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多数決に頼らない合意形成 そのプロセスを学びに! 生徒も先生も経験のない「ゼロからの仕組み創り」に挑戦 【共学化への道・教師編】

2024年度に実施される男女共学化に伴い、生徒から自発的に声があがり、共学後の学校生活の仕組みづくりに向けて活動を開始した「共学化係」。

☞ 係の生徒に話を聞いた「生徒編」についてはこちら ↓↓↓

今回は、「共学化係」の担当教員で、中等科教頭の山縣基先生に、教師側から見た共学化係の活動、生徒の姿、合意形成への想いなどについて話を聞きました。

共学化係の担当教員・山縣先生(中等科教頭)

■ 「主役はあくまで生徒」 担当教員の立ち位置は?

――「共学化後の学校生活の仕組みを自ら決めたい」という生徒たちの声について、どう受け止めましたか?

山縣先生(以下山縣):
「生徒から声が上がったことについては、非常に良かったと思っています。

というのも、2019年12月に学内で共学化が発表になって、教員の間でもどのように仕組みを整えていくかなど、準備を進めていく予定だったのですが、途中動きが停滞してしまった時期があったんです。

予期せぬ事態だったコロナ禍が一因ではあるのですが、現実としてかなり遅れてしまいました。それで、いよいよ具体的に動き出さなくてはと思っている時に、生徒たちのほうが先に立ち上がった、という感じでしたね。

こうした動きがなければ、教員が生徒に声をかけて希望者を募り、同様に『係り』のようなグループを作ったと思うので、生徒たちから関心を持って行動してくれたのは頼もしかったです」

――山縣先生は、担当教員として共学化係にどのように関わっているんでしょうか?

山縣:
「隔週のミーティング(話し合い)に参加して、どうすれば良いか一緒に考えている、といった感じですかね。

共学化係のミーティングの様子

具体的な方向性を決める際などは、プロのファシリテーターの方に入ってもらっているので、僕は『(話し合いの方法として)こういうのもあるよ』『こっちの視点もあったほうがいいんじゃない』という具合に、メンバーの一員として意見を出しています。

共学化係の仕事は、彼ら自身が『何かを決める』わけではなく、話し合いの土壌を作る、準備をするというものです。ですから、僕もその方法について勉強しながら、最善の方法について考えています」

――活動を引っ張る、「顧問」のような役割とは異なるのですね。

山縣:
「全体を見ながら意見を言うことはありますが、話し合って決めるのは、あくまで生徒たち自身です。その点で言えば、ファシリテーターの方も議論の調整をする立場ですので、強く何かを提案したり、一つの方向に持っていったりするようなことはしません。

どちらかというと、僕は『見守る立場』で、ファシリテーターの方が『サポート役』といったところでしょうか」

■ 結果より「実行した」ことが重要 ワールドカフェの開催

――現在の共学化係の活動の状況、進捗具合などについて、先生の目にはどのように映っていますか?

山縣:
「大きな活動としては、6月中旬に、係の生徒たちが主催する形でワールドカフェを行いました(内容については、生徒編を参照)。

ワールドカフェで話し合いを行う生徒たち。

係のメンバー間でも、『そんなにうまくいくわけないだろうけれど、とりあえずやってみる』といった前提を共有して実施しましたが、結果としては、やっぱり生徒たちも難しさや課題を感じたんじゃないかと思います。

今回のワールドカフェは、プロの方のレクチャーを受けた上で、当日は完全に生徒だけで運営を行いました。ファシリテーションも生徒自身が行ったので、時間通りに進まない等の基本的な進行部分での課題もありました。

また、話し合いについても、盛り上がってしっかり話せたグループとそうでないグループ、目的がよく伝わらずにポカンとしてしまうグループなど、差が出てしまったところがあったようです」

――インタビューした係の生徒の方も、いろいろな意見や感想をもらったと話していました。

山縣:
「そうですよね。現在こうした意見などの総括をしています。その結果を踏まえて、今後の方向性などを話し合って進めていくことになります。

今回のワールドカフェ自体がすごく成功したかといえば、そうではない部分が大きいとは思いますが、それもまあ当然のことだと捉えています。今回認識できた課題を、今後に生かしていくことが大切ですね。

とりあえず現段階では、生徒自身から声があがり、自分たちで方法を検討して対話の会を実行できた。このこと自体が大きな前進だと感じています。これまでは、そうした動きもなかったわけですから」

■ 共学化への生徒たちの反応に見た「漠然とした不安」

――係の生徒に話を聞いた際には、「共学化に納得していない人が多い」といった話も聞きました。

山縣:
「最近は大きな声としてはあまり聞かなくなりましたが、もちろんまだいるでしょう。

最初に共学化を発表した頃は、『教員だけで決めてしまった』という反発に近い声もありました。今でも共学化に抵抗がある生徒はいると思いますが、『ラスト男子部/女子部』『このメンバーでできる最後の〇〇』のような形で、表現が変わってきたように思います。

とはいえ、実際のところは、まだまだ前向きになれない生徒もいるのかもしれません。

新しい生活への不安や、具体的な日常生活が思い描けない、といった部分も大きいと思います。ただ、最近は授業などで男女合同で取り組む機会も増えていますので、少しずつですが、イメージができ始めているとも感じます」

