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[短編小説] ひまわりの迷路に消えた少女

夏休み ”ひまわり迷路探検の日“   一人の少女が姿を消した。
少女はどこへ行ったのか・・・

「ふー、暑い。ノド乾いちゃった」
加奈ちゃんは、ちょっと立ち止まって水筒の水を飲みました。

「ひまわりってすごいな。あたしよりずっと背が高い!」

今日は、夏休みだけど “ひまわり迷路探検の日” なんです。
このところ、お友達にシカトされてる気がして落ち込んでいた加奈ちゃんですが
きょうは、皆が仲間に入れてくれたので、うれしくってたまりません。

「やっぱ、わたしの気のせいだったんだ」
でも、水をゴクゴク飲んでいるうちに、グループの皆は先に行って見えなくなりました。

「あれっ みんなはどこ?」
急いで追いかけて行くと、どこかで話し声がします。

「ね、加奈ってウザクない?」
「きらわれてるの、わっかんないのかな」
「 ……… 」

加奈ちゃんの心は、凍り付いてしまいました。
もう一歩も、足が動きません。
小さな水筒が地面に落ちて、水がこぼれました。

「きらわれてるの……わっかんないのかな」
その言葉だけが、アタマの中で響きます。

遠くから聞こえるセミの声も、耳には入りません。
ガヤガヤとにぎやかな声も、遠ざかって行きました。

お昼になって、近くの河原の木陰でバーベキューの準備が始まりました。
一番のお楽しみですから、皆大騒ぎ。

「みんないるかな~」 先生も大忙しです。
「は~い」      元気な声があがります。

 
でも、人数が一人足りません。

「あれっ、加奈ちゃんは?」

どこを見回しても、加奈ちゃんの姿がありません。大変です。
バーベキューは中止です。

「お~い、加奈ちゃ~ん!」

皆で ”ひまわり迷路”の中を探しました。
警察犬も捜索に加わりました。
迷路の真ん中に、小さな水筒がころがっていたけど、加奈ちゃんはいません。

暗くなっても、翌朝になっても、一週間たっても、見つかりません。

そのうち、”ひまわり迷路”は閉鎖されてしまいました。

「あそこに入ると、出て来れなくなるぞ」
「加奈のおオバケがでるぞ」

そんな噂も広まっています。

でも、あきらめなかったお友達がいます。
あの時、一人だけ加奈ちゃんの悪口を言わなかった早紀ちゃんでした。

早紀ちゃんは、誰にも内緒で、毎日 ”ひまわり迷路”の中を探し回りました。
「加奈ちゃ~ん! ごめんね~ ごめんね」

加奈ちゃんの残した小さな水筒に、水を詰めて歩き回りました。
でも、どんなに叫んでも返事はありません。

 
そして、今日で夏休みも終わりという暑い日、早紀ちゃんは、もう疲れ果ててしまいました。
「もう歩けないや」

一本のとびきり大きなヒマワリの根本にしゃがみました。

「あれっ」

ふと気づくと、その横に、不思議な白い花のヒマワリが咲いています。
まわりは元気いっぱい、お日様に向かって金色の花を咲かせているのに
小さな白いヒマワリは、しょんぼりとうつむいたままでした。

「不思議なヒマワリさん、お水がほしいのかしら?」

早紀ちゃんは、水筒の水を全部かけてあげました。
すると、白いヒマワリは、ゆっくりと顔を上げて言いました。

「早紀ちゃん……」と。

花びらからしずくが一滴ポタリと落ちました。涙みたいに。

夏休み最後の日、お日様は西の空に沈もうとしています。
ひまわりの迷路は、いつもより、もっともっと金色に輝いていました。

そして、とうとう …… 早紀ちゃんも、帰って来ませんでした。
ただ、ひまわり迷路の中で、二人の楽しそうな笑い声が聞こえた。
と、そんな風にいう人がいます。

いいえ、早紀ちゃんは、帰って来ました。
加奈ちゃんの手をしっかり握り、二人そろって、”ひまわり迷路”から帰ってきた。
と、そんな風にいう人もいます。

 本当のところは、わかりません。
 もう遠い遠い昔のできごとだから。

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