【562文字の物語】 #19 「彼女ができますように」 #せつない、あるいはかなしい
#19 「彼女ができますように」
20歳の夏、男5人で、星がきれいなことで有名な高原へ獅子座流星群を見に行った。僕以外の4人はたくさん願い事をするのだと張り切っていた。僕は願い事は一つだけにしようと決めていた。星が次々と降り始め、僕はたった一つの願い事を繰り返した。
「彼女ができますように」
願い事は叶った。まもなく、カフェバーで偶然知り合った星羅という名の年上の女性と恋に落ちた。優しく美しい人だった。僕の日常は一変した。薔薇色の毎日、幸せだった。
でも、彼女はなぜか夜しか会ってくれない。他につき合っている人がいるのではないかと疑い、僕は激しく嫉妬した。
ついにしてはいけないことをしてしまった。ある晩、彼女のあとをこっそりつけ、そして僕はついに彼女の秘密を知ってしまった。
朝になると、彼女は老婆の姿に変わった。
腰を抜かさんばかりに驚く僕に、彼女は静かに語り始めた。
実は自分は天界の魔女で、間違ってこの星へ降りてしまい、夜の間だけ若い女性の姿になれるのだと。次の流星群の時には天界へ戻ると。
「これまでありがとう。幸せだった」
消え入りそうな小さな声でそう言うと、彼女は僕の前から姿を消した。
僕の心には、若く美しい彼女との幸せな思い出だけが残っている。最後に見た彼女の姿は、どうしても思い出せない。これも彼女の魔法なのかもしれない。
いいなと思ったら応援しよう!
応援ありがとうございます