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【STORY】顔見知り

【顔見知り】夏子作🌻

いらっしゃいませ

毎朝僕は事務所に入る前
ここの店でコーヒーをいただく

店に入って右端の窓際の席。

僕専用の席、と言っても過言ではない。
毎朝僕はここに座るのだ。

この会社に入って
5年になる。

仕事にもなれ、任されることが増え
後輩や部下だってできた。

仕事に行きたくない朝もあったが、
このコーヒーを頂くと気持ちも切り替わる。
コーヒーの味も文句なしなんだが、
ここのママは気さくで感じがいい。

「お待たせしました」

「あ、どうも」

「雨あがってよかったわね〜」

この喫茶店のママ。
50過ぎくらいかなあ。
サバサバとした明るいママさんに僕は好感をもっていた。
このママとはもう5年も毎朝のように顔を合わしてる。

支払いを済ませ
店を出ようとすると
いつもキッチンから

「気を付けてね!いってらっしゃい」

と、顔を出す。

僕は毎朝こんな時間を過ごしている。

休日。

僕は、2歳なる息子と妻と公園に来ていた。
いい天気だ!
僕は芝生の上に転がった。

「パパぁ〜」

「うぇっ」

いきなり息子が腹の上に飛び乗ってきた。

休みの日くらい
1人のんびりしたい

いや
休みの日くらい
妻と息子との時間を作らなきゃな

まぁどちらの時間も僕にとって
大切で貴重な時間である。

妻が朝早く起きて
今日のためにスペシャル弁当を作ってくれた。

自慢になるかもしれないが
僕の妻はとびきり美人ではないが、
料理は上手いし、家事も手早いし
何より明るくてしっかり者で
僕にはもったいないくらいの嫁だと
僕は思ってるんだ。

彼女が結婚を承諾してくれた時には
飛び上がったさ。

僕は
人付き合いが下手くそで
そのことでずっと苦労してきた。

入社して3ヶ月で辞めようと思ってたくらいだ。

そんな頃だったな。
彼女と出逢ったのは…

真っ青な空を見つめながら
僕は妻との出逢いを思い出していた。

「パパァ〜」

息子が無邪気に僕を呼んでいる…

ちょっぴり狭いレジャーシートに妻と息子と3人お行儀よく座り
妻の作ってくれた弁当を食べているときだった。

「こんにちは!」

聞き慣れた声が聞こえてきた。

「あ…」

「こんにちは。声をかけようか、どうしようかと迷ったんだけど…お食事中にごめんなさいね」

「あ!喫茶店の!」

「そうそう」

「うわ!奇遇だなあ。お近くなんですか?」

「そうなの。ウォーキングコースなのよ。
奥さんと、息子さん?」

「はい。」

嫁は小さく会釈をした。

「うちにもね、坊っちゃんくらいの孫がいるのよ。だから、ついつい声をかけたくなっちゃって!」

「えー!お孫さんですか!!」

ママは僕たちと少し世間話をして帰って行った。

「また明日ね」
「はい!また明日行かせてもらいます」

妻に僕が入社したときから毎朝行く喫茶店のことを話した。

ママにお孫さんがいるんだあ。
またこの公園にきたら、もしかしたらお孫さんにも会えるかもしれないなあと考えると
僕はワクワクしてきた。

ただの顔見知りで
毎朝コーヒーを頂くだけで
僕のことを何も知らないママさんと
いっきに近づいた気がした。

翌日…
僕はいつものように会社に行く前に
喫茶店に訪れた。

1枚の張り紙があった。

「長い間ありがとうございました」と。

僕は、しばらくその場に立ち尽くした。

あれから
半年。
朝のルーティンの珈琲を僕は飲んでいない。

後々うわさを耳にしたが
コロナの影響が大きく
店を閉めたらしい。

考えてみれば
ママさんのことは
喫茶店のママでいること、息子と同じくらいの孫がいることくらいしか知らない。

ただの顔見知り。

でも僕にとって
忘れられない人…

いつかまた…
ママの珈琲をいただきたい。

※このストーリーはコロナ禍に書いたものです

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#顔見知り
#夏子作


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