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【在校生&卒業生進路インタビュー】高校生活を全うした先に出合った新しい世界 自由学園最高学部で触れたリベラルアーツの魅力

「この分野について学びたい」
「将来こんな仕事に就きたい」
こうした想いが明確になる時期は、一人ひとり異なります。幼少期の憧れを温め実現する人、授業などで興味を持った分野を発展していく人がいる一方で、進路を決定する際も方向性がはっきり見えない、絞るのが難しいと感じる人もいます。

西理恵さんは、後者でした。特定の学部や分野の枠にとらわれることなく、幅広く学んで自分の可能性を広げたい。その時の自分の気持ちに素直に向きあい、リベラルアーツ教育を実践する自由学園最高学部(大学部)へ進学。その結果、学びの奥深さに触れ、充実した時間を過ごしているといいます。

西さんが進路選びで考えたこと、高等科生活との向き合い方、最高学部での学びと今後について、お話をうかがいました。

【リベラルアーツ教育】
一つの専門に絞るのではなく、複数の領域を総合的に学ぶ。自由学園最高学部のリベラルアーツは、文系・理系という枠組みを超えて、学問をバランスよく学ぶことができる。

◆ 「幅広く学びたい」から最高学部へ

西さんが進路について考え始めたのは、周囲と比べても比較的早い高等科2年生の頃。先生や上級生からのアドバイスがきっかけだったと話します。

「自由学園は生徒が自分たちで生活を運営している学校で、その中心を担うのは高校3年生です。外部の大学を受験するなら、勉強で忙しくなる時期と重なります。最後の1年間だけで受験の準備をするのは難しい、と聞いていたので、選択肢を残しておくためにも早めにいろいろな大学を見て、検討だけでも進めておこうと思っていました」

しかし、具体的にどの学部がいいか、何を学ぼうかと考えても、方向性は定まりませんでした。

「大学でやりたいことが、まだ全然わからない状態だったんです。『これを学びたい』という熱量を感じる分野も特になくて。むしろ、幅広く学ぶことに興味がありました。自分の中の可能性を狭めたくない、という気持ちもあったかもしれません

それは、中等科・高等科で感じた学びの楽しさが影響していたと、西さんは続けます。

「私が在学していたときの高等科は、選択科目がありませんでした。だから、必然的に苦手な教科も勉強することになります。大変な面もありましたが、学んでいくうちに徐々におもしろさがわかるようになり、最初の印象は変わることもあるのだなと実感しました。

これからも新しい分野との出合いがあるかもしれない。だったら、大学に行く前に学部を絞ってしまうのではなく、幅広く学ぶほうが私には合っているのではないかと感じました

自由学園の最高学部は、リベラルアーツ教育を行っているため、文系理系で分けることなく総合的に学ぶことができます。高等科2年の最後、西さんは最高学部への進学を決めました。

◆ 全力で駆け抜けた高等科生活

西さんが最高学部に進む意志を固めたのには、もう一つ大きな理由がありました。

「外部の大学を受験するとなると、最後の1年は学校生活に割ける時間やエネルギーが限られてしまう。それはもったいないと感じたんです。

私は高2まで、真剣に学校での自治に向き合ってきました。だから、最後までしっかりやりきりたい、6年間の生活を全うしたいという気持ちでした

高等科時代の西さん(写真右側)。

その言葉通り、西さんは高等科3年生の1年間、委員会や係活動、自主企画の立ち上げ、部活など、さまざまなことに全力で取り組みます。中でも、中等科に入学した新入生の生活支援担当になったことは、自身の学園生活について考える上で大きな気づきをもたらしました。

「簡単に言うと、中1の子たちに自由学園の生活について説明する係なのですが、単に形式を伝えるだけでは不十分だと感じていました。自由学園はキリスト教の学校なので、毎日礼拝があります。それについて、何時にこの場所に集まって行います』と教えるのではなく、礼拝にはどんな意味があるのか、私たちはどういう気持ちで、何を大切に行っているかも含めて説明する。その上で、『こんな視点を持って生活してもらえたらうれしいです』と伝えたら、受け取るほうも変わるのではないかと考えました。

