『KPIマネジメント』中尾隆一郎が語る 組織を強くするための理論と必読の書。
(この記事は2019年に作成したものを再掲載しております。)
業界のトップを走る「プロフェッショナル」が薦める本とは?読書をもっと面白くする実名ソーシャルリーディングアプリReadHubが、独自インタビューをお届けするReadHubTIMES。29年間リクルート社に在籍し、数々の事業に関わり、結果を残し続けてきた中尾隆一郎氏。中尾氏が組織強化のために必要とする「制約条件理論」と「ファシリテーション」をオススメの本とともにご紹介する。
理系大学院卒の求人倍率は10倍の時代
僕が就職活動をしているときは、今思えばバブルと呼ばれる時代のピークでした。理系で大学院卒の人材の求人倍率は約10倍の時代で、行きたいと思った企業には行けるといった状況でした。
それと同時に、理系の文系就職も一般的になってきた頃で、リクルートの方が何十人も会ってくれて、リクルートという会社に興味を持ちました。
ですが、1988年にリクルート事件が起きて、世間からのイメージは良くない状況へと一転しました。ここまで良くしてもらった会社に、入社直前でお断りするのは逃げるような心地がして、リクルート入社することにしました。
夢中になれる仕事という”おもちゃ”
リクルートは、当時よりもさらに大きな企業になりましたが、入社当時からずっとずっと刺激的な会社で、真剣に向き合える仲間がたくさんいました。
また、特徴としては異動がたくさんあります。今でいうリクルートキャリアの企画マネージャーをした後、会社の立ち上げや管理会計の仕組みづくり、ストックオプションで広告料を払う仕組みの企画、海外事業の企画づくりなど、数えきれないくらいの経験を積ませてくれました。
ずっと夢中になって取り組むことのできる仕事を与えてくれるので、会社のことを”おもちゃ”を与えてくれる存在とさえ感じました(笑)。
「努力すればするほど評価は上がる」は事実
2000年ごろリクルートワークス研究所に所属していた時、今でも強く記憶に残る調査がありました。ランダム性を担保しながら、東京・名古屋・大阪の1万3000人に50ページくらいのアンケートに答えてもらうというものでした。
手法の関係上、人件費もかかりますし、データの体裁の整理などの人件費もかかるので、アンケートに答えてもらった方への謝礼も含めて、1億円以上が投入されたビッグプロジェクトでした。
僕自身に大きな衝撃を与えたのが「1ヶ月以内に仕事に関するインプットをしましたか」という質問でした。当時はWEBが一般的ではなかったので、読書や専門家の講演会に行くことが一般的なインプット方法でしたが、「はい」と答えたのは17%。つまり、6人に1人でした。
そして何が驚きだったかというと、どのような分類をしてもその17%の人の所得は、「いいえ」と答えた人よりも高かったのです。同じ年齢でも、同じ役職でも、同じ学歴でも、、、。
当たり前といえば当たり前ですが、努力すればするほど評価が上がり、給与も上がる。この調査結果は、あまりにもリアリティがありすぎたので当時は公開されなかったのですが、僕はこれ以降、最低でも年間100冊は読書をするようにしています。
答えを一緒に探す「ファシリテーション」
現在はお客様の企業の業績を上げるための「ファシリテーション」を軸として活動しています。
あえて言うのであれば、「コンサルティング」ではありません。コンサルタントやティーチャーのように「教える」のではなく、ファシリテーターとして、相手の中にある答えを一緒に探していくようにしています。たまにプチコンサルもしますが(笑)。
答えを教えてあげるだけのコンサルタントもいますが、もしそのコンサルタントが急にいなくなってしまったら、その組織は途端にワークしなくなってしまう。だからこそ、僕は「ファシリテーション」にこだわっているんです。
最近では「自立思考を鍛える」をテーマにした連載を始めたのですが、それもこの考え方の延長線上にあります。どんな状況でもどんな目的でも普遍的にうまくいく方法はありません。
そのため、自分の目的と状況に合わせて最適な方法を考えることができるように、自立して考えられるようになることが重要だと思います。
ファシリテーションの軸として利用しているのが、「制約条件理論」と「学習する組織」です。それぞれについてお話をします。
制約条件理論=「一番弱いところを守る」
まず、「制約条件理論」をご存知でしょうか。『ザ・ゴール』というエリヤフ・ゴールドラット氏が書いた小説で理論体系が理解できるものなのですが、これが組織において非常に重要なんです。
