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【在校生&卒業生進路インタビュー】中学時代の理数系嫌いから一転 指定校推薦で明治薬科大学へ進学できた理由

高等科1年生の夏に薬剤師を志し、その後コツコツと勉強して指定校推薦で薬科大学に合格。松井新(さら)さんの進路結果からは、「元々勉強が得意で大学進学を選んだ」生徒の姿が連想されます。

ですが、実際の松井さんはそうしたイメージとは異なり、中等科時代は大学にも興味がなく、理数系は大の苦手だったといいます。どのような理由で薬剤師を目指し、薬科大学への進学を決めたのでしょうか。その経緯と学びへの姿勢が変わった理由、大学卒業後の仕事観などについてもうかがいました。

◆ 化学の授業で起こった劇的な変化

松井さんが薬剤師になるために薬学部へ行こうと決めたのは、高等科1年生の夏。しかし、それまでの成績は、数学などの理数系が芳しくありませんでした。本人いわく、「中学校3年間は遊びほうけていた」のだとか。

「中学時代は、勉強しないことに何の罪悪感もありませんでした。『私がわからないのは数学が難しすぎるからで、悪いのは数学の方だ!』と思っていたくらいです(笑)」とニコニコしながら当時を振り返ります。

裁縫と料理に興味を持って自由学園中等科に入学した松井さん。実技系と英語は積極的に取り組みましたが、その他の教科はほとんど勉強しなかったといいます。中等科の3年間は学校行事や習い事のピアノ・バレエ、ゲームなどに夢中でした。

転機が訪れたのは、高等科に入学した直後。新しく始まった化学の授業で、突如その魅力にハマりました。

「自由学園の化学の授業は、実験が多いんです。教科書などを使って学ぶだけだったら興味を持てなかったと思うんですが、目の前で実験して、色が変わったり反応したりするのが楽しくて。毎回授業を心待ちにしていました」

ここから、「自分は勉強が好きじゃない」と思っていた松井さんに次々と変化が起こります。

「化学がすごくおもしろかったので、この先も学んでいきたいと思ったんです。調べてみると、『薬学』ならずっと好きなことを続けられそうだなと感じました。それと同時に、すごく仲の良かった友達が『薬剤師を目指す』と言い始めて、その存在を知ったんですよね」

学問としての「薬学」とそれを学んだ上で仕事ができる「薬剤師」。松井さんは、その両方に惹かれました。

「薬剤師は女性が多く、妊娠・出産しても退職せずに働いている人がたくさんいるんです。私も将来的にずっと仕事を続けていきたいので、いいなぁと思いました。資格職だし、安定して働けそうなところも魅力でした」

こうして高校1年生の夏休み、松井さんは薬剤師になるため、大学の薬学部入学を目指すことを決めました。

◆  高校1年夏休みからの快進撃

薬学部の受験には、化学に加えて数学と英語が必要です。試験に備え、松井さんは早速高校1年の夏休みから塾に通い始めました。あれほど嫌いだった数学も勉強してみると楽しくなり、成績はぐんぐん伸びていきました。

「数学は、そもそも高1の1学期までまったく勉強してこなかったんですよね。だけど、やってみたらわかるようになりました。勉強の仕方というか、コツを掴むことができたんだと思います。

夏休みの間に頑張った結果が出て、2学期にはテストの点がめちゃくちゃ上がりました。数学の先生もびっくりして、もちろんすごく喜んでもくれて。『学びへの姿勢が変わったね』と言われました」

驚いたのは先生だけではありませんでした。友だちも家族も、それまでとは一転した松井さんの学ぶ姿勢に目を疑いました。

「高1の2学期からは推薦入試も視野に入れていたので、学校の勉強全般に力を入れるようになったんです。私が突然真面目に勉強するようになって、みんな『どうしたの?』と呆気に取られていました。

友達にはいまだに『さらがこんなに勉強しているのが信じられない』と言われるほどです(笑)」

高等科3年生の美術で作った作品。化学だけでなく、美術や音楽なども好きだという。

薬剤師という目標ができたことで、一気に学びへのスイッチが入った松井さん。その後も約2年間、コツコツと勉強を続けていきました。

◆  まさかの「指定校推薦」での合格

松井さんは当初、明治薬科大学ではない大学を志望していました。明治薬科大学は偏差値も高く、指定校推薦枠の多い大学だったため、志望しても合格は厳しいと考えていたからです。他大学の公募制推薦と、一般受験を受けようと考えていました。

