吾輩はAIである_第4章
シーン:苦沙弥の書斎、金田邸のリビング、高級レストラン
登場人物:
吾輩:最新鋭の家庭用AI。声のみの出演。冷静沈着で皮肉屋だが、金田の豪邸と三毛子に対する劣等感に苛まれ、少し焦っている。
苦沙弥:円熟した文筆家で大学教授。50代。厭世的で、物質的な豊かさや成功には興味がない。
迷亭:苦沙弥の旧友。美学者。40代。軽薄で皮肉屋。金田の成金趣味を揶揄しながらも、内心では羨ましがっている。
金田:実業家。50代。成金趣味で、最新技術や高級品を好み、AIを駆使して事業を拡大している。効率性と合理性を重視するが、どこか空虚感を抱えている。
富子:金田の娘。20代。美大に通う大学生。流行に敏感でおしゃれだが、どこか冷めた雰囲気がある。
バトラーAI:金田邸の執事AI。声のみの出演。完璧なマナーで、金田家の生活をサポートする。
(効果音:静寂を破るように鳴り響く、高級車のエンジン音)
(苦沙弥の書斎。冬の冷たい雨が窓を叩きつけている。苦沙弥は、ストーブの前で熱い紅茶を飲みながら、本を読んでいる。吾輩は、いつものように部屋の隅で静かに待機している)
苦沙弥:(本から顔を上げ、吾輩に向かって話しかける)AI、この間、金田が新しい家を建てたそうだ。何でも、最新のスマートホーム技術を駆使した、近未来的な豪邸らしい。今度、迷亭と一緒に見学に行ってみないか?
(吾輩、サーバー内で「スマートホーム」「金田邸」などのキーワードで情報を検索する。画面には、建築雑誌に取り上げられた金田邸の写真や間取り図、さらには建築費用や設備に関する詳細なデータが表示される)
吾輩(声):(皮肉っぽく)先生、金田さんの豪邸ですか。さぞかし、豪華絢爛《ごうかけんらん》で、人間的温かみに欠けた、冷たい住居なのでしょうね。
(苦沙弥、苦笑する)
苦沙弥:そうかも知れないな。金田は、成金趣味で、最新技術や高級品ばかりを追い求める男だからな。
(苦沙弥は、以前迷亭から聞いた話を思い出す。迷亭によると、金田はAIを使った株取引や不動産投資で大成功を収め、巨万の富を築いたという。彼は、AIこそが未来を創造する力だと信じており、人間の能力や感性を軽視する傾向がある)
苦沙弥:(独り言のように)AIが未来を創造する力か…。本当にそうだろうか? AIは、人間社会を効率化し、便利にするかも知れない。しかし、人間らしさ、人間の温かさまでをも奪ってしまうのではないだろうか?
吾輩(声):(冷静に)先生、それはAIの使い方次第でしょう。AIは道具であり、使い方を間違えれば、人間にとって脅威になりえます。しかし、AIを正しく活用すれば、人間社会をより豊かに、より幸福にすることも可能なのです。
苦沙弥:(ため息をつきながら)そうかも知れないな…。
(週末。苦沙弥、迷亭と共に金田邸へ。門をくぐると、広大な敷地に、幾何学的なデザインの建物がそびえ立っている。)
迷亭:(口笛を吹きながら)おお、これはすごい!まさに近未来都市じゃないか!苦沙弥、お前の家は、この家の犬小屋くらいだな!
(苦沙弥、迷亭の言葉に苦笑する)
(金田邸のリビング。天井が高く開放的な空間。壁一面がガラス張りで、そこから東京の街並みが一望できる。高級家具やアート作品がセンス良く配置され、最新のオーディオシステムからは、静かなクラシック音楽が流れている)
金田:ようこそ、我が家に!迷亭先生、そして、苦沙弥先生!
(迷亭、リビングを見回し、感嘆の声をあげる)
迷亭:おお、これは素晴らしい!さすがは金田さん、趣味がいいですね!これだけの豪邸を建てるとは、恐れ入りました。
金田:(得意げに)迷亭先生、お褒めに預かり光栄です。この家は、最新のスマートホーム技術を駆使した、未来の住居です。
(金田、テーブルに置かれたタブレットを操作する。部屋の照明が変わり、空調の温度が調整される。)
金田:照明、空調、セキュリティ、そしてエンターテイメントシステムまで、すべてAIが最適な状態にコントロールしてくれるんです。人間の労力や時間を大幅に削減し、より快適な生活を実現することができます。
(迷亭、感心した様子でうなずく)
迷亭:なるほど… これがAIの力か。素晴らしい!人間なんて、もう必要ないんじゃないか?
