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【在校生&卒業生進路インタビュー】最高学部で開花した知的好奇心と機械技術への興味 デジタル技術の最前線を担う企業に就職するまでの道

自由学園最高学部(大学部)をこの春卒業し、3Dなどのデジタル技術を活用したものづくり分野で急成長を遂げている「SOLIZE株式会社」に、エンジニアとして就職する栗田匠さん。

高等科から最高学部への進学は、「流れに身を任せる」形で選択しましたが、そこで学びのおもしろさに目覚めます。機械技術を実践的に習得し、さらには元来好きだった「ものづくり」と融合。そして、自身の学びと好奇心を生かせる企業への就職を決めました。

栗田さんは、高等科と最高学部でどのような日々を過ごしたのでしょうか。具体的なお話をうかがいました。

◆ 高等科時代は「ものづくり」に熱中

栗田さんが就職する「SOLIZE株式会社」(以下、SOLIZE)のエンジニア部門は、物理や機械工学などを専門的に学んだ人たちが所属する、ものづくりの最前線です。栗田さん自身も、以前から理数系が得意だったのかと訊ねると、遠慮がちに「いや、全然です……」という言葉が返ってきました。

高校生の頃は、理系科目はむしろ苦手でした。数学の難しい式などを見ると、今も抵抗を感じることがあります(笑)。自分は感覚的な人間だと思っていたので、今こういう結果になって、僕自身も驚いていますね」

高等科から自由学園に入学した栗田さん。当時は、自分の手で何かを創り出すことに夢中だったといいます。

「学園内にある木工所に足繁く通っていました。機械の使い方を教えてもらいながら、授業の準備を手伝ったり、自分の好きなものを作ったりしていましたね。作業自体は体力勝負的な部分もあるので、長時間取り組むと体中が痛くて。でも、実際に完成するとすごくうれしくなる。つらさと喜びの間を行ったり来たりしながら、過ごしていました」

高等科2年の時に、栗田さんが木工所で創った作品の一つに、「エレキバイオリン」※があります。

【エレキバイオリン】
一般的なバイオリンとは異なり、音量のコントロールができる。弦の振動をマイクが拾い、電気的に音を増幅する仕組み。

栗田さんが制作したエレキバイオリン。

「バイオリンが魅力的に見えてしょうがない時期があったんです。僕はまったく弾けないんですが(笑)。もう居ても立っていられなくて、自分で創ろう! となりました。

だけど、本物のバイオリンだとハードルが高すぎる。そう思っていたところに、『エレキバイオリン』の存在を知りました。こっちならできそう! と、思いつきに近い状態で始めたんです」

最初は軽い気持ちだったにせよ、完成まではかなりの労力と試行錯誤があったはずです。それをやり遂げるパワーは、どこから湧いてくるのでしょうか。

昔から何かを『かっこいいな!』と感じると、自分自身で手を動かさないと気が済まない。そんな性質があると最近気づきました。子どもの頃は、よく車や自転車の絵を描いていましたね。画用紙に自分の“好き”を無心になって再現して、それが終わるとちょっとスッキリするんです。

エレキバイオリンもその延長線上で、ムクムク湧いてきたエネルギーを、『自分で創り出す』ことで出し切る。それが僕なりの自己表現だったんだと思います」

高等科での3年間で、「ものづくりの醍醐味」を存分に味わいました。

◆ 最高学部で激変した「学び感」

ものづくりにハマり、多くの時間を木工所で過ごした栗田さん。高等科3年になり、進路を考える時期に差し掛かっても、あまり積極的に捉えることができなかったと振り返ります。

「当時は、『自分のやりたいことのために大学を選ぶ』というのも、ピンときませんでした。何ていうか……、自分で自分をうまく操作できない感覚があって。何かを選び取っていくパワーが湧いてこなかったんです。それよりも、目の前のものづくりとか、木工の作業とか、興味を惹かれることに注力したい気持ちが強かった気がします。

だけど、高3の初夏に、自分の成績なら自由学園の最高学部に優先的に進学できると知って、それなら行きたいと思いました。だから、入学前から『学部でこれを勉強しよう!』と決めていたわけではなく、流れで進学したというのが正直なところです」

