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[連載小説] オオカミは もうそこまで来ている #5 南海トラフの足音 耐震基準が怪しい

父さんの心配事

休日の午後、缶ビールを片手にスマホを見ていた健治父さんが言った。

「なっちゃん 仕事 忙しいか?」
「それなりに… なに?」
「ちょっと頼みがある」
「何よ むつかしい顔して」

夏美は、スマホのライン画面から目を上げて用心深く尋ねた。

「うん… 実はじいちゃんの家の事だ。あの家は、今度の地震に本当に持ちこたえられるのか? ちょっと心配になって来た」

「え〜 でも あそこは新しい耐震基準だから大丈夫だって言ってたじゃない」

「その耐震基準が怪しいんだ。最近の大きな地震だと、新しい家もあちこちで倒れてるらしい」

父さんは、ビールを飲み干すと、倒壊した家のスマホ画面を差し出した。

「これも、新耐震基準の家らしい」

「そんな… テレビでもいろいろ観たけど、倒れたのは古い家だと思ってた」

「俺も、何となくそう思ってたよ」

「じいちゃんとこの家が倒れたら、食糧備蓄どころの話じゃないよね」
なっちゃんも不安そうに顔を曇らせる。

「それでな、おまえ。ネットで詳しく調べてくれないか」

「うん… いいよ。でもちょっと時間かかるかも。仕事の方も大変なんだよ」
夏美は、在宅でIT関連のリモートワークをしているのだ。

「すまんな〜 ムリ言って。とりあえず、じいちゃん達や母さんには内緒な。心配するから」

「そうだね。特に母さんは大騒ぎするもんね」

夏美レポートの始まり  木造住宅の被害について

こうして、なっちゃんは情報収集を始めた。父さんは「耐震基準が怪しい」と言った。そこで、まず過去の大きな地震と耐震基準、そしてじいちゃんの家のようなどこにでもある木造住宅の被害状況を調べてみた。

なっちゃんが生まれる前の1995年の阪神淡路大震災から数えても、震度7クラスの地震が、何度も起きている。その中には、もちろん大変な被害を出した東日本大地震もある。そして最も新しいのは、能登半島の地震だ。

耐震基準と木造住宅の被害について、主だったものを見てゆく事にした。

まず、初めてきちんと法整備されたのが
1981年 新耐震基準 震度6強で建物が倒壊しない という基準だ。

その後に起きた大きな地震が
1995年 阪神淡路大震災 震度7
     1981年基準の建物の約30%が
     住み続けられないという被害を出した。

これを受けて
2000年 現耐震基準 1981年基準を強化し
          震度7でも倒壊しない耐震等級1を義務づけた。

この基準が試される事になったのが
2016年 九州熊本地震 震度7が2回発生
     2000年基準の建物の半分以上は被害がないが 
     特定の地域ではほとんどが倒壊大破した。
                結局、全体の何%の家が住めなくなったのか
     はっきりした資料が見つからない。

さらに記憶に新しいのが
2024年 能登半島地震 震度7
                 2000年基準の建物の約20%が倒壊大破し
                 住み続けられない状態。
                 この基準では
                 複数回の強い揺れに耐えられない可能性がある。

検索AIによると
「2000年基準でも、住み続けられない割合は相当高くなる可能性がある。耐震基準の見直しや、補強工事が重要だ」となる。

まったく、なんて事だ!

こうしてまとめて見ると、ぼんやりした不安どころではなく、差し迫る現実を突き付けられる思いがする。

はっきりわかったのは、一番新しい2000年基準でも、倒壊する家がかなりあるという恐ろしい事実だ。テレビは、痛ましい状況をこれでもかというくらい映し出すが、このような明確な事実を伝える事はほとんどない。

観ている方は
( 古い家だから、壊れたのかな )
( 二階建ての瓦屋根だから、上が重かったせいだろうか…)
という捉え方をしてしまう。
最新の耐震基準の家だったとは思いもしないだろう。

そして、耐震基準にはそれ以上に恐ろしい落とし穴が隠されていたのだが、夏美はまだ気づいていない。まとめた被害状況に考え込むのが精いっぱいだった。

なっちゃんは、前に地震体験車に乗った事がある。テーブルの下に潜り込んで、必死でテーブルの足にしがみついた。あれで、たしか震度5だった。

今後、私達を襲うのは震度7強と言われている。あんな生やさしいものじゃない。なっちゃんは、ぞわぞわと背筋が凍る思いがしてきた。

震度5強 物につかまらないと 歩くのが難しい

震度6〜 立っていられない 動けない 逃げられない

震度7強 いったいどうなるんだ

(考えるのも恐ろしい。 でも、ちゃんと知らなきゃ いけない)

とりあえず、冷たい缶コーヒーで頭を冷やしていると「夏ねえ 昼めし〜」下の階で大吾の呼ぶ声がした。

サッカーに夢中のアイツや、すぐ大騒ぎする母さんに、こんな話はできない。下に降りると、大盛の冷やし中華を前に、おあづけをくった犬みたいな顔で大吾が待っていた。

( まったく、この顔を見ると気が抜ける…) と苦笑する。

母さんが、台所から冷たい麦茶を運んで来た。
「父さんは?」
「消防団の防災会議。自衛隊の人が来るんだって」
「そうか 本格的なんだ。父さんも大変だね」


以下 検索AIによる 参考資料 

震度7の地震は、一般住宅に対して非常に深刻な被害をもたらします。特に、1981年以前に建てられた旧耐震基準の住宅は、震度7で約80%が全壊すると想定されています。

新耐震基準(1981年以降)では、震度6強から7程度の地震でも倒壊しないことを目指していますが、それでも新築年でも30%以上が全壊する可能性があります。



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