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初めてのスマホ 海辺の一家3
庭は、秋の花でいっぱいだ。
丹精こめた黄色い大輪の菊が、朝の日差しに輝いてる。
白い小菊も風に揺れている。
清ばあちゃんは、スマホを片手に夢中で写真を撮っていた。
なにしろ、初めてのスマホだ。
写真を撮るのがうれしくてたまらない。
その時、頭の上が騒がしくなった。
見上げると、柿の木のてっぺんでヒヨドリが何やら揉めている。
赤くなった柿の実を取り合っているみたいだ。
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「これ、ひとんちの庭でケンカせんと…仲良う食べや」
つぶやきながら、ばあちゃんはヒヨドリにカメラを向ける。
何枚か撮った所で、柴太郎が鼻を鳴らして擦りよって来た。
頭を撫でながら、ふと思いついて
「お父さん ちょっと…」
とうとう 茶の間で寝転んでいたじいちゃんまで、呼び出す。
「… なんや?」
のっそりと出てきたじいちゃんも、柴太郎と並んで写真に収まった。
このスマホの火付け役は、なっちゃんだ。
夏の花火大会も終わったある日のこと
「おばあちゃん、そろそろスマホにしない?」
「う〜ん でもスマホて難しいやろ?」
「最初は、ちょっとね。でも、覚えると便利だよ〜
私が ついてるから」
「う〜ん…」
そんなやりとりから数日たって
「おばあちゃんの好きな花の写真を撮って
由紀おばちゃんに送ったらどう?」
「そうやねぇ」
「蒼ちゃんや花ちゃんの写真も見られるよ」
「そら、ええね」
花火大会の夜に
「孫の写真には弱いよね」と
笑いながら、帰省した由紀おばちゃんと立てた作戦だ。
おばあちゃんが、ちょっと乗り気になったところで
なっちゃんは、役場のスマホ講習会の案内を差し出した。
「ほら、こういうのもあるよ」
「へえ〜 そうかい」
メガネをかけて、案内書を読んでいたおばあちゃんは
「そしたら、思いきってやってみようかね」
「よっしゃぁ!」
なっちゃんは、早速おばあちゃんを連れて
お店に行き、さっさと契約を済ませてしまった。
画面が大きくて見やすいスマホを選んだおばあちゃんは
それでもちょっと不安そうだったが
やがて、スマホ講習会の初心者コースに参加して
なんとか、画面をさわれるようになった。
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すると、その夜すぐに
「おばあちゃん
スマホデビュー おめでとう🎉」
というメッセージに 蒼太くんと花ちゃんの写真をそえて
一人娘の由紀からラインが届いた。
すっかり喜んだおばあちゃん
文字を打つのは、まだ苦手だが
今では毎週のように ラインでいろんな写真を送っている。
< 後書き >
ちょうど この頃 町役場では
実際に「高齢者向けのスマホ教室」が 開かれていたので
物語に取り入れる事にしました。
写真を撮ったり ラインで送ったり と 話が広がるかな…
という 狙いもあって。
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