『ザ・ゴール』は小説で、様々なシチュエーションで企業のあるべき姿を考えさせられる本です。7冊くらいシリーズが出ているのですが、工場での製造過程や新規事業の開発、営業、生き方に至るまでを原理原則としてまとめています。物語自体にワクワクできるのも、オススメできるポイントです。
簡単に言ってしまえば、この本のメッセージは「1番弱いところを守りましょう」です。ドラッガーの言葉を用いれば、「Focus & Deep」(焦点を当てて深く取り組もう)。
悪い組織は弱いところをいじめます。例えば新入社員。「自分で考えて、新規開拓していけ」と言われても、最初は誰しもが初心者です。であればむしろ、教育できるような仕組みを作って、成功体験を早い段階で新入社員に与えられたら良いですよね。
中途採用の場合でもそうです。「即戦力でしょ。」と突き放すのではなく、仕事の手順とかカルチャーの部分とかを新しいメンバーがすぐに使えるようになっている組織はとても強くなれるはずです。
登山中、歩くのが遅れている人がいたら、荷物を持ってあげたり声をかけて励ましたりと気遣いますよね。それと同じように、仕事で困っていたら助けてあげられるようにしなくてはならない。視覚的に捉える事ができない場合もあるので、「どうやったら1ヶ月後に、新しいメンバーが笑顔でいられるか」という観点で仕組みづくりをすることが重要だと思います。
1つに絞って取り組んでいこう
KPIマネジメントをやっていますという人は世の中にたくさんいますが、ただ数字で管理しているだけの場合が多いです。自著『最高の結果を出すKPIマネジメント』では、制約条件理論の考え方をベースに、「取り組むべき問題を1つに絞って取り組んでいこう」と伝えています。
安宅和人さんの『イシューからはじめよ』も同じです。最も重要な1つに取り組んでいこう、と。ただ、だらだらと1つに取り組むのではなくて、その速度を上げていこうということです。
とりあえずの施策を連発しているだけでは、どの施策が効果的だったかも見えづらくなりますし、重要指標としてのKPIをしっかりマネジメントすることを意識してほしいです。
組織も自立的に思考・判断すべき
「学習する組織」はピーターセンゲ氏が提唱した、所属する人が自発的に自己実現をしていけるように学習していく組織のことです。
前に自立思考が重要であるということをお話ししましたが、組織としても状況に応じて自立的に思考・判断をしていくべきだと思います。
ただ、このピーターセンゲの『学習する組織』は組織の理想の姿を想像できると思うので、一読の価値があります。ただ、普通の人が読んで、すぐに理解できるものではありません。そして、理解できたとしても実現するのがとても難しいので、なかなか友人たちには薦められないです(笑)。
読書は最強のインプット
読書は仕事に直接活用できる最強のインプットだと考えています。最近読んでよかった本を2冊ご紹介します。
1冊目は『紛争の心理学』です。紛争がなぜ起き、対話でどうやって解決するのかについて書かれた本です。
例えば白人と黒人の争い。白人は黒人のことを偏見で見ていますし、黒人も白人のことを偏見で見ています。つまり、立場が違うから争いが起きる。
この本では、その争いを客観視しているだけではなく、その中に入って争いを整理整頓して争いを収めていきます。人と人が揉めているときの自分の振る舞い方について深く考えさせられた一冊です。
2冊目は『エンデの遺言』です。これは貨幣についての本で、「格差が広がり続ける」問題に対する解決策を提唱しています。具体的には保持しているだけだと減価していく地域通貨を提案していて、トマ・ピケティ氏の『21世紀の資本』に対するユニークな解決策を提案しています。非常に興味深い一冊だと思います。
お金は財やサービスの対価として払われているはずですよね。でも、お客さんの方がサービス提供者よりもなぜか偉そう。これは財もサービスも交換した直後から価値が下がっていくからです。車が一回乗られたら中古車になるように。
ビジネスをする上で、どのような仕事が求められているのかを抽象的に考察することができるので『エンデの遺言』を是非読んでみてください。
先ほど、制約条件理論をかなり抽象化して、「1番弱いところを守りましょう」と表現しました。ですが、この理論自体は1980年代に生まれ、今でも多く用いられる経営理論です。
組織が強くなるには、その組織が自立的に思考していくことや共通の数値目標を追うことが重要です。また、それ以上に、最も弱い部分を強くする仕組み化をできるかに組織の手腕がかかっています。この制約条件理論を理解することが組織強化の第一歩だと思います。
※インタビューをもとに作成
インタビュー・文章:高井涼史
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