■ 制度の意味や目的は? 根本的な部分から考えてほしい

――来年度から共学化がスタートすることは決定しているので、話し合いにもタイムリミットがあると思います。

山縣:
「確かに、期限はあるんですよ。だけど僕は、すべてを2023年度中に決めなくてはいけない、とは思っていません。

生徒編でも出てきたかと思いますが、自由学園では、男子部と女子部で学校や寮での生活運営の仕方が大きく異なります。それに加えて、やはりそれぞれの伝統があるので、統一の校歌と別に、男子部/女子部の歌、旗(マーク)なども個別にありますし、使っている食器も別々です。

男子部の旗。

こうしたものの扱いをどうするかも、テーマとしてはあるんですが、優先順位の低いものは、決まらなければ引き続き議論すればいいと思っています。食器などは2024年度に無理に統一する必要もなく、今あるものを使えばいいだけですしね」

――6月のワールドカフェで扱った、「委員会」についてはどうでしょうか?
生徒たちからも「もう具体的な制度を決めていった方がいいのではないか」という心配の声が出ていると聞きました。

山縣:
「学校生活の中心的な制度である委員会については、2023年の12月にはある程度方向性が決まっている必要はあると思います。

ただ、2024年度のスタートはそれでとりあえず始めてみて、さらに2024年度以降によりよい制度を考えていければといいのでは……と考えています。

現在の男子部・女子部の委員会制度は、任期や選挙方法などの詳細部分でいろいろと異なっています。

ですが、一番大きな特徴は共通していて、希望するしないにかかわらず、高校3年生になると、委員長(もしくは寮長)の選挙、高校2年生では、副委員長の選挙に立候補しなければならない、という点だと思うんですね。

【自由学園の委員会制度】
▶︎高校3年生から委員長、寮長を、高校2年生から副委員長を、全校生徒が参加する選挙で選出。
▶︎選挙の任期や詳細な方法は各部によって異なり、男子部の任期は約50日、女子部は約60日。高3の間に、(自らの意志にかかわらず)一度は委員長及び寮長に立候補する仕組みとなっている。
▶︎ 委員の種類や役割は各部それぞれで、生徒たちは常に何らかの委員に属し、学校生活での役割を担う。

これまでも、選挙を経験した生徒からは、『別にやりたいわけでもないのに立候補しなければならないが、(票が入らず)落選すると傷つく』といった声がありました。制度として決まっているから、これまで続けてきたから、似たような方法を採用しなくてはならない。そういうわけではないですよね。

委員会制度は何のためにあるのか、どういう制度であったらより良いのか、根本的な部分から、視点を広げて考えられると、さらに有意義なんじゃないかと僕は思っています。

まあ、とても難しいことなので、道は険しいですが……。係の中には、こうした認識のある生徒もいますので、少しずつ議論がされていくのではないでしょうか」

■ プロセスを学びに! ゼロからの合意形成は生徒も教員も未経験

――今回の共学化の仕組み創りで、生徒たちが合意形成を主導することについて、どんな意味があると考えていますか?

山縣:
「僕自身は、この共学化係のプロセス自体を、学びにできたらいいなと思っています。

ワールドカフェで対話する様子。

現時点でも、決してうまく進んでいることばかりではないですし、これからも難しい部分はあるでしょう。ですがまず、自分たちが今まで行ってきた話し合いの方法は一面でしかない、一部でしかない、ということを知ってほしいと考えています。

みんなで対話をしながら合意形成をしていく。少しでもそれを経験してほしいですね。

自由学園は生徒の自治で動いていますので、何かを決めることには慣れていると思っていましたが、今回のように『ゼロから学校生活の仕組みを創る』といった機会はほとんどなかったんじゃないでしょうか。既存の仕組みなり、ルールなりがあって、その部分の課題を抽出してどう修正していくかを議論することが多かったと感じます。

強いていえば、コロナ禍での寮の運営などは『ゼロベース』に近かったですが、緊急的な対応だったこともあり、教師と寮長などの一部の生徒で指針を検討して実行しました。ですから、それも合意形成とまではいかなかったですね。

男子部の寮では、コロナ禍で食事前に熱心に消毒するようになりました。

そして、これは生徒だけではなく、僕自身にも言えることなんですよね。多数決を用いず、対話だけで合意形成をした経験がある人は、恐らく教員でも少ないのではないかと思います」

――確かに、大人でも対話をベースにした合意形成をしたことのある人は、今の日本社会ではほとんどいないかもしれませんね。

山縣:
「教師も生徒も経験が少ない中で行うことなので、とにかくやってみるしかないのかなと思っています。

現実問題として、これからも課題はたくさん出てくると思います。ただ、『話をしたのにうまくいかなかった感覚』ばかりが積み上がると、『結局話しても意味ないじゃん!』という印象が強く残ってしまいかねないですよね。それもまずいな……という気持ちがあり、葛藤ですね(笑)。

生徒たちが今後社会に出てからも、対話による合意形成はとても重要だと思います。今回の共学化の仕組み創りで、『民主的に社会を動かしていくために、どんな方法があるのだろう』といった部分も視野に入れて、学びにしていけたら最高ですね。

僕も生徒と一緒に学びながら、『ゼロからの合意形成』に関わっていきたいです」

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生徒だけでなく、教員にとっても初めての経験となる、ゼロからの仕組み創り。多数決ではなく、対話による合意形成がどう進んでいくのか、そして、関わった人にどんな学びをもたらすのか。学校全体の大きなチャレンジを、今後もレポートしていきます。

取材・執筆 川崎ちづる(ライター)


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