しかし、最高学部進学後に栗田さんの学びへの姿勢はガラッと変化します。2020年春は新型コロナウィルスが蔓延し始めた時期でした。

「なかなか授業が開始されず、突然考える時間がたくさんできた状態で。これまでの自分のことを振り返ってみました。人とも全然会えなくなる期間を経験したことで、『最高学部での4年間は、できるだけたくさんの人と積極的にかかわろう』と決意しました。

それと、授業のスタートがオンラインになり、僕自身の気持ちも大きく変わりました。『一言も聞き漏らさないように集中しよう』と思い、かなり真剣に授業を受けるようになったんです。

そうしたら、授業の内容がよくわかるようになりました。高等科の頃、特に数学は『難しい』印象が強かったんですが、最高学部では理解できるし、興味も湧いてくる。学び自体がどんどん楽しくなっていきました。

恐らく、初めてのオンライン授業で、先生方にも模索があったんだと思います。進み方も少しゆっくりになったのかもしれません。僕にとってはそれがよかったというか、追いつき直す余裕が生まれたんじゃないでしょうか」

授業がわかりやすく、おもしろい。おもしろいからより積極的に参加する。栗田さんの中で、こうした好循環が回り始めました。

そしてそれは、自由学園の最高学部が「リベラルアーツ」を掲げていることにも関係します。文系・理系という枠組みを超えて学ぶことができるカリキュラムを展開しているため、内容が分断されることなく、総合的に学ぶことができます。栗田さんはそこで、「学びの本質」に触れました。

「例えば、数学と哲学は、文系と理系で分ければ別のカテゴリーに属する学問ですが、『論理性』という面で見ると、かなり近い。数学は、伝えたいことがあって、それを誰が見てもわかるように数字や記号を使って表し、哲学は言葉を通して同じことに取り組んでいる。そんなふうに感じるようになりました。

僕がそれまでしていた勉強は、ある範囲までを『頭に詰め込むだけ』だったけれど、最高学部では異なる学びがあることを知りました。勉強する、学ぶことのおもしろさを教えてもらいました

◆ 機械技術とものづくりの融合

最高学部にて開花した栗田さんの知的好奇心。特に関心を持ったのは、機械技術の分野でした。

1〜2年生の中心となるカリキュラム「生活経営研究実習」では、6つのテーマからそれぞれの興味に沿って選択します。栗田さんは「資源・エネルギーグループ」に所属し、活動しました。

1年生は、学園内の機械設備のメンテナンスなどを通して、技術について広く学びます。電子工作や修理のための溶接などを実際に経験しながら、機械の基礎知識への理解を深めました。2年生になると、社会課題を解決するために、そうした技術を活用した機械の開発に取り組みました。

「僕は元々、『体験的に技術を理解する』ことが好きだったんです。何かを作ったり、分解したりしながら構造を学んでいくのがおもしろくて。資源・エネルギーグループは、そんな自分に合っていたので、すごく楽しかったです」

実際に栗田さんのグループが最高学部2年生で創ったのが、「消毒液噴霧装置」です。手をかざすとボトルを押して消毒液が噴射する機械で、2021年のコロナ禍で求められているものを考え、形にしました。

完成した消毒液噴霧装置。

そして、高等科で夢中になっていた「ものづくり」と、最高学部で学んだ機械技術の知識が徐々に融合していきます。栗田さんは、独学でカートを創り上げました。きっかけは、学内に廃棄しようと置いてあった、エンジンだったといいます。

「恐らく農機具のエンジンだと思うのですが、バラバラに分解されて、置いてありました。それを譲ってもらい、インターネットで調べながら組み立てていったら、動いたんですよ!

栗田さんが創ったカート

粗大ゴミだったエンジンを動かせたことに興奮して、それなら車を作ってみたい! と思いました。いろいろ探して中古のカートを購入したんです。といっても、壊れていてサビだらけ、動くかどうかわかりません……という代物ですが。

それをどうにか加工してエンジンを取り付け、カートを走らせることができました」

栗田さんの好奇心からスタートしたカート作りでしたが、真剣に取り組むあまり、研究の一環として扱ってもらえるようになりました。

実際に学内を走らせてみた様子。

こんなに自分のやりたいことができていいんだろうか……。そんな気分になりましたね」と口にするほど、このカートは栗田さんの興味分野の集合体でした。幼い頃から好きだった車を、機械技術の知識を用いて自分の手で創り出していく。最高学部での学びで、栗田さんの好奇心とそれを形にする力がさらに向上していきました。

