変わる入試制度 「これをやりたい」「学びたい」がますます重視される時代に
年明けからの約3カ月は怒涛の受験シーズン。1月の共通テストからはじまり、2月は私立大学一般入試、3月の国立大学2次試験まで続く……。こうした一般入試中心の受験スタイルは、この数年で大きく変化しています。
入試全体の多様化が進む中、いわゆる「推薦入試」が増え、全体の半数以上を占めているのです。推薦型の入試は年内には合否が確定することから、「年内入試」とも呼ばれています。
一般入試での合格を目指して高校3年間必死に勉強しなくては、希望大学への入学は難しい……。たとえ推薦入試で希望の大学に入っても、学力に差が出て苦労する……。保護者が受験当事者だった頃のそんな「常識」は、過去のものとなりつつあります。
本記事では、近年の大学受験の傾向とその制度について解説した上で、生徒たちが自信をもって自分の希望する進路を選択していくために、今後何が大切になるのかを考えていきます。
◆ 増える推薦入試 2022年度は5割越え
まずは、大学全体の入学者における一般入試、推薦型入試の割合をみていきましょう。
※推薦入試制度の詳細については後述しますが、ここでは学校推薦型と総合型選抜の2つを「推薦型入試」としています。
2022年度は、一般入試(一般選抜)49.7%に対し、推薦型が50.7%(学校推薦型選抜35.9%、総合型選抜14.8%)と、推薦型入試が一般入試を上回っています。
2014年からの推移をみると、年々一般入試(一般選抜)の割合が減り、推薦型入試での入学者が増ていることがわかります。
とはいえ、この割合は大学全体の数値をならしたものなので、大学ごとにみるとばらつきがあります。
特に私立大学と国立大学では数値に開きがあり、私立大学の入学者に占める推薦入試が約6割なのに対し、国公立大学は約2割にとどまっています(ともに2022年度)。
それでも、推薦型の入試制度を導入する国公立大学は年々増加傾向にあり、2022年には9割以上が実施しています。
また、文部科学省は2012年度以降、国公立大学に対し、推薦型入試の募集人員をそれまでの3割から5割を超えない範囲に増やすことができる、と変更しています。こうした流れからも、今後国公立大学で推薦型入試がさらに広がる可能性は高いと考えられます。
◆ 現在の推薦入試制度
「推薦型入試」はこの数年で制度が変わり、細分化が進んでいますが、大きく分類すると「学校推薦型」と「総合型選抜」の2パターンに分かれます。
学校推薦型:「指定校制」と「公募制」の2種類
「学校推薦型」は、在籍する学校長の推薦を得て受験が可能となる制度です。従来から実施されていた「指定校制」(指定校推薦)に加えて「公募制」推薦があり、近年国公立・私立ともに公募制推薦を実施する大学も増えています。
指定校制は大学が指定した特定の高校の生徒のみ、つまり、大学側から指定を受けた高校の生徒しか受験できませんが、公募制は出願資格を満たしていれば、どの学校の生徒でも出願できます。
公募制は、大学側の出願条件(主に評定平均)をクリアしていることが条件で、さらに前述のとおり在籍している高校の校長から推薦が得られれば受験できます。出願後に面接や小論文を課す大学もあり、国立大学の中には共通テストの受験が必要な場合もあります。
総合型選抜(旧AO入試)
総合選抜型推薦は、2020年度までAO入試(アドミッション・オフィス入試)と呼ばれていたものです。学校が定める「求める学生像(アドミッション・ポリシー)」に合った人物を採用する方式で、学校側(校長)の推薦は必要なく、大学が示す出願条件を満たしていれば受験可能です。
選抜方法は学校によってさまざまで、書類選考(志望理由書など)、小論文、面接のほか、レポートやプレゼンテーション、グループディスカッション、場合によっては共通テスト受験などが課される場合もあります。それぞれの教育理念や特色を踏まえた選抜を行うため、学校や学部によって内容が大きく異なるのが特徴です。
総合型選抜は、学力に加え、志望動機や入学後に何を学びたいのか、将来についてどのような展望をもっているかなどが詳しく問われ、評価されます。選抜にじっくり時間をかける学校が多く、文字通りこれまでの活動や今後の学びへの意欲などが「総合的」に評価される方式となります。
推薦型入試・一般入試合格者の学力は?