私のほかにもう一人同じ係になった子がいたので、その子とたくさん話し合い、試行錯誤しましたね。小さなことだったかもしれないけど、これからの学園を創っていく在校生に、自分たちの経験や想いを『生の言葉』で語り、伝える良い機会になりました

他にも、「生徒がつくる学校説明会」という企画を、友人と2人でゼロから立ち上げて開催しました。それまでは、教員が主体で生徒は手伝う程度にとどまっていた説明会を、西さんはコンセプトから設定し、すべて自分たちで実施してみたいと考えました。どんな人を対象に何を伝えるのかを検討し、手伝ってくれるメンバーを募集する。仕事は多岐に渡りましたが、先生や仲間の協力を得て、無事に成功させることができました。

◆ 学園生活を貫く「大切な何か」を探して

西さんが「学校生活をやりきりたい」「下級生に想いを伝えたい」と考えたのは、コロナ禍の影響が大きかったと振り返ります。

「コロナ禍で私たちの生活は大きく変わりました。それまでの学園の毎日は、みんなで集まることも多く、正直『密』な部分がたくさんあったんです。でも、コロナでそれが難しくなり、バラバラになった感覚でした」

以前は中等科から高等科まで一堂に会していた礼拝はオンラインになり、食事(昼食)も同様に各教室に。物理的な距離が広がると同時に、精神的な「つながり」も薄れるように感じたといいます。そんな中で、「自分たちが大切にしてきた女子部の生活とは何だったのか」という問いが生まれました。

「最初はうまく言語化できなかったんですが、『女子部の生活には根底に流れている大切な何かがある』という確信がありました。だからこそ、それをみんなで考えたい、話し合いたいと思ったんです。

それで、私が委員長を務めた期間は、積極的にそうしたメッセージを送りました。さらに、実際に全員で今後の女子部について考える機会を設けました」

自由学園にはクラス運営などについて考える「懇談」の時間があります。普段は各クラスごとに行っていますが、西さんは高等科全体で一緒に話し合う「合同懇談」の時間を臨時で設定しました。そこではいろいろな意見が出され、活発な対話が展開されたといいます。

「話し合いによって意見が集約されたとか、大きな変化につながったとか、わかりやすい『成果』があったわけではありません。でも、今できることを考え、模索し、行動した。それ自体がすごくよかった、意味があったと思っています

そうして考え続けた結果、西さんの中で「女子部の生活に底通するかけがえのないもの」は、他者とのつながりだと気づきました

「同級生だけでなく、中等科から高等科の6学年が集まって過ごす時間が、たくさんの学びを生んでいました。上級生の背中を見て覚えることもあるし、反対に下級生の発言や行動から気づきをもらうこともある。そういう『関わり合い』が、一人ひとりの学びや成長につながっていたと思います

学園の風景。

そして、直前に迫った共学化*への危機感もまた、学校生活を見つめ直す要因だったと話します。
*2024年度から、自由学園中等科・高等科は共学となった。

「最初に共学化されると聞いた時は、自分たちが信じてきた大きなものが崩れてしまうような感覚を持ちました。

女子部や男子部が築いてきたもの、大切にしていた『エッセンス』がすべて消えて、まっさらな新しい『共学の自由学園』になると思ってしまったんです。だから、何とかしてそれぞれの要素を残したい、という気持ちがあって、自分たちの生活を必死に振り返ったんだと思います。

でも、とことん考えたことで、自分たちが大切にしてきたものを再認識できましたし、共学化になっても良い部分は残すことができるとわかりました。今ではすごくいい機会だったと思っています

学校生活に真剣に向き合い、仲間とともに考え、行動する。こうしたことに存分にエネルギーを注ぎ込んだからこそ、納得感を持って、最高学部という新しい学びの場に飛び込むことができました。

