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🍎偏差値45の教員。先生になる



遅れて行った焼肉店ではすでにメニューが注文されており、2時間食べ放題プランになっていた。ドリンクバーにカルピスを取りに行き席に戻ると、ハラミやナムル、牛タンにワカメスープが運ばれてきた。私と青井先生の他に、理科の香川先生、英語の金田先生も参加していた。

青井先生は28歳、香川先生は25歳、金田先生は24歳で私と同じ新卒。女性は私と青井先生の2人だった。

乾杯をしたと同時に金田先生が、
「何か、学校って思っていたのと違いました。」と、言い出した。金田先生は、小学生の頃から教員になることが夢で、恩師のようになりたかった。とビールを飲みながら話し出した。給料が高くなるから親に勧められて大学院まで卒業をし、採用試験も受かっている。

それでも、理想と現実の狭間で自分の立ち振る舞いがわからないでいる金田先生を見ていると、美しい姿しか想像ができなくなる夢というものは絶望を帯びていて終わりを見させるのも早い。
「始まってないのに、メソメソすんな。金田。誰よりも高学歴だかんな。金田。」
と、青井先生が金田先生を励ましたあと
「横山さんは何で先生になろうと思ったの?」と、聞いてきた。
「できることなら東京で働きたかったです。丸の内線沿いのOLになって、ルイヴィトンのバックを持ってお昼は同僚とランチしたかったです。でも、できなかったんです。」
「それ、面白いじゃん。」
「全然面白くないですよ。」
「いや、面白いよ。まさかの出来事が起こるなんて人生すぎるでしょ。」
青井先生は、地元が群馬県だけど採用試験に落ちてここで1人暮らしをしながら臨時採用教員をしている。教員になりたかったが、採用試験に受からず2年程度で学校移動をしているそうだ。曙中は2年目になる。移動が多い上に立場が弱いので、噂がまわりやすい。職員間のコミュニケーションには気を配っているそうだ。

香川先生は今年で曙中学校3年目になる。職員室で気をつけた方が良いことを教えてくれた。
「横山さんの職員会議の発言は確かに良くなかったかもね。嫌々やっている先生も部活動のために教員になった先生もいるからさ。勤務時間とか会議で言われても俺らではどうしようもできないから。」
テニス部の顧問だけあって真っ黒に日焼けしており、暗い店内では白い目がギラギラしてやけに眩しかった。
私は黙ってハラミを食べた。口の中でとろける肉の脂が体に吸収されていきエネルギーに変わる感じがする。乾いた心が満たされ始めていた。生き物をいただくということは尊すぎる。

「まぁ、でも明日は曙中の生徒についての連絡会だよ。生徒のことを知るとまた印象が変わるし、楽しくなってくるよ。」と、青井先生はビールを一気飲みして3杯目を注文した。
「それと、外では先生呼び禁止だからね。先生呼びを外でするときは、頭にドクターをいれてや。」と、付け加えた。
ドクター青井先生はさすがに盛りすぎだ。


連敗ばかりで悔しくなり、負けじとカルピスの一気飲みをした。
21時半には解散をし、22時には家に着いていた。
泥のように眠り、大学時代の夢を見た。




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