【626文字の物語】 #17 目的地まで #せつない、あるいはかなしい
#17 目的地まで
目的地まであと250キロ。今日は長旅だ。安全第一でゆっくり行こう。そう思った時、後ろから肩をたたかれた。はて、今日は僕ひとりで、誰も乗っていないはずなのに。不審に思いながら振り向くと、去年亡くなった父がいた。
僕は、叔父の三年忌に行くところだった。叔父は父の一歳下の弟だ。仲のいい兄弟だったから、会いに行きたくて父はこっそり乗り込んだのかもしれない。
すぐに父の姿は見えなくなった。でも、きっと僕と一緒に行くつもりなんだろう。
僕は、父が好きだったさだまさしの曲をかけた。父が一緒に口ずさんでいるような気がした。久しぶりに父とドライブするのも悪くない。
叔父が入院した時、父に叔父のいる神戸まで連れて行ってほしいと言われたのに、忙しいからもう少し待ってくれ、と先延ばしにしてしまった。ついに叔父が生きているうちに連れて行くことができず、父に申し訳ないことをしてしまった。そんなことを思い出した。
僕は父を乗せて、高速道路を走り続けた。カーステレオからは、父が一番好きだった、さだまさしの「道化師のソネット」が聞こえている。心に染みるいい曲だね、父さん。
僕はもっと父さんとの時間を大切にするべきだった。今頃になって後悔しているんだ。かあさんに先立たれ、一人で暮らしていた父さん、さびしい思いをさせてごめん。親孝行できなくてごめん。
まだ着くまでにはもうしばらくかかるから、ゆっくりくつろいでいてよ、父さん。死んでからの親孝行なんて、遅すぎるけどさ。
いいなと思ったら応援しよう!
応援ありがとうございます