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148.“陽気ぐらし”という名の洗脳
私の住む地方では、複数の教区の青年会層・女子青年層・少年会員や(スタッフとして)若手の教会長さん・婦人さん等が集まる、年に一度、一泊二日のイベントが参加教区持ち回りで開催されている。
その日、私も妻子等を連れてその行事に参加し、現地まで足を運んだ。
ちょっとした息抜きにもなるし、キャンプっぽいことを大勢でわいわいやるので、こども達もきっと楽しいだろうと思い、家族を連れ立っていこうと決める。家族全員で参加しても良心的な参加費だし、夜の懇親会では割と豪華な景品をもらえたりもするのでなかなかお得感がすごい(笑)。
他教区の大学時代の友人や先輩、後輩なんかの顔もよく見かけたりして、そんな思わぬ再会なんかもまたけっこう面白いんだ。
そしてやはりその日も、懐かしい人の顔が見えた。
彼女はある教会に嫁いだ為に私達の地域にやって来ていた。
何年も会っていなかったが、共にもう30代半ばに差し掛かり、それ相応に外見も記憶とのギャップが生じ変化していた。こどもを生み育てるってことの大変さは、そういうところにもにじみ出るよね、お互い。
まぁそれでも、いざ再会してみると学生だった頃の思い出が刹那的に甦ってくる。例え外見は変わったとしても、気持ちはまだ、あの頃のままだ。
「…元気なの?」
近寄っていき何気なく声をかけると、彼女は笑ってこう答えた。
「元気ないわけないじゃない。だって、“陽気ぐらしの天理教の教会”にいるんだもの」
その一言に、不意に言葉に詰まる。
瞬時に、何とも言えない違和感を覚えた。
急ごしらえでつくられた彼女の笑顔にも、どこか不自然さを垣間見る。
それでなんだか少しだけ寂しくなった。
彼女の嫁ぎ先の教会(部内さんや信者さんを多く抱えている、大きい教会らしい)では、「天理教の教会とは、元気でいられるところ」という方針でやっているのだろうか?
そういう方向性自体それはそれで別に問題はないのだけれど、だとしても、少なくとも今私の眼の前に立っている彼女からは、本心からのそれのようにはまるで感じられなかった。
無理にそういう言葉を発して取り繕っているような、どこかそんな印象だった。
私が知っているかつての彼女はもっとこんなんじゃなかった。
粗削りで、少々がさつで、不完全で、そして自分の感情や気持ちにもっとシンプルだった。(もちろん、私の単なる思い込みもそこに含まれているのかもしれないけれど)
それが今や、教会という天理教人としてのど真ん中で、きれいで理想的な、感謝や喜びにあふれた完全さを身にまとおうとしている風にしか見えなくなってしまっていた。
がっちり、完璧ギチギチにしめた筈のねじの微かな緩みをつたって、歪さが滴り落ちているとも知らずに…。
残念ながら、この世界では、絶え間ない喜びづくめで生きていくことはなかなかにして難しい。
落ち込んで悲しい時もある。
人のことが憎くて、腹が立ってしょうがない時もある。
嫌いなあの人に対し、いじわるな気持ちをぶつけてしまう時だって、誰だってある。
そうやって黒くて汚い感情を吹き出しながら、惰性に絡め取られたりしながら、必ずしも人の心は、いつでも変わることなく一定の清浄さや健全性を保った状態でいられるとは限らない。
いや、むしろ至難。
でも、だからこそ信仰がある。
だからこそすがる何かが必要なんだって、私はそんな風に思っている。
「知っていますかピーナッツさん?」
ビールを片手に焚火を囲み、すぐ隣で他教区の友人が私に語りかけてくる。
「ホリエモンは“全ての教育は洗脳である”って言っているんですよ」
皮肉なことに、こんな時に限ってそういう話題が耳に入って来る。
そして我々がそんなことを話していると、向こうで大きな歓声や拍手があがる音がきこえてくる。うっすらとした夕暗みから始まった懇親会の中心地では、その賑わいは途切れることを知らなかった。
そこから少し離れたこの場所で、静かにゆらめいている炎をそっと見つめながら、私は、自らの感情を的確に表現し得る言葉をずっとさがしている。
やがて日没がやってきた。
夜の帳が下りる。
それでもまだ、彼女の放ったあの言葉が頭から離れないでいる。
【2018.7】
おまけ
当時、あの日の夜の闇の中で、少しだけブルーな気分になっていたピーナッツ。
すると、同じ教区の友人が爆笑しながら駆け寄ってきました。
「大変大変、ピーナッツ、ちょっと来てよ!」
付いていってみると、懇親会場では豪華景品をかけたゲームが催されており、我が子達はたくましくもその中で勝ち上がっていき、アマゾンプライムがテレビで視聴することのできるFire.Stickやらほか色々としたわりかし高価なものを続々と見事にGETしておりました(;^ω^)
お父さんはそういう気分じゃないんでゲームを辞退して外で黄昏ていた時に、こども達って言ったら💦
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
それではまた(^O^)