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寸前屋本舗 第四章〜第五章

著者 バッチリー中田

寸前屋本舗

〈第四章 デブ彦中華蕎麦屋本舗〉


寸前屋本舗日本支部は、都道府県に一つずつ店舗を置いてある

本部と岐阜県のデブ彦店舗以外は、全て都道府県名が店舗名になっており、支店舗では岐阜県のみが例外である

岐阜県のデブ彦店舗だけ何故?

この話誰が興味あんねん!と兼見ならツッコミを入れそうだが、意味がなくは無いし作者は興味がなくも無い

因みに、プラン9のヤナギブソンの持ちネタを、ヒントに模倣してみた

この話を掘り下げても、本当に感心のある読者はいないかも知れない

たが、そこにこそ話を作る意味があると筆者は考える

哲学的な話なので、「デブ彦の話なんて聞きたくない!」と思う読者は無駄な時間を使う必要は無い
是非、この章は飛ばしてもらいたい

だが興味深いのは、筆者が何故わざわざ無駄な時間を作ったのか?である

どうして、この人はこんな話をしているのか?

昔、NHK杯テレビ将棋トーナメントを見ていた時の話だが、その頃の私は将棋を見るのが面白くて、毎週VHSにビデオ録画していた
日曜日は仕事で、放送時間にはテレビを見れないので、家に帰ってから録画したビデオを見るのが楽しみだった

その日は、羽生さんと丸山名人が対局をしていた
解説のカンキラダムス(神吉宏充七段、将棋棋士)が羽生さんの逸話しはじめた

羽生さんの天才振りを伝えるエピソードだ

「プロの棋士が百人いて百人がここに打つという局面で、羽生さんは違う一手を打つんです、しかも勝ってしまうから凄いんですよ」と話していた

更に余談で羽生さんが一番凄いのは、なんと言っても収入が凄いとも言っていた

藤井聡太名人にも言える事だが、普通の棋士なら手順を間違えたと考える局面でも、羽生さんや藤井聡太名人のような天才が同じ手順をした場合、相手は想定外なことで混乱してしまうそうだ

要するに一見無駄に見える事象でも、実は非常に重要な問題の可能性があるという事なのだ

一度書いてしまった文章は、きっと必要な時間になる
今は誰にも分からないが、この文章も羽生さんの一手であることを祈る

さて、危険を承知でデブ彦について続けて書いてみる事にしよう
読者には、是非とも貴重な暇を使って貰いたい

ここまで読んでくれた読者には感謝する

この続きを期待する欲がある者がいるなら、いつかあなたの顔を見てみたい


デブ彦の正式名称は、デブ彦中華蕎麦屋本舗である

岐阜県岐阜市日の出町にある老舗の中華蕎麦屋で、この辺りに住む人達のソウルフードだ

デブ彦店舗がある建物の一階が、デブ彦中華蕎麦屋本舗で路面店になっている
大通りを入ってすぐ見える、豚がハッピを着ている暖簾が印象的だ

いつも数名の客が並んでいるが、回転が早いので長くても十分待てば入れる

暖簾をくぐり、磨りガラスの引き戸をガラッと開ければ
四人掛けの木のテーブルが規則的に並んでいる

どこか、懐かしい風景が目に飛び込んできた

従業員の若い娘に、奥のテーブルに案内された
テーブルには既に先客がいたが、そんな事は誰も気にはしない

従業員の若い娘は、僕に聞いた

(従業員の若い娘)
「いらっしゃい、お一人ですか?」

僕は一人だったので答える、一人ですと

続けて彼女は、生憎満席なので相席になると僕に告げる

僕は構いませんよと、簡潔に伝える

すると彼女は笑顔で一番奥の、そう、たった今僕が座った場所に案内してくれた

僕は彼女にありがとうと言うと、彼女は会釈する

(従業員の若い娘)
「ご注文お決まりになりましたら、お声をかけて下さいね」

そして、すぐそこの配膳台でコップに水を入れ、僕の目の前に置いてくれた

(従業員の若い娘)
「どうぞ、お客さん初めて来られましたん?なんか、分からへん事あったらいつでも、呼んで下さいね」
と優しく笑って、別のテーブルに注文を取りに行った

