あなたと結婚すると思ってた
「25歳の人ー?」
先生の問いかけに、おそるおそる挙手をする。
視界の端で彼がいる方を見ると、同じように手を挙げていた。
同じだ、と、ちょっと感動した。
高校の、家庭科の授業で、人生とか、ライフスタイルについての話をしていたときだったと思う。
授業の中で、先生が言った。
『何歳くらいで、結婚したいですか?』
どんどん言っていくから、手あげて!
そんな感じで。
あなたも、同じタイミングで手を挙げた。
きっと私と同じ未来を見ていた。
私はあなたのことが好きで、あなたは私のことが好きで、私達は付き合っていて。
17歳。「その時」まで、まだ8年ある。
未来が眩しかったし、わからない不安さもあった。
でも、楽しかった。幸せだった。
小中高と一緒だった。
幼馴染ではないけれど、当たり前にそこにいる存在だった。
手の届かないどこかに行くなんて考えられない。
そこにいてくれるよね。
私のそばに、いてくれるよね。
恋をしたのは中学に入った頃。
それから付き合って、高校へ。
私達は仲が良かった。
話していても会話が長く続いたし、沢山好きと言い合った。
理想の恋人。理想のお付き合い。
不安もなかった。喧嘩も、したことがない。
それが逆に、まずかったのかなぁ。
将来、何になる?水族館の飼育員。いいねそれ。
地元に、残るかな?出ていこうかな?
一緒に住んだら、とか。どこに住むか、とか。
どう答えたのか、どう答えてくれたのか、もう思い出せない、いくつものあなたとの会話。
子どもは、男の子?女の子?
そんな話も、したことあったっけ。
なんで、別れちゃったんだろうな。
理由はわかっている。
お互いに、二人ともが、未熟だったから。
浮気でも、他に好きな人ができたのでも、相手を嫌いになったわけでもない。
ただ、もう一緒に生きていけないと思ったからだ。
そんなことで。
けれどもそんなことが、あの時の私達にはすごく重たいことだった。
夢は、叶うこともあるし叶わないこともある。
あなたは地元を離れて就職して、私は地元で働くことにした。
彼の噂が耳に入らないほど離れたら、忘れられるかな。忘れたいな。
だから、あなたが遠くに行ったのは私にとって好都合だった。
もう一生会わないんだろうなって思った。
あなたのことを、早く忘れてしまいたかった。
成人式で。地元のフリマで。
あれから、2回ほどすれ違った。
ひと目見ればわかるよ。
横からでも、後ろ姿でも。
今はちょっと、自信ないけど。
過去に好きだった人の、付き合っていた人の姿なんて、あんなに何度も目で追いかけて焼きつけておいて、わからないわけがない。
だからその2回とも、あなたの顔をちゃんと見れなかった。
もしもまた後悔の気持ちが込み上げてしまったら。目が合ってしまったら、どうしよう。
怖かった。
過去のきれいな思い出が壊れてしまうこと。
あなたのことをもう何とも思ってない自分に気づくことも。
私も、あなたも、もう来年には25歳。
この前、ずっと見れないでいた成人式の集合写真のあなたを、初めてちゃんと見たよ。
魔法は、解けた。
あなたって、こんな顔してたんだね。
なんか、安心した。
あなたは今の彼女と結婚するの?
もう、してるの?
それとも、そろそろ私を迎えに来てくれるの?
その時は、今さらだねと笑ってあげる。
同じ幸せを夢見ていたのに、今では別々の場所で別々の方を向いている。
少し切ないけど、それも仕方ないか。
またあなたと私の縁が交差する時が来れば、あの頃の話がしたい。
ごめんねでも、ありがとうでもなく。
楽しかったねと笑いたい。
それだけでいい。
あの頃、私はあなたと結婚すると思っていた。
そんな未来を生きていくと信じていた。
あなたもそうでしょう?
ふふ。私達、面白かったね。
でも今、ちゃんと幸せだね。
良かった。
ね、元気でね。
これからも、元気でいようね。
じゃあ、またね。