◆ 順調に進んだ就職活動

最高学部で機械技術への関心と知識を深めた栗田さん。就職もそれを活かせる企業に……と考えていました。実際にどんな会社があるのか探し始めたところに、就活支援の先生が声をかけます。そして、その後就職することになるSOLIZEのインターンを紹介してくれました。

内容に惹かれて応募したそのインターンは、夏休み期間の5日間で行われました。1日目に3D CAD(パソコン上で設計するソフトウェア)の使い方を学び、2〜3日目で設計、4日目にレビューしてもらい最終日に完成させます。設計時には課題が提示され、それをクリアしながら進めなければなりません。

「僕はこのインターンに参加するまで、3DCADの使い方を知りませんでした。でも、やってみたらすごく興味深くて、楽しみながら課題に取り組むことができました。しかも、自分で設計したものを、後日3Dプリンタで作成し、送ってくれたんです。企画自体がすごく斬新で、印象的でした」

そして、その後SOLIZEから早期選考の案内があり、栗田さんは迷うことなく参加します。

インターンでの経験で仕事内容に興味をもてたことはもちろんですが、そこで働いている人たちの雰囲気もとても良かったんです。向上心に溢れていて、自分もああいう場所なら頑張れそうだと感じました」

選考は順調に進み、3年生の12月には内定通知が届きます。自らが「おもしろい」と感じることを精一杯学んだ結果、良い出会いに恵まれあっという間に就職先が決まりました。

◆ 「自分の頭で考える」ことの重要性

高等科で決めた進学については、「流れ」と語った栗田さんですが、最高学部では自身の興味・関心を深めて就職を決めました。最後に、進路に迷う高校生にメッセージをと言葉を向けると、じっくりと考えながら、こんなふうに話してくれました。

「よく言われることではありますが、『自分の頭で考える』ことはすごく大切だと思います。とても難しいことだし、周りが受容するかにも関わってくるので、本人の判断だけでできるとは限りません。だけど、自分できちんと考えられるようになったら、すごく生きやすくなると思うんです。

そのために必要なのは、『プロセス』を知り、経験すること。普段自分の頭で考えたことがないのに、いきなり進路を考えようと思っても難しい。日常生活の小さなことから自分自身で考えて判断することの積み重ねが、重要じゃないかと感じています

高等科のキャンパス。

そして、栗田さんは高等科入学当初のこんなエピソードを披露してくれました。

「当時の男子部には、『東西教室』と『南北教室』があり、僕は通りかかった山本太郎先生に軽い気持ちで『東西教室ってどこですか』と聞いたんです。そうしたら、『太陽の位置からおおよその方角を推測すれば、わかるんじゃない』と言われました。それがすごく衝撃的で。それまで僕は、わからないことは何でも人に聞けばいいと思っていたし、決められたルールには従えばいい、といったスタンスでした。

でも、そうではなく、今ある知識を組み合わせて自分なりに推測してみる。それが『自分で考える』ことだし、それらの繰り返しが、自分の進む道を決めることにつながっていくのだと今は思っています。一方で、あの返答自体は、今考えてもさすがに無理があるのではないかと思いますが(笑)、すごく示唆的だったなと思います」

高等科でのメッセージを自分ごととして受け止め、今も思い出す栗田さん。何ごとにも真摯に向き合う姿勢で、自分の道を切り拓いてきたことが伝わります。

高等科で情熱を注いだものづくり。最高学部で開花した機械技術への関心。栗田さんのこれからの仕事を考える時、どちらも必要で大切な時間でした。高等科時代に、「進路の明確化のほうが大事だから」とものづくりをやめていたら、その後も機械技術を活用して何かを生み出すおもしろさに目覚めることはなかったかもしれません。

自分が全力で取り組みたいテーマ、仕事にしたい分野が見えてくる時期は人それぞれ。ですが、それまでに必要なのは、「今やりたい」に徹底的に向き合うことだと感じます。自分のエネルギーが湧き出ることに真摯に向き合い続けた結果、栗田さんは「ここで働きたい」と思う会社・仕事に出合うことができました。

4月から、新たな道を進む栗田さん。技術への強い好奇心と集中力を味方に、楽しみながら日々をいきいきと過ごしていくことでしょう。

取材・執筆 川崎ちづる(ライター)


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