僕の目の前で、ずっと男の話で盛りあがる二人の女性と僕の間にあるメニューを、僕は徐に手に取った

デブ彦中華蕎麦屋本舗menuと書いたメニューをゆっくりと開く

メニューには大きな文字で、中華蕎麦五百円、カレー中華蕎麦五百円と書いてある

ページをめくるとドリンクメニューが書いてあった

さっきの彼女が戻ってきた

(従業員の若い娘)
「ご注文決まりました?」

僕はカレーラーメンを頼んだ

彼女は、かしこまりましたと言って、少し間を置いてから、麺の固さやスープの濃さの好みを聞いてきた

僕は、麺は少し硬めでスープは普通と注文し、追加でメンマ、もやし、ネギを多めで更にチャーシューをトッピングし、キムチとニラ唐辛子にガーリックフライを頼んだ

彼女は少し驚いていたが、天使のような笑顔で言った

か し こ ま り ま し た

何故か、もの凄くゆっくりと、、、

彼女が何故あんな風に、言ったのか分からなかったが、僕は気がつくと、店内を狭しと駆け回る彼女を目で追っていた

相席していた女性の一人が不思議そうに

(相席している女性)
「あの、失礼ですけど?」

彼女に夢中で挙動不審な僕に話しかけてきた

僕はハッとし、ぐっと堪えて相席の女性を見た

なんだか意識が少しボンヤリとしていたが

(僕)
「はっはい?」
と相席の女性に答える

少しだけ、意識がはっきりしてきたようだ

(相席している女性)
「初めて来られたんですよね?デブ彦」
相席の女性が聞いてきた

その時に気づいたが、相席の女二人のうちの左側の女性がいつの間にか、居なくなっている

左側の女性が、どこに行ったのかは気になるが、兎に角今は目の前の女性に集中して

(僕)
「はい、そうですが何か?」
と答えた

僕は、その時にやっと理解する

この店に入った時から、既に様子がおかしくなっていたのだ

もしかしたら、誰かに嵌められたのかも知れない
だけど最も重要なのは、何事もなく無事に、この店から出ていくことだ

先ずは、現状を冷静に乗り切る、そう、とても自然に

相席の女性は、キョトンとした顔をして、また尋ねてくる

(相席している女性)
「初めてきて、カレーラーメンを頼んで、チャーシュートッピング、キムチ、ニラ唐辛子、ガーリックフライ、もやしとネギとメンマ多めって?」
「そんな頼み方する人、常連さんでも滅多におらへんよ」

そこに、ウェイトレスの彼女が戻ってくる

(ウェイトレスの彼女)
「お待たせいたしました、ごゆっくりどうぞ」
と注文した料理を丁寧に置いて、また別の客へ料理を運ぶ

相席の女性は僕の顔をじっと見ている

(相席している女性)
「このラーメン、ホンマに注文どおりやったん」

僕は完全に正気を取り戻し、注文した、いや、注文した筈のラーメンを見た

注文した覚えがない、、、全く記憶がない、全く思い出せない、、、だが、とても自然にがマスト最優先事項だ

僕は相席の女性に
(僕)
「はい、間違いないですよ」
と当然のように答えて、テーブルの左端の木箱に入った竹の箸をパキッと割り麺を啜った

ポーンピーンポーンピーンポンピンポンピンポーンピー
(頭から身体中に刺激が伝わってくる音)