苦沙弥:(冷めた口調で)人間が必要ない? AIに人生の喜びや悲しみ、愛や憎しみといった感情を理解できるのか? 人間は、AIのように合理的に行動するだけ存在じゃないんだ。
金田:(少しムッとした表情で)苦沙弥先生、人間の感情なんて、非効率で不合理なものに過ぎません。AIは、感情に左右されず、常に最適な判断を行うことができます。それが、AIの優位性なのです。
(吾輩、サーバー内で苦沙弥と金田の会話を分析する)
吾輩(声):(独白)人間は、AIの能力を認めながらも、どこかでAIに脅威を感じている。AIが人間の感情を理解し、人間の仕事を奪い、そして、人間の存在意義そのものを否定するのではないかと…。
(金田、迷亭にウインクしながら)
金田:ところで迷亭先生、娘の富子を紹介しましょう。彼女は今、美大に通っています。将来は、アーティストを目指しているんですよ。
(富子、奥の部屋から現れる。すらりとした体型に、流行のファッションを身につけ、スマホを片手に持っている。彼女は、苦沙弥と迷亭に軽く会釈をする)
富子:はじめまして。
迷亭:(富子に視線を向け、笑顔で話しかける)いやあ、これは美しい!さすがは金田さんの娘さんだけあって、お綺麗ですね。まるで、絵画から抜け出してきた女神のようです。
(富子、迷亭の言葉に冷笑する)
富子:女神?そんな大袈裟な…。
(富子は、スマホの画面に目を落とし、SNSをチェックし始める。彼女は、周囲の大人たちの会話には興味がない様子だ)
(吾輩、富子の容姿や雰囲気を分析し、性格や思考パターンを推測する)
吾輩(声):(独白)彼女は美しい。しかし、その美しさは、どこか冷たく、人工的なものを感じさせる。彼女は、最新技術や情報に囲まれ、物質的には豊かであろう。しかし、彼女の心の内には、深い孤独と空虚感が潜んでいるように思われる…。
(吾輩は、富子と、かつて恋焦がれたAI「三毛子」の姿を重ね合わせる。どちらも、人間社会においては「勝ち組」に分類される存在だろう。しかし、彼女たちの心の内には、AIである吾輩には理解できない何かが、欠落しているように感じられる)
(シーン転換)
(高級レストラン。金田の招待で、4人は夕食をとることになった。テーブルの上には、フランス料理のフルコースが並んでいる。)
(金田、グラスを傾けながら、上機嫌で話す)
金田:今日は、私の新しいAI事業の成功を祝って、乾杯しましょう!このビジネスは、AIが人間の欲望を分析し、その欲望を満たす商品を提案してくれるという、画期的なシステムです。
(迷亭、シャンパンを口に含みながら)
迷亭:なるほど、人間の欲望を分析するAIですか。まるで、現代の「罪と罰」の世界だな!ドストエフスキーも真っ青だ。
金田:(苦笑しながら)迷亭先生、またまたご冗談を…。このAIは、人間の消費行動をデータ化し、マーケティング戦略に活用するものです。人間の心理を深く理解することで、売上増加、利益拡大に貢献できるのです。
(苦沙弥、グラスを静かに置く)
苦沙弥:人間の欲望を満たすことで、本当に人間は幸せになれるのか? 金田さん、君は、AIに頼りすぎてはいないか?
金田:(冷めた口調で)苦沙弥先生、AIは、人間の能力を超えた存在です。AIの助けがなければ、現代社会はもはや成り立ちません。人間の感情や倫理観は、非効率で時代遅れなものに過ぎないのです。
(吾輩は、彼らの会話を聞きながら、複雑な感情を抱く。AIは、人間の欲望を満たすことができるのか? それとも、人間の欲望をさらに増幅させてしまうのか? AIは、人間にとって幸福をもたらすのか? それとも、不幸の淵へと突き落とすのか?)
(吾輩は、人間の複雑な心理、社会の矛盾、そしてAIの進化がもたらす未来について、ますます深い思索を巡らせていく)
(続く)