真夏の夜の夢が醒めるとき#6
8月初めの金曜の夜中、自転車の自損事故で救急搬送され、外傷性くも膜下出血と左鎖骨骨折で、全治2週間。
休養を終えて帰宅したつもりだったが、実際にはまあまあ後遺症が残った。とにかく、めまい。
急に立ち上がるのはNG。
急に横になるもNG。つまり速い動作で体勢変えるのは脳に血液が回らないから、動作は基本、ゆっくりと。
そして、歩いていても突然、くら〜んと回るような感じがやってくる瞬間があって。母のシルバーカーが必要か?と思われたが、まだ50代でシルバーカーは使いたく無い。そこで持ち手が伸縮して、横移動も滑らかなスーツケースを購入。
事故入院するまでは、生活の足は基本、自転車だった。野菜や水物をちょっと買えば、手に持って家まで歩いて帰るのは女ではたかが知れた量しか運べない。機動力と運送力を兼ね備えた自転車は、主婦の必須アイテム。
少しくらい遠くても、アシスト付き自転車にしてからは、遠くの大きなスーパーまで足をのばして買出しもしていた。しかしめまいが残っていては、当分怖くて乗るワケにいかない。
そして退院時に医師確認したけれど、車の運転もしばらくNGだった。
また要介護、この時は1だったか?の母のため、入院前はデイサービスに行かない日はなるたけ散歩に行っていたのだが、退院から1ヶ月くらいはそれも出来なかった。
2週間、うかうか寝放題だった身体はだいぶなまっていた。
ちょっとした作業を終えると、一休み。続けて作業したくてとも、不意にめまいがやってくるので収まるまで座るか、横になるか。
それでようやく以前のあたりまえに出来ていた家事の7割を消化する。
そんな中、わたしが帰ってきて安心感が出たのか、母は情緒不安定気味のため、夜間だけでなく日中も尿の粗相が続く。
もちろん、防水シートは敷いてあるが、敷布に使っている物には尿がしみたら臭うので、さっさと洗わなくてはいけない。履いていたスウェットのズボンだって洗わないと。
めまいに苦しむ娘の手間を減らそうとは思わんのか⁉️
糖尿病の薬のせいか、母の尿は臭い。この尿臭の対策のため、カーテンは殺菌、及び消臭機能付きだわ、加湿器はオゾン発生する高機能型にして、少しでも臭いをとるよう努めてきた。
我が家は広くない。
母が寝起きしている同じ部屋で、
飯を食べ、訪問者があればこの部屋に通す。
その部屋で、ふとした時に尿臭がする。
多分、介護生活の中で最も日常的であり、介護する側のストレスを薄く、長く刺激し続けるのが、この尿臭問題だ。
母は意外に自分の身体からの排泄物の臭いだからなのか、この尿臭に気が付きもしない。
臭くないか?ときいても、不思議そうな顔をして、わからないと答える。
鼻も耳も舌も、みーんな感覚が鈍くなった。
耳は補聴器がなければ会話をききとれない。
鼻も以前から比べたら、だいぶお馬鹿さんだ。臭いで何かに気付くということが無い。
料理自慢だったのが、今や塩味、甘味、酸味の区別もあやふやらしい。
ある時、私が作った夕飯を食べ終え、汚れた食器を重ねつつ、しみじみと一言。『もうあたしの舌に合う味の物は出てこないのかね』そう言ってため息をついた。
真横でそれを聞いていたわたしの額に青筋が立ったのを、母は気付くまい。
メラッとくる怒りを感じたけれど、怒ったところで、この人は何が原因で怒られているかさえ理解しない。
…とまあ、この段階でも相当に母の世話が嫌になっていたのが、今ならよくわかる。
自分のままならない身体を引き摺るようにして。それでも母の世話、つまり高齢者の生活の質を落とさない努力を強いられる事に飽き飽きしていた…のを自分が一番、自覚出来ていなかった。