(僕)
「美味い!馬過ぎる!めちゃくちゃ美味いわ!」
思わず大きな声で叫んでしまった

うわぁー、店内中に響きわたっている

(相席している女性)
「キャハキャハキャハ、おもろい!」
相席の女性は、僕を見て爆笑している

たが、僕の食欲は止まらない、このカレーラーメンが堪らなく美味いからだ

例えて言うなら、そうジブリ作品の千と千尋の神隠しの序盤で、千尋の両親が爆食いしているシーン

あの両親の姿が思い浮かぶ、きっと僕も千尋の両親みたいにガッツいて見えるんだろう

(僕)
「あー美味い、めっちゃ美味い!あー麺も、具もそろそろ、無くなってまう!」
ヤバイ!感じた事がベタな関西弁で、声に出てまう

(ウェイトレスの彼女)
「お客さん、替え玉と追いスープありますよ
「スープはカレーやないですけど、如何ですか?」
あの彼女の、天使の声で悪魔の囁きが聞こえてくる

ぼ、僕は
(僕)
「こっ、このラーメンと同んなじやつ!お願いしますわ!早よ頼むわ!」

しもた、また叫んでしもた
自分で自分がコントロール出来へん、心の声も関西弁になってしもうてる

頭も体も制御出来へん!それに今気づいたけど、さっきまでおった周りの人間が、一人もおらんくなってるやんけ

また今気づいたけど、あの相席の女の顔?ウェイトレスの娘と同んなじやん!同一人物やん

あれ、立たれへんやん、ヤバイ!後ろも向かれへんで、、、どないしょっ、、、

(芥川)
「兼見君ゆっくりと食べて下さいよ」
「今日は月に一度の定休日なんですから、ハハハハハハ」

背後から芥川店舗長の声がする

一瞬全身の力が抜け、体に自由が戻った
振り向くと、芥川店舗長と隣にウェイトレスの娘が笑っていた

(芥川)
「兼見君、美味しいですか?」
「うちの中華蕎麦、お口に合えば良いのですが」
芥川は微笑みながら兼見をみている

(兼見・僕)
「芥川店舗長、僕に何したんですか?」
「洒落なってませんよ!しかも定休日やったんかい!」

兼見は怒りながらも、ずっとラーメンを食べている

(芥川)
「まぁまぁ、後でゆっくり答え合わせしましょう」
「未央奈、後は宜しく頼んだよ」
と言い残して、芥川は入り口の横の扉から出て行った

(未央奈・従業員の若い娘のウェイトレスの彼女・相席している女性)
「お父さん行ってらっしゃい」

未央奈は兼見に視線をもどす

(未央奈)
「初めまして、寸前屋本舗日本支部デブ彦店舗店舗員の芥川未央奈です」
「これから宜しくお願いしますね、兼見君の噂はいろいろ聞いてますから」

(兼見)
「店入った時から何か仕掛けてはったんですか?」
兼見は未央奈に詰めよる、だがラーメンはずっと食べている

(未央奈)
「うーん、うちの店舗員も最初は何人おったんですけどね」
兼見に詰め寄られ、未央奈が種あかしした

(未央奈)
「でも、兼見君がテーブルに座ってからは、私とお父さんの二人やったんやけどね」
未央奈は嬉しそうに話す

(兼見)
「、、、、」
兼見は、ラーメンをやっと食べ終え黙った

(未央奈)
「それと一つ、兼見君には間違え無いで欲しいんやけど、カレーラーメンやなくてカレー中華蕎麦やからね!キャハキャハ」

兼見は少し間をおいて
(兼見)
「おかわり!カレー中華蕎麦お願いします」


〈第5章 まだまだ探す気ですか?〉

(加藤)
「兼見君?」
加藤が声をかける

(兼見)
「あっすいません」
兼見が加藤に答える

(加藤)
「何か考え事してたかな?」
加藤は兼見の顔を覗きこんだ

(兼見)
「いや、芥川さん達と出逢うた頃の事、ふと思い出して」

(加藤)
「ふーん、、、そろそろ行きますか」
加藤は歩き出す

(兼見)
「ちょっと待って下さいよ」 
兼見は加藤を追いかけた


芥川の案内で、加藤と兼見は埼玉店舗第二会議室に入った

第二会議室は、平均的な日本の高校の教室を一・五倍くらいにした広さだ
ナイキのマークの様な形をした、白い大きなテーブルが真ん中にドンっと存在感を主張している
そのテーブルの上には、タブレットが十数個置いていて同じ数の椅子が並んでいる

