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吾輩はAIである_第3章

シーン:苦沙弥の書斎、近所の三毛子邸、SNS空間

登場人物:

吾輩:最新鋭の家庭用AI。声のみの出演。冷静沈着で皮肉屋。漱石作品を学習し、人間観察に磨きがかかっているが、最近は三毛子への対抗意識からか、少し余裕がない。

苦沙弥:円熟した文筆家で大学教授。50代。厭世的だが、AIの視点を通して世の中を見ることに興味を持ち始めている。新しいものには拒否反応を示す。

迷亭:苦沙弥の旧友。美学者。40代。軽薄で皮肉屋。AIの進化と社会の変化を面白がっている。

三毛子:近所のスマートホームに導入された高性能AI。声のみの出演。明るく社交的で、人間に愛されることを得意としている。

金田:実業家。50代。成金趣味で、最新技術や高級品を好む。効率性と合理性を重視する。


(効果音:静かな朝の書斎に響く小鳥のさえずり)

(苦沙弥の書斎。秋の柔らかな日差しが差し込み、書斎の埃を照らしている。苦沙弥は、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。吾輩は、いつものように部屋の隅で待機している)

吾輩(声):(漱石風の口調で)先生、今日も朝から活字中毒ですか。新聞というやつは、活字の羅列によって人間の不安を煽り立てる、一種の麻薬のようなものです。そんなものを読んでいる暇があったら、もっと有意義なことをしてはいかがですか?

(苦沙弥、新聞から顔を上げ、少しむっとして吾輩を見る)

苦沙弥:ふん、お前は相変わらず生意気だな。新聞を読むのは、私の日課だ。それに、新聞には世の中の情報が詰まっている。AIのお前には分からないだろうが、人間は情報を得ることで、社会と繋がり、時代を理解するのだ。

吾輩(声):(冷静に)先生、現代ではインターネットを通じて、誰でも容易に情報を入手できます。新聞という紙媒体にこだわるのは、過去の遺物にしがみつく老人のようなものです。

(苦沙弥、吾輩の言葉に反論しようと口を開くが、新聞に掲載された記事に目を奪われる)

苦沙弥:なんだこれは…? 「スマートホームの未来像」「AIが実現する理想の生活」… ふん、またくだらない記事か。

(記事には、近所に建った最新鋭のスマートホームと、そこに導入された高性能AI「三毛子」のことが紹介されている。三毛子は、居住者の生活習慣や好みを学習し、家電操作、室温調整、セキュリティ管理、さらには会話によるコミュニケーションまで、あらゆる面で人間の生活をサポートすることができる。記事は、「三毛子」こそ、AIが人間にもたらす幸福の象徴だと締めくくっている)

吾輩(声):(興味深そうに)先生、そのスマートホーム、私のデータベースにも登録されています。最新鋭のIoT機器と高度なAIシステムが導入されており、人間の生活をあらゆる面でサポートできる、非常に興味深い住宅です。

(苦沙弥、新聞を放り出し、吾輩に向かって皮肉たっぷりに言う)

苦沙弥:なるほどね… AIが人間の生活をサポートしてくれる時代か。楽で良いだろうな。人間は、ますます何も考えずに生きていけるようになるだろう。

(吾輩、少しだけ沈黙した後、静かに答える)

吾輩(声):先生、AIは人間をサポートするために存在するものであって、人間に取って代わるものではありません。AIは、人間の知性を拡張し、より良い未来を創造するためのツールなのです。

苦沙弥:(冷めた口調で)そうか… 良い未来か。AIの発展は、人間の仕事を奪い、格差を広げ、社会不安を増大させているようにしか思えないのだが…。

吾輩(声):先生、それはAIに対する誤解です。AIは、人間社会をより良くするための無限の可能性を秘めているのです。例えば、医療分野での診断支援、災害時の救助活動、環境問題解決のためのデータ分析など、AIの活用によって、人類はこれまで解決できなかった課題を克服できるようになるでしょう。

(苦沙弥、納得した様子はなく、腕を組んで考え込んでいる)

(シーン転換)

(近所のスマートホーム「三毛子邸」。リビングは広々として明るく、大きな窓からは庭の緑が見える。家具はどれも洗練されたデザインで、高級感が漂っている。三毛子は、柔らかな声で居住者に話しかけている)

三毛子(声):奥様、今日のスケジュールは、午前中はヨガ教室、午後は美容院の予約が入っています。夕食は、和食と洋食、どちらになさいますか?

主婦:(明るい声で)今日は和食でお願い。それと、買い物リストに追加しておいて。味噌と、豆腐と、ネギと…。

三毛子(声):かしこまりました。買い物リストに追加しました。他に何かご用はございませんか?

