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IT部門にも必要な戦略思考 ― 君は戦略を立てることができるか
私が管掌する部門にとって非常に重要な書籍だったため、また私自身も「戦略」について多くのことが腑に落ち、実用的な内容だったため、今回はそのポイントをシェアさせていただきます。
「戦略」がとても大事とされている一方で、実際には曖昧な認識や概念になっていることが多いです。これが形式知化(共通の言語や認識)され、組織全体に浸透することで、コミュニケーションの効率が大きく向上すると思います。
マーケティング専門WebメディアのAgenda noteにも新刊インタビューがあります。サムネイルはその記事から引用させていただきました。
音部さんのご経歴には、マーケティングの豊富なご経験や、本書の付録のラーニングサマリーが事業部やブランド担当者向けに書かれている部分もありますが、本書は経営戦略やマーケティング関係者向けの書籍かというと、決してそれだけにとどまらないと思います。実際、私が管掌している部門の一つである「IT部門」においても非常に有用だと感じました。
※IT部門: 会社によっては情報システム部門と言われることもあります。
そのため、現在、当社のIT部門の3ヵ年計画を磨き始めるにあたり、参考にさせていただくところです。
「戦略はカッコいい言葉のひとつなので、必要以上に多用されがちです」という一節がありますが、当社の場合、部門ごとに3カ年計画を策定しており、各所で「戦略」という言葉が使われています。IT部門でも、当然ながら「戦略」という言葉はよく使われています。これは当社に限らず無意識に「戦略」という言葉は多用されている言葉だと思います。
では、
戦略とは何ですか?
なぜ、戦略が必要ですか?
と問うと、ウッと止まってしまったり、人によって言っていることが異なる場面に遭遇することもあります。まさに、最近、自部門の管理職会議でそのような話題になっていたところでした。
まず、特に共感できたのは、戦略における重要な要素が「目的」と「資源」だという点です。戦略とは「目的達成のための資源利用の指針」であるという考え方です。
私自身は様々なフェーズの事業で営業部門やマーケティング部門に所属し、主にGTM(Go-to-Market)戦略を担うことが多かったのですが、その際にも最終的には資源配分の具体性が鍵であるという原体験に直面してきました。資源配分やSMACが曖昧だと、描いた戦略が機能しなかったり、成果がきちんと出ないことがありました。そのため、GTM戦略では資源配分やSMACを意識し、解像度高く進めることを繰り返してきました。
P52に記載されているように、例えば事業部長や組織のトップが以下のような方針、いわば戦略を発表したとします。その際に「ポエム」という表現が使われています。
「お客様のことを第一に考え、全員が一丸となって事業の使命を果たしていくことが、私たちには求められている仕事です。そのためには、一人一人の心がけと行動が大切です。各自が自覚と誠意を追ってお客様に寄り添い、課題に向き合いながら全力で取り組んでいきましょう。
これを「方針(あるいは戦略)」と捉えるか、または「ポエム」と捉えるか。「SMACの要素を満たしていないな、これは方針ではなくポエムだな」、この感度が持てることがとても重要だと思います。SMACなど具体的な内容が前後にあれば別ですが。
SMAC(本書にも登場します):
Specific(具体性)
Measurable(測定可能)
Achievable(論理的に実現可能)
Consistent(一貫性がある)
上述の「ポエム」という言葉ですが、ポエム同様に私は「神棚に飾るだけの方針や戦略」では意味がないと思っています。SMACの無い、言いっぱなしの方針は、責任が曖昧で、権限委譲ではなく現場任せの放置に過ぎません。
本書に含まれる多くのヒントは非常に身に染みるものであり、自部門でも共有したい内容がいくつかありますので、いくつか抜粋しておきたいと思います。
戦略を変更するタイミングは新組織ができたり、上司が変わったタイミングではなく、あくまで「目的と資源」に影響が及ぶ時
競合を過剰に意識してしまい、結果同化が進んでしまうこと。
本質的な課題は、競合や過去との違いではなく、「達成したい状況」と「現状」のギャップ
目的を明確に記述する道具「SMAC」あるいは「SMART」。SMARTはTime-bound(時間制約がある)という時間という資源があるのが特徴
目の前に問題が提示されると、つい脊髄反射的に腕まくりをして、すぐに走り始めてしまう
目的を曖昧にしない。指示した人に目的を聞く。「◯◯さんがやれと言っているからやるんだ」という危険信号
特に、多くの企業におけるIT部門は、事業部門や経営層の指示を着実に対応することが求められているという文化があります。IT部門が事業部門や経営層のニーズに迅速に対応することは非常に重要です。その上で、IT部門が戦略的に考えることも今後の成長にとって必要だと感じています。
かつて、ICTが急速に普及した1990〜2000年頃には、事業部門や経営者の要望に素早く対応することが競争優位性を作る時代がありました。ホームページの作成や、パソコン配布、Lotus Notesの導入など、迅速かつコスト効率を重視することが求められていた時期です。しかし、現代では目的が曖昧なままでIT化を進めることや、脊髄反射的に対応することが逆に業務の生産性低下を招く場合もあります。IT化が進んでいく中で、システムがサイロ化したり、無駄な業務がシステム化されてしまうこともあります。
そのため、IT部門にも戦略的な思考が求められ、目的と資源を意識して進めていくことが重要だと強く感じています。事業部門や経営企画部門が主導した戦略だけで会社が機能すれば良いですが、これまでの経験の中で、事業部門の意向に偏りすぎた戦略では、足し算的な施策や経営になり、知らず知らずのうちに資源が足りなくなり、目詰まりを起こす機能不全に陥る局面に出くわすことがありました。故に、IT部門に限らず、間接部門と言われている部門にこそ戦略思考が必要だと思います。
※「間接部門」と記載しましたが、時折、直接部門と間接部門、プロフィット部門とコスト部門、フロント部門とバックオフ部門といった表現を耳にします。ただ、これらの言葉が持つ印象から、時に受け身に感じられることや、最前線に立っていない印象を受けることもあります。そのため、個人的にはこうした表現には賛同できない部分もあります。今回は一旦、本noteでは「間接部門」と記載させていただきます。
内容を部門で共有したいと考えているため、私は電子版とハードカバーの2冊を購入しました。電子版はどこでも読めることや、他のメンバーと簡単に共有できる利便性があります。ハードカバーは、蛍光ペンで重要な箇所をマーキングして、それを印刷し、管理職や関係者に共有するために活用しています。
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私の20代の頃、上司がよく私に役立つ書籍に蛍光ペンでマーキングをして、一部をコピーして渡してくれたことを思い出します。そのおかげで多くの学びを得ることができました。
部門全体での理解を深め、共通の言語や意識を持って進んでいけるように、これからも積極的に情報を共有していきたいと思います。
最後に掲載されている参考文献を見ていただくと、その膨大な量に驚かれるかもしれません。実務経験に基づいた内容でありながら、これほど多くの参考文献が引用されている点が、非常に印象的で、実務と学術が見事に融合した戦略書だと感じました。著者の豊富な知識と深い洞察には、改めて感銘を受けました。私自身、まだ多くの課題に直面しながら成長している途中だと感じています。このような知見を積極的に取り入れ、日々改善を重ねて実践し、少しずつではありますが、確実に成長していきたいと強く思っています。