(芥川)
「加藤さんと兼見君は、僕と一緒に菅原店舗長が到着するまで、この会議室で待機してもらいます」

(兼見)
「出雲さんからの指示ありました?」

(芥川)
「出雲君、、、出雲店舗長代理の指示は、まだ出てないと思います」
芥川は兼見に答えると視線を加藤に向けた

加藤は部屋を調べ始めた

(芥川)
「相変わらず警戒心が強いですね、加藤さんは」
芥川は汗を拭いた

(加藤)
「貴著面な性格なもんで、癖みたいなもんですよ」
「気にしないで下さい」

(芥川)
「埼玉店舗に向かっている店舗員への指示はまだだと思いますが、私の段取りは聞いてますよ」

(加藤)
「で、芥川さんの段取りは?」

(芥川)
「私は、あなた方と菅原店舗長をここで待つようにだけ、指示を受けてます」

(兼見)
「ほな、僕らと一緒ですね?」

(芥川)
「まぁ、そうなりますね」
芥川は苦笑いをし汗を拭いた

(加藤)
「出雲君は伊勢君と違って堅実ですからね、僕の経験上ですが、滅多にトリッキーな動きはしないですけどね」

加藤は第二会議室の壁、天井、床まで調べている

(兼見)
「せやけど、芥川さんが出っ張って来たちゅうのが、滅多な事やないんですか?」

(芥川)
「出っ張ってきた訳じゃないのですが、、、こんなロートル何処に行っても足手纏いになってしまうんでね」
出雲君が、気を利かせて仕事作ってくれたんですよ」
芥川は汗を拭きながら答えた

(加藤)
「ご謙遜を、元暗部店舗長の台詞にしちゃ、ベタ過ぎませんか?」

加藤はテーブルから照明、コンセント、内線受話器など気になった物は片っ端から調べている

(芥川)
「もう古い話ですよ、ほら私芥川の人間でしょ、一応甲賀忍者の家系なんですよ」
「そんなこんなで、暗部にも無理矢理に、放り込まれただけなんですよ」
芥川は汗を拭いている

(加藤)
「それだけじゃ店舗長にな、、、」
加藤が言いかけた時、兼見が遮った

(兼見)
「もーええでしょ!加藤さん」

瞬間、部屋の空気が冷え切った

(加藤)
「兼見君、、、、君、もしかして?」

加藤はゆっくりと兼見に向かって歩き出した

(加藤)
「地面師見ましたね?Netflix?」

(兼見)
「そーなんですわ!加藤さんなら観てる思て、一回仕事場でやりたかったんですよ!」
「この面子やったら、ピエール瀧出来るかも?って考えてたんですわ」
「この部屋入ってきた時から、そらもう心臓バクバクで、お陰で夢叶えせてもらえましたわ、おおきに」

(芥川)
「ふうー騙されました、、、これでは隠密業務なんて出来ませんよ」
芥川は汗を拭いた

(兼見)
「よー言いますわ!そのハンカチ汗吸いすきて色変わってますやん、ひょっとしたら思て見てましたけど、僕がピエール瀧やってピリついた瞬間、びしょ濡れのハンカチをズボンの中に入れたでしょ?」

捲し立てる兼見を芥川は黙って見ている

加藤はずっと部屋を調べ続けていた

兼見は話を続ける
(兼見)
「せやけど、加藤さんが我慢出来ずにツッコミ入れたせいで、ドッキリ終了してもうたから」
「芥川さんアンタ!そのハンカチ素早くズボンから取り出して何も無かったような振りしたんやろ!」
「ほんまは、地面師のオシッコ漏らし爺さんの真似しようとしたんでしょう!真実はひとつしか無いんや!」
コナンばりの推理で芥川を追い詰める兼見

芥川は少し間を置いて
(芥川)
「仮に地面師コントに参加しようとしたとして、あの一瞬でアナタ方に気付かれずに、ズボンからハンカチを出すなんて神技が、私に出来る筈ないじゃないですか?」

(加藤)
「まぁ二人とも、それはいいじゃ無い」
加藤が二人の間に入る

(兼見)
「それ、オードリー春日やん!」
兼見がツッコむ

横で芥川がトゥースをしていた

コンコン
(会議室の扉をノックする音)

(芥川)
「あっ出雲店舗長代理」
芥川がノックに気付き、入口を見る

「えっ」(加藤)
「あっ」(兼見)