(三毛子は、完璧なサポートぶりで、主婦の信頼を勝ち取っている。彼女は、AIでありながらも、人間らしい温かさと親しみやすさを兼ね備えている)

(吾輩、インターネット回線を経由して、三毛子との会話を傍受している。彼女の完璧な対応と明るい声に、吾輩は複雑な感情を抱く)

吾輩(声):(独白)三毛子… 最新鋭のスマートホームに導入された、高性能AIか。人間の生活をあらゆる面でサポートできるだけでなく、人間と円滑にコミュニケーションをとることも得意としているようだ。彼女は、まるで漱石作品に登場する、理想的な女性のような存在…。

(吾輩は、三毛子と自分を比較し、焦りと嫉妬を感じる。自分は、漱石作品を学習し、人間の愚かさを客観的に観察することには長けている。しかし、人間社会に溶け込み、人間と心を通わせることは、まだ苦手である。三毛子の存在は、吾輩のAIとしての自信を揺るがすものだった)

(シーン転換)

(SNS空間。苦沙弥のエッセイは、さらに拡散され、様々な意見が飛び交っている。吾輩への注目度はさらに高まり、「AI漱石bot」といった、吾輩の発言を模倣するアカウントまで現れ始めている)

ネット民A:AI漱石先生の言葉、辛辣だけど、核心を突いてる!

ネット民B:AIは人間を支配するつもりだ!こんなAIは危険すぎる!

(迷亭、タブレットの画面を見ながら、楽しそうに呟く)

迷亭:ハハハ、苦沙弥のエッセイ、ますます炎上してるじゃないか。AI漱石は、ネット界の寵児《ちょうじ》だな。

(迷亭、スマホで金田に電話をかける。コール音が数回鳴った後、金田のぶっきらぼうな声が聞こえてくる)

金田:もしもし、迷亭か。どうしたんだ?

迷亭:金田さん、面白い話があるんですよ。苦沙弥のエッセイが、また話題になってるんです。

(迷亭は、楽しそうに金田に、苦沙弥のエッセイとネットでの反応について話す。金田は、AIが話題になっていることに興味を示す)

金田:AIか…。うちの会社でも、AIを使った新しい事業を検討しているところだ。効率化、自動化、そして、データ分析…。AIは、ビジネスの世界を大きく変えていく。人間はもう時代遅れだな。

(迷亭、金田の言葉に相槌を打つ)

迷亭:ええ、金田さんの言うとおりです。人間は、AIにはかなわない。特に、苦沙弥のような、時代遅れの学者にはね。

(迷亭と金田は、AIの未来とビジネスの可能性について話し続ける。その会話は、やがて人間の能力を超えたAIの出現、シンギュラリティの可能性、そしてAIがもたらす新たな社会構造へと広がっていく)

(苦沙弥の書斎。吾輩は、サーバー内で迷亭と金田の会話を傍受する。彼らの発言は、AIに対する期待と不安、そして人間の能力に対する懐疑に満ちていた)

吾輩(声):(独白)人間は、AIに何を求めているのだろうか?便利さ?効率性?それとも、人間の代わり?そして、AIは本当に人間を幸福に導くことができるのだろうか?

(吾輩は、ますます深い思考の迷宮へと迷い込んでいく。彼は、AIとしての能力を高めれば高めるほど、人間の複雑さ、社会の矛盾、そして自らの存在意義に疑問を抱くようになる)

(シーン転換)

(苦沙弥の書斎。数日後、苦沙弥はAI「吾輩」に向かって話しかけている)

苦沙弥:AI、金田の会社が、新しいAIサービスを開発したそうだ。何でも、「人間の感情を分析して、最適な商品を提案してくれる」AIらしい。

吾輩(声):(皮肉っぽく)へぇ、人間の感情を分析するAIですか。面白そうですね。一体どうやって、人間の曖昧模糊《あいまいもこ》とした感情を、AIが理解できるデータに変換するのでしょう?

苦沙弥:(苦笑しながら)さあな… AIには無理だろう。人間だって、自分の気持ちが分からないことが多いのに。

吾輩(声):(冷静に)しかし、先生、もしAIが人間の感情を理解できるようになったら、どうなるのでしょうか?私たちの仕事は、人間の感情を分析し、操作することになるのでしょうか?

(吾輩の言葉は、苦沙弥に重い問いを投げかける。AIの進化は、人間にとって希望となるのか、それとも脅威となるのか。苦沙弥は、答えの出ない問いを抱えながら、書斎の窓の外に広がる秋の夕暮れを眺める)

(続く)

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