◆ 熱量が上がった最高学部での学び

2023年春に自由学園最高学部に入学し、この春2年生になる西さん。この1年で、学びについての意識が変化したと語ります。

高校時代とは学びの質、レベルが大きく変わりました。最高学部では、自分の全然知らない世界が広がっていて、目からウロコが落ちる経験をたくさんしています。

高等科の頃は、嫌いな教科はそれほどありませんでしたが、ものすごく興味を持てる授業もなかったんです。でも最高学部では、自分自身の興味・関心が広がることを実感できるので、学びに対するモチベーションが上がっています。先生方の専門性も高く、内容も深い。『そんなふうにものごとを見ることができるんだ!』という刺激を、いろいろなところで受けています

今後は、最高学部内での学びを着実に進めることはもちろん、外部との接点も持ちたいと考えています。

「他大学の講義を聴講して学ぶなど、いろいろな可能性があると聞いているので、より範囲を広げた学びにチャレンジしてみたいです。

また、3年生になったら、デンマークにある『オレロップ体操アカデミー』に留学したいとも考えています。それに向けて、少しずつ準備を進めているところです」

【オレロップ体操アカデミー】
デンマーク独自の教育機関(国民学校)で、さまざまな年齢・国籍の人々が集まり寮生活で体操を学ぶ。自由学園とは90年以上の交流があり、1年間の留学奨学金制度がある。

西さんは、中等科から6年間、転回運動部(マット運動を基調とした体操演技をする部活)に所属し、最高学部の今も続けています。幼い頃からモダンバレエを習い、体を動かすことが好きだった西さん。自由学園が体育の授業で取り入れている「デンマーク体操」で、その楽しさを改めて感じることができました。

演技する西さん。

「昨年の夏、オランダで開催された『世界体操祭』(4年に一度開催される大会)に、自由学園の最高学部有志チームのメンバーとして参加しました。体操祭では世界各国からチームが集まり、演技を披露します。競うことが目的ではないので、お互いの演技を認め合う雰囲気がありました。

そこで、いろいろな体操をする人たちと出会い、交流することで、『自分は心から体操が好きなんだな』と実感したんです。

思えば私は、中等科の頃デンマーク体操を知ってからずっと体操が好きで、生活の一部でした。現段階で、留学の先に具体的な何かが見えているわけではありません。でも、長い時間続けてきた体操に、外の世界で1年間じっくり向き合ってみるのもいいかな、と。

留学も視野に入れながら、今は目の前の学びとしっかり向き合いたいです」

◆ 進路で迷っても、最後は自分を信じる

常に目の前のことに全力で取り組む西さんに、今進路を考えている人に向けたアドバイスを求めると、「そんな大したことはいえないんですけど……」と言葉を選びながら、こう話してくれました。

「今年は弟が高校受験でした。私とはタイプも違うから、当然選ぶ道も異なります。でも、それでいいんと思うんです。進路を選ぶときは、『自分の信じたいもの』を信じてほしいです。

とはいえ、結論を出すまではものすごく悩みますよね。私もそうでした。でも最後は、自分の今の気持ちや本当に大切にしたいことを貫いてほしい。どんな道に進んでも、その時とことん自分と向き合って選んだなら大丈夫。もちろん課題に直面することもあるでしょうが、『自分で決めた』という事実が支えてくれると思います」

西さん自身、最高学部に入学した当初は、高等科との違いに戸惑い、孤独や不安を感じた時期もあったといいます。それでも、やはり自分で決めたという自負が、その先へと進む原動力になりました。

学園内に感じる春の息吹。

高等科時代は早い時期に自らの意思で最高学部を志望し、進学後は学びに集中しながら、自らのもう一つの軸である「体操」にも取り組む。西さんは常に自分や周りと積極的に対話し、その時々の自分の気持ちを大切に、前進し続けてきました。

こうした姿勢を忘れなければ、迷うことがあっても、自然と進む道が見えてくるのだと実感します。

西さんの最高学部での学びはまだ始まったばかりですが、自分の好奇心が動く分野が明確になりつつあると感じています。
どこにいても、彼女らしく目の前のことに真摯に向き合い、新しい道を切り拓いていくことでしょう。

取材・執筆 川崎ちづる(ライター)


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