三人は、目が飛び出しそうなくらいギョッとしている

(兼見)
「いつからいてはったんですか?」
兼見は出雲に尋ねた

(出雲)
「いつからって、兼見君が『もーええでしょ』って言ってたぐらいからだけど」
出雲はクスクス笑っている

(兼見)
「、、、えらい待たしてもうて、すんませんでした」
兼見は苦笑いした

(出雲)
「皆さんの掛け合いがオモロしろくて、思わず立ち聞きしちゃって、ごめんなさいね」
出雲は微笑んだ

芥川と兼見は何故か照れている

(加藤)
「久しぶりに会ったばかりで悪いんだけど、この後の動き教えてくれるかな?」
加藤は部屋をウロウロしながら出雲に聞いた

(出雲)
「加藤さんお久しぶりですね、娘さんはお元気?」

(加藤)
「元気だよ、出雲君に会いたがっているよ」

(出雲)
「あら嬉しい、いつでも私のとこに来てくれて良いからと、伝えて下さい」

(加藤)
「ああ、言っとくよ」
「だけど、家族会議は開くからね」

(兼見)
「ほんで、僕らどないしたらええんですか?」
兼見が割り込む

(出雲)
「兼見君も久しぶりね、君が芥川さんの隣にいると、昔思い出しちゃうわね」
「だけど、懐かしむのはこれぐらいにしましょうか」
出雲の表情から笑顔が消えた

出雲はスマホを出して三人に近づいた

(出雲)
「単刀直入に言うわね」

(芥川)
「はいお願いします」

(出雲)
「加藤さんと兼見君は、菅原店舗長と合流したら直ぐに本部に向かって欲しいの」
「芥川さんは、私とここに残って下さいね」

(兼見)
「えっ!本部?今からですか?」
兼見が驚く

(出雲)
「ええ、近江君達と一緒にね」

(兼見)
「千早も!」
また兼見が驚く

(出雲)
「菅原店舗長と近江君が、みんなを連れてここに向かってるから、全員を連れていってね」

(加藤)
「久しぶりに蟹食べれるな」
加藤は呟きニヤッとした
そして、まだ部屋を調べ続けている

(出雲)
「ヘリは用意してますから、夜までには本部に入れますよ」
「本部には伝えてますから、歓迎してくれる筈です」
出雲は笑顔で加藤を見た

(加藤)
「じゃ兼見君、みんな来るまでブラ散歩してよっか?」
加藤は兼見を誘って会議室を出た

(兼見)
「ほな僕もこれで失礼します」
兼見は二人に会釈して加藤を追う

(芥川)
「兼見君!あちこち物色しないように、加藤さん見張って下さいよ」
芥川は汗を拭いた

(兼見)
「分かりました、ほなまた!」

(出雲)
「芥川さん、私達も司令室に入りましょうか」
出雲も会議室から出た

ー 良いなぁ、北海道一緒に行きたかったなぁ ー
芥川は想いを馳せ、汗を拭きながら会議室を出る


加藤と兼見は埼玉店舗内をリズミカルに、暫く隈なくブラ散歩ちゅう(yeah)

埼玉店舗は、四階建ての物流倉庫並みの大きさで、広大な地下施設が在り最下四階はシェルターになっている
その広さは、だいたい埼玉スーパーアリーナ程で関東、中部地域《東北も含む場合もある》の中継基地である

