率に影響を与えていた。
・大腿部を負傷しているパワーリフターは、負傷していないパワーリフターと比較して、トレーニング頻度は少なかった。

⑩スクワットの頻度が大腿部の負傷率に影響を与えていた。
・大腿部を負傷している男性パワーリフターは、負傷していない男性パワーリフターと比較して、スクワットの頻度が少なかった。
・女性は関連性が認められなかった。

⑪トレーニングギアの使用頻度が膝の負傷率に影響を与えていた。
・膝を負傷しているパワーリフターは、負傷していないパワーリフターと比較して"lifting straps"の使用頻度が多かった。
(lifting strapsと本文には記載されていましたが、ニースリーブのことを指している?)

⑫トレーニングギアの使用頻度が胸部の負傷率に影響を与えていた。
・胸部を負傷しているパワーリフターは、負傷していないパワーリフターと比較して"lifting straps"の使用頻度が多かった。
(lifting strapsと本文には記載されていましたが、リストラップのことを指している?)

ⅱ.議論

◇腰・骨盤の負傷について◇
➡デッドリフトでの高重量トレーニング時に腰・骨盤部にかかる高負荷が重要なリスク要因である。
➡殆どのパワーリフターにとって、スクワットとデッドリフトは、腰・骨盤部と股関節周辺に大きなトルクを伴い、最適ではないテクニックはトレーニングでかかる負荷の分散に悪影響を及ぼし、それによって負傷リスクを高める可能性がある。

◇複数箇所負傷しているパワーリフターが多いことについて◇
➡BIG3は全て多関節運動であるため、運動連鎖の一部に不良アライメントがると、身体の一つ、または複数の部位に結果的に負荷が増加する可能性がある。
➡複数の負傷が報告されたのにも関わらず、パワーリフターはトレーニングを続けている。ただし、現在負傷しているパワーリフター73人のうち59人は、さらなるトレーニングを可能にするために何らかの方法でトレーニングを変更したと述べている。その理由としては、負傷が酷使によるもの(急性ではなく徐々に発症)であったか、または筋肉の緊張など急性発症の軽い障害であったと。
※パワーリフターのトレーニング負荷や技術を調査することはできなかったが、参加者の多くが、障害の原因の一つとして「トレーニング量、強度が高すぎた」を挙げていることに気づいた。リフティング技術が負傷の原因であると答えたのはわずか5%だった。これは興味深い結果である。

◇特定のトレーニング関連要因と現在の負傷している部位との関連が明らかになったことについて◇
➡負傷しているパワーリフターの多くは、トレーニング頻度が低かったこと。特にスクワットとベンチプレスの頻度が低い。これは現在負傷している部位だけではなく、股関節、大腿部、腰部の怪我とも関連していた。
➡この関連性は2つの相反する理由による影響である可能性がある。
①トレーニング頻度が低いことが「トレーニング不足」による負傷の危険因子であるか
②現在負傷しているパワーリフターが怪我のためにトレーニング頻度を下げざるを得なかったか
興味深いことに、股関節の負傷と、スクワットのトレーニング頻度については、男性と女性では逆の有意な関連があった。
男性の場合、頻度が低いことが怪我と関連していたが、女性の場合は頻度が高かったこと。
これは、男性と女性の負傷への対処方法の違い、または組織の適応性に関する違いによって説明できる。
➡デッドリフトの自己ベストが高いほど、負傷の確率が2%増加した。
➡"lifting straps"の使用は、膝および胸部の負傷と有意に関連している。

2.結果

・アンケート回答者の70%が現在、負傷していた。
・アンケート回答者の87%が過去、12ヶ月以内に負傷を経験していた。
・男女共に、腰・骨盤部、肩、股関節が最も負傷しやすい部位だった。
→女性は男性よりも首と胸部の負傷頻度が有意に高くなっていた。
・トレーニング頻度、デッドリフトの自己ベストの向上、ベンチプレスとデッドリフトのトレーニング中の負傷の発生、"lifting straps"の使用などが現在の負傷と関連があった。

3.結論

・エリート以下のパワーリフターでは、怪我が非常によく起こる。
・トレーニング負荷の管理とリフティングテクニックの最適化が重要である。

①トレーニング頻度は怪我と有意に関連しており、パワーリフターは負傷の発生を主に「トレーニング量、強度が高すぎた」と考えていた。
十分な回復時間のない急激な負荷を避けるなど、トレーニング負荷の管理は、パワーリフターの怪我の回避に重要である可能性が高い。

②一方で、アンケート回答者の多くが、障害の原因の一つとして「トレーニング量、強度が高すぎた」を挙げており、リフティング技術が負傷の原因であると答えたのはわずか5%だった。

③しかし、負傷しているパワーリフターの多くは、トレーニング頻度が低かった。特にスクワットとベンチプレスの頻度が低い。これは現在負傷している部位だけではなく、股関節、大腿部、腰部の怪我とも関連していた。 この関連性は2つの相反する理由による影響である可能性がある。
➡トレーニング頻度が低いことが「トレーニング不足」による負傷の危険因子であるか。
➡現在負傷しているパワーリフターが怪我のためにトレーニング頻度を下げざるを得なかったか。


私の考え

「パワーリフティングを数年やったら70%の確率で何処か怪我するよ」
「パワーリフティングで何処も怪我しないでいられる確率は30%だよ」
と言われたら、やめますか。続けますか。

私自身、BIG3を散々やっておきながら「危険だからやめたほうがいい」なんて言う気は微塵もございません。

私の主張は一つです。
どのようなスポーツでも健康の範疇を超えれば、どれだけ安全に配慮しても、身体に良いわけはなく、大なり小なり何らかのリスクを負います。
「過ぎたるは及ばざるが如し」
健康において、やらなさすぎも、やりすぎも、身体にとっては不健康です。
競技スポーツを行う方はそれを承知で行うべきだと考えています。

そして、そのリスクを想定し、回避、軽減するためのトレーニングを十分に組み込むことがパワーリフターの努めであり、コーチ、トレーナーの務めだと考えます。

一生、今の強さのままではいられません。
一生、自己最高ベストの重量は挙げられません。
競技者としての終わりは必ずきます。
どの競技レベルで、いつまでそのレベルで続けるのか。
引き際を見極めるのもパワーリフターの努めであり
引導を渡すこともコーチ、トレーナーの務めだと考えます。

競技者として

これは膨大なページになるため、割愛しますが"補助種目"に最大限時間を割いてください。
BIG3を強くなるにはBIG3の練習は必須ではありますが、特定の動作ばかりを繰り返し行うことがリスクです。

競技者として、少しでも長い期間、自己ベストを追い求められるように。
競技者として、少しでも負傷率を下げられるように。
どう考え、何をすべきか。

《トレーニングで注意すべき7つのポイントと補助種目の定義》

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