懐かない元野犬との生活
偶然社会学者で作家の岸政彦先生のXに出逢い、先生の愛犬ちくわちゃんの投稿にすっかり夢中になってしまった。
そしてほんの少し先生を羨ましくも思っている。
ちくわちゃんはウチの愛犬あずきサンと同じ元野犬の保護犬。
ちくわちゃんの可愛いさはビジュアルの良さも勿論だけれどもなんと言ってもその表情。
天真爛漫ないかにも幸せそうな笑顔を見せてくれる。
SNSの愛犬の投稿に笑顔と称したものが沢山見受けられるけれど実際はストレススマイルがとても多い。
でもちくわちゃんの笑顔は正真正銘の本物だ。
見てるこちらまで幸せになる。
では何故それが羨ましいのかと言うとウチのあずきサンは笑顔になったことがないからだ。
成犬になってから捕獲され100頭以上いる愛護センターで譲渡先が決まらず2年以上過ごしていたあずきサン。
初めて対面した時の彼女は部屋の隅っこでおすわりの姿勢で犬なのに物凄い猫背になって下を向いてブルブル震えていた。
そして絶対にこちらと目を合わせようとはしなかった。
その位怯えていて警戒心がMAXだったのだ。
そんな様子を目の当たりにしてもう正直可愛いのか可哀想なのか自分の感情が良くわからなくなっていた。
多分両方だったのだろう。
そしてウチに向かい入れると即決したのだ。
しかし実際ウチで一緒に生活をしてみると想像以上に大変だった。
まず兎に角怖がりで恐怖が限界を超えると歯が出るタイプの犬なのだ。
実はセンターのスタッフ2人に咬みつくという前科もあった。
ウチに来て最初の1週間で私も3回本気咬みされた。
どの位本気かというとガッツリ出血して涙が出るほど痛かった。
それも散歩中うんちを取ろうとしゃがんだ途端ビックリして咬む、絡まったリードを解こうとしてしゃがんだ途端ビックリして咬む等じゃあどうすれば良かったんだよと言いたくなる様な状況で咬むのだ。
まぁコチラもこの動きは怖いのだなと段々と学習していきその後咬まれることは無くなったけれど。
そんなこんなで1年程が経った。
全く懐かない、、、。
散歩に行く時のハーネスとリードの着脱時以外は近寄ろうとすると逃げる。
オヤツを持って呼んでもガン無視。
ある時プチンと自分の中の何かが切れた。
こんなに思っていてもあずきサンは全然わかってくれないんだなと。
あずきサンがウチに来てから夜は毎晩リビングに布団を持って来て同じ部屋で寝ていた。
同じ空間で寝ると動物の信頼を得やすいと昔ムツゴロウさんが言っていた記憶があったからだ(うろ覚え)。
でも寝ている私に近づいてくるわけでもないし意味ないのではと思いプチンと何かが切れたその夜は1年ぶりに自室で寝ることにした。
その夜、深夜バイトから帰って来た次男に「お母さん起きて!あずきが大変だ」と起こされた。
慌ててあずきサンのいるリビングに行くとあずきサン初めて対面した時と同じ格好(背中丸めておすわり)でブルブル震えていたのだ。
突然夜1人にされて不安になってしまったのか?
ハッキリと理由はわからないけれどもう可哀想で申し訳なくて私も泣きそうになってしまった。
ごめんねごめんねと言いながら撫でてあげた。
いつもは撫でようとすると直ぐ逃げるけれどその時は逃げないで撫でさせてくれた。
その後布団を持ってリビングに行きいつもの様に寝てそっとあずきサンの様子を窺うと自分のベッドでスヤスヤ眠っていた。
この件でとても反省した。
懐かない懐かないと思っていたけれどあずきサンなりに彼女のペースでちゃんと歩み寄ってくれていたのだ。
現在彼女が来て2年半以上が経つ。
今は私は自室で寝ているのだがあずきサンも後から着いて来て私と同じ布団で寝ている。
その時必ずお気に入りの人形を咥えて持って来るのが本当に愛らしい。
そう、あずきサン随分懐いてくれたのだ。
でも尻尾を振ったことは未だに無いし、笑顔になったことも無い。
控えめにそっと寄って来るけれどはしゃいで乗っかって来る様なことも絶対無い。
家庭犬としては物足りない部分もあるけれど足りない部分はちくわちゃんの投稿を見て(勝手に)補填しているから大丈夫。
ちくわちゃんはいいなぁ、岸先生が羨ましいなぁと思いながらスマホから顔を上げるといつもの無表情でコチラをジット見ているあずきサン。
その姿も物凄く可愛い。
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