砂の城

序章

読経の声が一段と大きくなった。
香の煙が再び勢いを増した。
合わせる掌の先が白く煙るほど、香が焚かれた部屋の中で薬子は考えていた。
何が起こっているのか
何故こんなことになったのか
父亡き今、この先どうなるのか
いや、何よりも母上をお支え申さねば。長く連れ添ってこられた父上とまさかこんな形でお別れするとは、想像だにしなかったことだろう。
そう、誰もこのような事になるとは思っていなかった。久しぶりに屋敷にお戻りになり、母上の剣幕にそそくさと部屋をあとにされたのは、ついこないだのことではなかったか。こうなるとわかっていたら出立を止めたのに。いえ、新都の造営を急がれたのは帝の御命令なのだ。
あぁ、どうしてこのようなことが。
読経が続く白い闇の中で、薬子はよるべなく奈落に堕ちていくように感じていた。


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