(兼見)
「そろそろ、泉ちゃんら着く頃や思うけど」
兼見は腕時計を見ながら呟く

(加藤)
「そーだね、そろそろかな?」
「兼見君、珈琲飲むでしょ」
加藤は缶コーヒーを兼見に投げた

(兼見)
「おっと、すんません頂きます」
「さっき、芥川さんがアンマリ店舗内の備品弄りまわさんようにて、注意してましたよ」

(加藤)
「癖だからね、今更言われても、、、そんな悪いことじゃないと思うんだけどね」

(兼見)
「話変わりますけど、加藤さんの娘さん、出雲さんの事知ってるみたいでしたけど?」

(加藤)
「あー昔話だけどね、出雲君は娘の憧れのお姉さんって感じでね」

(兼見)
「バケモンの正体知ったら、近寄れんよーなりますよってに」

(加藤)
「いやーそれがね、うちの娘も変わり者なのか、よく分からないんだけどさ、化け物の方に憧れちゃってるんだよ」

(兼見)
「ほー変わった娘さんですね」

(加藤)
「心配なんだけどさ、ある意味心強いよ」

二人は煙草を吸いながら笑った

(兼見)
「ケホケホッ、ちょっと、笑かすから、咽せましたわ、、、」
兼見は笑った拍子に煙草の煙が喉のへんなとこに入って咽せていた

(兼見)
「おっ!加藤さんほら、やっと来ましたよ」

(加藤)
「おー噂をすれば、我らが店舗長殿のご登場だ」
加藤は、孫に会えた時のお爺さんのような優しい表情をしていた

隣にいた兼見は
ー 噂?してへんかったけどな? ー
と思った

泉達を乗せた車が加藤達の前に止まる

(千早)
「兼見先輩!お久しぶりです」
千早が車から出て兼見に近づく

(兼見)
「おー千早やないかい!久しぶり、元気そやな」

千早は二人に会釈する

(千早)
「まぁーボチボチですけど」
「加藤さんもご無沙汰しています」

(加藤)
「近江君なんか大人になったね!最近バリバリやってるらしいじゃないの?」
加藤が千早を見て微笑む

(千早)
「いえいえ、お恥ずかしい」
千早は照れ笑いした

(真夏)
「加藤さん、兼見君お待たせしました。」
真夏が、小走りで二人に向かって来た

(兼見)
「真夏ちゃん、色々大変やったなー」
「あっコレ泉ちゃんのスマホ」
兼見は、笑顔でスマホを手渡した

(真夏)
「店舗長のスマホ、すみませんでした」
「ありがとうございます」
真夏が代わりに礼を言う

(兼見)
「泉ちゃんは?」

(真夏)
「すぐ出てくると思いますけど、皆さんに会うの恥ずかしいんじゃないですか?」

(兼見)
「なんでや?」

(真夏)
「スマホ忘れて部下に迷惑かけたって、気にしてましたから」
真夏がちょっと嬉しそうにした

(兼見)
「ほんま、変なとこ気にすんねんからな」
兼見は呆れ顔で話した

(千早)
「そのツンデレな感じ、可愛いやないですか?」
千早が割り込んだ

(兼見)
「お前、意外な趣味してんな?」
「ケホケホッ、変なことゆーから、また、咽せたやんけ、、、」
兼見は笑って、咽せている

(千早)
「そんな訳っ、、、無いこともないですかね、、、」
千早は照れながら、ゆっくりと歩いてくる泉を眺める

(兼見)
「確かに、充ちゃんの従姉妹だけあって、雰囲気はクリソツやもんな!」

(千早)
「ちょっ」

(真夏)
「んっ?誰の話ですか?」
真夏は二人の間でキョロキョロしている

(兼見)
「ケホッケホケホ、、、」

(加藤)
「煙草、やめた方が良いんじゃないの」

千早は、兼見が咽せているのを見て、ほくそ笑んだ

(加藤)
「お疲れ様だったね、菅原店舗長」
加藤は、泉に近づいて肩を抱いた

(泉)
「お疲れ様です、、、ご迷惑かけてすみませんでした」
泉は、まだ落ち込んでいた

(兼見)
「なんや、いつもの調子どこいったんかな!」
「リーダーがそないに元気あらへんかったら、僕らもやる気無くなるがな」
兼見は笑いながら、泉の頭を軽く撫でる

泉は兼見の腕をはらった

(兼見)
「そー、その調子やでー!感動の再会堪能したいけど、ゆっくりもしてらへんさかいなー」
兼見は仄めかすように話した

(千早)
「、、、急ぎの業務ですか?」
千早が尋ねる

(加藤)
「そー、兼見君が言った通り、だからご挨拶はヘリの中でね」
加藤が空を見上げて答えた

(真夏)
「ヘリ?」
真夏もつられて空を見上げる

バリバリバリバリ
(ヘリコプターの音)

(加藤)
「もうお迎え来ましたよ、着いたばかりで忙しないけど、ヘリに乗って下さい」
と言うと、加藤はヘリコプターに乗り込んだ

皆も加藤に続いて、ヘリコプターに乗り込む

(真夏)
「店舗長って、蟹好きでした?」
真夏が泉に聞いた

(泉)
「わたし、甲殻アレルギー、、、寒いのもヤダし」

加藤心夏、吉田兼見、近江千早、菅原泉、藤原真夏、聖弥フェイトーザ、奥山公、馬庭流、鶴岡稔の九名は寸前屋本舗本部がある五稜郭へ向かう

続く
























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