以前は推薦型入試と一般入試の学生の学力格差を懸念する声もありましたが、現在は学校選抜型・総合型選抜ともに出願や合格自体の難易度が上がっています。
学校選抜型・総合型選抜は、さまざまな資料・書類などの提出、さらに実技や面接、ディスカッションなどの選考試験があります。むしろ、分野によっては一般入試よりも高いレベルが要求される面もあります。
国立大学の中でも総合型選抜(AO入試)に力を入れている東北大学では、入学者の約3割を総合型選抜(AO入試)が占めています(2021年度)。入学後も一般入試と総合型選抜それぞれの学生の成績を追跡していますが、2012年度以降は、総合型選抜入学者のほうが一般入学者より高いという結果※が出ています。
※文部科学省中央教育審議会高大接続システム改革会議資料
「推薦型入試入学者は一般入試より学力が劣る」という考え方は、現在の入試制度では必ずしも当てはまらなくなっていることがわかります。
◆ 「有名大学に行きたい」だけでは難しい時代に
すでに述べたように、学校や学部ごとに一般入試と推薦型(学校選抜型・総合型選抜)入試の定員数に違いはあります。ですが少なくとも、「一般入試=一発勝負の筆記試験しかない」といった状況はなくなりつつあります。
推薦型入試が拡大している背景には、大学側の確実な定員確保といった事情もありますが、多様な能力を持つ学生を増やすことで、学内の活性化を図りたいという要素も大きいようです(朝日新聞・河合塾の共同調査による)。
自校の教育理念や目標を理解し、そこで学ぶことに意義を見出している学生を選抜する。大学は、そのための制度の充実化を図っているのです。
こうした変化の流れを踏まえると、制度の多様化により門戸が広がっているとはいえ、「なんとなく〇〇大学に行きたい」「有名だから受験する」といった意識では、対応が難しくなる現状があります。学校選抜型・総合型選抜では志望動機や入学後の目的意識が問われるため、自身のやりたいことや将来の目標などが明確になっていない場合、合格はもちろん出願もままならなくなってしまうからです。
中学・高校時代は知識習得のための受動的な学習だけでは不十分で、主体的な学びを通して「自分は大学入学後に何を学びたいのか」「今後どのような道に進むことを想定しているのか」を見つけることが重要といえます。
◆ 進学は自己実現のための手段
日本では長らく、学生が「少しでもレベル(偏差値)の高い大学に入学する」ことを目標として進学先を選ぶ状態が続いてきました。入試制度が、「点数のみをきそう筆記試験」をベースにしていたことが大きな要因です。「そこで何を学ぶのか」といった意識が希薄でも、点数さえクリアすれば合格できた、つまり、進学すること自体が目的化していたのです。
しかし、これまで説明してきたように、推薦型入試の拡大など入試制度が変わってきたことにより、この傾向は確実に変化しています。大学側も目的意識が明確で学ぶ意欲の高い学生を求めていますし、「入学前のテストの得点能力より入学後に学ぶポテンシャルを重視する」と述べるようになりました。
本来進学は、「やりたいこと、学びたいことを実現する手段」です。自分がこの先何を学びたいのか、どんな仕事をしたいのかによって進路は変わります。進学先は、大学がベストの場合もあれば、専門学校で技術的な学びを深めた方が良いこともあるでしょう。さらには、就職が自身のやりたいことを最短で実現できるケースもあります。生徒の数だけ選択肢があるのです。
自由学園の生徒たちは、授業や学校生活の中で自ら考え行動する機会がたくさんあります。こうした経験から「やりたいこと」や「進みたい方向性」を決め、それに近づくための進路を選んでいます。
生徒たちと話をすると、他人の価値観や社会的な先入観に縛られることなく、じっくりと自分の興味や進みたい方向を考え、明確化していることを実感します。もちろん、はっきりとした目標が見つからない生徒もいますが、それを自覚した上で「まずはもう少し広く学ぶこと」など先を見据えて次の進路を決定しています。
学校ができることは、生徒が自ら目標や進路を決定するための材料=学びや経験を与えること。生徒自身が方向性を決めたあとは、それを全力で応援することだと考えています。
自由学園ではこれまでも、「学校生活そのものが学び」であると考え、授業や生活全体を通して生徒が主体的に活動できる時間を重視してきました。そして、2021年度からは、「探求」(総合的な探究の時間)及び「共生学」を教科として位置づけ、学内にとどまらず社会とつながる機会を設けています。
こうした環境が、生徒の自己実現のための進路選びを、さらに後押しできるのではないかと考えています。変わりつつある入試制度も視野に入れながら、今後も生徒一人ひとりの進路選択に寄り添い、支援していきます。
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次回以降の学びコラムでは、自由学園の卒業生及び在校生の具体的な進路の選び方、学校での学びや生活が与えた影響などについて紹介していきます。