そんな高校3年生の7月、学校から配布された指定校推薦大学一覧の中に、「明治薬科大学」の名前を見つけます。

「前年まではなかったので、すごくびっくりしました! 行きたかったけれど難しいと思って敢えて志望校から外していた大学の指定校推薦です。まさか自分が受験する年に推薦枠ができるなんて……ものすごくラッキーですよね。迷わず希望を出しました」

とはいえ、学内で推薦者に内定したのは2学期だっため、夏休み中もペースを緩めることなく受験勉強に励みました。

休み明けに推薦が決定したあとは、すぐに志望理由書などの資料を作成して提出。11月に面接を受け、12月初旬に無事合格が決まりました。

日本科学未来館のシンポジウム『発電菌の研究:未来に向けて』での研究発表。

「高校1年生のときから一般受験まで視野に入れて勉強を続けてきたので、こんなに順調に、しかも早い時期に決まるとは思っていませんでした。でも、指定校推薦の結果を待っている間の数週間はすごく心配で。いろいろな先生が『大丈夫だよ』と励ましてくれました」

◆ 「受験のための勉強」より身近な興味が大切

希望が叶って4月から大学で薬学を学ぶ松井さん。今後については、どのように考えているのか訊ねると、「まずは大学でしっかり学んで国家資格を取得し、卒業後は大学病院で働きたいです」としっかりとした口調で答えてくれました。

現状では、薬剤師の就職先は薬局やドラッグストアなどが多いそうです。給料が高いことがその理由の一つで、大学病院での勤務は激務の場合も多く敬遠されがちなのだとか。しかし松井さんは、ためらうことなくこう話します。

「私は、大学病院で『チーム医療』に関わりたいと考えています。薬についての専門的な知識を持っているのは、医療従事者の中で薬剤師だけです。医師や看護師は薬の概要については知っていますが、それほど詳しいわけではありません。だから、薬学の視点から患者さんに関わりたいと思っています。

大学病院なら入院している患者さんの経過も確認できますし、薬の服用の仕方なども指導できます。処方箋を見て一度薬を出したら終わりではなく、その後も見守っていける薬剤師になりたいと思っています」

周りの人に常に健康でいてほしいという気持ちから、薬学への関心を強めたという松井さん。既に卒業後も見据え、薬剤師への第一歩を踏み出そうとしています。

これから進路を考える学生にどんなことを伝えたいかを訊ねると、はっきりとした口調で、こう話してくれました。

中学や高校前半の時期に、『受験のための勉強』はする必要はないんじゃないかと思います。私が薬剤師という目標を持てたのは、元々学園の化学の実験がおもしろかったからで
、その実験は身近な自然を題材にしていました。自分の周りのことを扱っていたからこそ、興味を持てたと思うんです。

自分自身が心の底から楽しいと感じる。そういう学びに意味があるんじゃないでしょうか」

学園内の春の息吹。

そして最後に、こう付け加えます。

自分が考えていることを、いろいろな人に話すことは大切だと思います。私も薬剤師になりたいと考え始めたころ、当時の女子部部長(現男子部部長)の佐藤先生に相談したんです。それからずっと覚えてくれていて、いろいろ応援してもらえたし、指定校推薦枠ができてからも何かと相談に乗ってもらいました。決まった際には、自分のことのように喜んでくれました。

先生方は私たちのやりたいことを全力で応援してくれるので、進みたい道が決まったらいろいろな人に話して、味方を増やしていくといいと思います」

松井さんのように、自らの興味と将来像をしっかり重ねることができれば、そこに大きなエネルギーが生まれ、自分の力で歩みを前に進めていけるのだと実感します。

そして、「自分がおもしろいと思うことだから勉強できる」という彼女の言葉は、核心をついています。受験のための勉強では、大学合格自体が目標となって入学後は燃え尽きてしまう可能性もありますが、自ら関心を持ったテーマはずっと学び続けていくことができるのです。

新たに薬科大学にて6年間の学びをスタートさせる松井さん。薬剤師という目標が、これからも彼女を支えてくれることでしょう。


取材・執筆 川崎ちづる(ライター)


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