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紅葉の里へ 海辺の一家2  

なっちゃんの運転する軽自動車は、紅葉が始まった山道を走っている。
助手席のじっちゃんがプシュッと音を立てて缶ビールを開けた。
これが楽しみで、孫娘を引っ張り出したようなものだ。

後ろの席には、清ばあちゃんと柴太郎が仲良く並んでいる。
こっちは、お茶とおせんべいチームだ。

一行は、ばあちゃんの甥っ子の所へ遊びに行く途中だった。
朝市で買ったみかんの大箱も積んである。

甥は、山の中で きのこ工場 を経営しているのだ。
地元のスーパーやネット販売で、成り立っているらしい。
みかんは、そこの従業員へのお土産である。

工場に着いて車を止めると、柴太郎が真っ先に飛び降りた。

ひんやりした山の空気が心地よい。
あたりの木々の紅葉も一段とあざやかで
遠くの山など、まるで燃えているようだ。

声を聞きつけて、甥っ子が顔を出す。

「お〜 よう来たの」
「まあまあ あんたも 変わりないかい?」

事務所には、ばっちゃんの幼なじみの顔も見える。
ここは、ばっちゃんの生まれ故郷なのだ。

工場のそばにある自宅に案内され、一行は手足を伸ばした。
お嫁さんが、炊き立ての きのこご飯と イワナの塩焼きで もてなしてくれる。
野菜の天ぷらもいいし、採れたてのなめこの味噌汁がたまらない。

近くの渓流の音を聞きながら
「料亭みたいやの〜」と、じっちゃんはごきげんだ。

お供えしてあった手土産のおまんじゅうを開けてお茶になると
今度は女性たちがにぎやかになった。

「なっちゃんは、運転手かい?」お嫁さんに聞かれて
「はい、でもちゃんとお駄賃もろてます」と夏美はにこにこしている。

「この娘は優しい子でな」 ばあちゃんが目を細めると

キューン …
庭先に繋いだ柴太郎が、鼻を鳴らして散歩をねだった。


<    後書き >

このシリーズは

高齢者向けの季刊誌に載せるので
思い出話でも 身近な出来事でも 何でもいい。
誰でも読める 短いものをという オーダーでした。

最初は 単発で書いていましたが、それでは話が続かない。

で、考えた結果 サザエさんのような形式にすれば
話の広がりと継続が スムーズになると思い
清ばあちゃん一家を誕生させた次第です。

お正月に投稿した「手作りかるたを作ってみた」は
清ばあちゃん一家の誕生前に 単発で書いたもののひとつです。


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