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大殿筋の機能解剖−歩行における上部線維と下部線維の役割–

今回は、復習がてら大殿筋についてまとめていこうと思います。

大殿筋は、下肢で最も大きい筋肉ですが、実際どのように働いているのかパッと答えられますか?

私自身、少し記憶が怪しくなったので文献から調べた内容を解説していこうと思います😊


大殿筋の機能解剖

【大殿筋】起始:腸骨綾、上後腸骨棘、胸腰筋膜、仙骨(後面外側部)、尾骨
     停止:腸脛靭帯、殿筋粗面
     神経支配:下殿神経L5~S2
     作用:股関節伸展・外旋

上記が大まかな大殿筋の機能解剖となりますが、大殿筋には上部線維下部線維が存在し、それぞれ違った走行と作用を持ちます。

また、文献によっては浅部線維深部線維に分けて報告しているものもあります。

因みに、浅部線維は上記の起始から腸脛靭帯に走行するもののことで、後殿筋線の後方・仙結節靭帯・中殿筋筋膜から大腿骨の殿筋粗面にかけて走行しているものを深部線維といいます。

さらに、起始部について深ぼっていきましょう。

起始に胸腰筋膜と記載されていますが、胸腰筋膜をざっくり説明すると脊柱起立筋を覆っている筋膜であり、大殿筋と対側の広背筋を連結しています。

加えて、下図に示すような組織と連結しています。

出典:Willard FH,Vleeming A,Schuenke MD,Danneels L,Schleip R;The thoracolumbar fascia;anatomy,function and clinical considerations.J Anat.2012 Dec;221(6);507-36.

つまり、大殿筋の緊張に伴って胸腰筋膜に連続する多裂筋や腹横筋などの体幹筋、僧帽筋や広背筋などの肩甲帯周囲筋、大腿二頭筋や殿筋膜を介して中殿筋といった下肢筋にかけて、広く影響を与えていることが考えられます。

また、停止部では、腸脛靭帯を介して大腿筋膜張筋やガーディー結節に連続しており、股関節外転や膝関節伸展にも影響を与えています。

これらのことから、大殿筋は体幹と下肢の連結に不可欠な存在であり、場合によっては上肢にまで影響を及ぼす筋肉と言えるでしょう。

上部線維と下部線維

先ほど述べたように、大殿筋には上部線維と下部線維が存在します。

2線維の分け方としては、股関節の大腿骨頭中心を通る内外転軸の上方が上部線維、下方が下部線維として分けられています。


出典:青木隆明,林典雄:運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹 改訂第2版.2012;162.

上記のイラストから考えると、内外転軸上方にある組織の起始・停止が近づくと股関節は外転することが考えられますね。

逆に、内外転軸の下方にある組織の起始・停止が近づけば、股関節は内転しそうですね。

つまり、上部線維は外転作用下部線維は内転作用を有していると報告されています。

歩行時の役割

大殿筋の作用として、伸展・外旋に加えて、外転と内転があると述べましたが、歩行時はどのように作用しているのでしょうか?

股関節伸展

大殿筋は、歩行周期において遊脚終期から荷重応答期で収縮することで、股関節の屈曲を減速+伸展の開始に作用します。

出典:畠中泰彦:臨床に役立つ歩行運動学.2022;74.

初期接地時には、床反力+対側下肢の蹴り出しエネルギーに加えて、慣性による推進力が働いています。

この状況において、大殿筋機能不全があれば慣性に負けて体幹が前方に倒れるジャックナイフ現象が引き起こされてしまいます。

また、大殿筋機能不全の場合、股関節屈曲に対して制動がかけられないため代償的に体幹を後方へ倒し、股関節前方組織に支持を委ね、股関節伸展を作ります。

これが、大殿筋歩行と呼ばれる歩容ですね。

そのため、大殿筋は、遊脚終期から収縮を始め、初期接地時に生じる股関節屈曲モーメントに対して作用することで屈曲運動を制動させ、体幹の支持に働いています。

また、その後の立脚期に向けて股関節伸展運動の開始に働きます。

つまり、中殿筋が股関節の左右方向の安定性に関与するのに対して、大殿筋は股関節の前後方向の安定化に関与していると言えます。

股関節外旋

股関節外旋には、大殿筋の他に外旋六筋が働きますが、大殿筋が最も股関節内旋を制御する能力を有しているとされています。

さらに、大殿筋によって大腿骨に外旋モーメントが加わると、荷重応答期に腸脛靭帯を介して脛骨内旋を減速させるように作用すると報告されています。

脛骨内旋は、距骨下関節の回内によって生じるため、大殿筋が同時期に作用することで股関節・膝関節の安定性を増加させていると考えられます。

また、大殿筋上部線維は腸脛靭帯に連結しているため、股関節内転位となる荷重応答期から立脚中期にかけて大殿筋が安定性に寄与するとされています。

走行中においては、膝関節屈曲角度が増加するにつれて股関節・膝関節の安定性に影響を与えるため、スタートダッシュやダッシュ力アップのために強化が必要な筋力とされています。

股関節外転

先ほど述べたように、上部線維は腸脛靭帯に連結しているため、股関節屈曲位において外転筋として作用します。

ところで、上部線維は歩行中よく働いているように感じますが、下部線維は一体どのように働いているのでしょうか?

上部線維が外転に働くように、下部線維にも走行的に内転に働く作用があるように思われますが、実のところ歩行中は内転筋として機能することはないそうです。

その代わり、下部線維は初期接地時に上部線維に先行して働くとされており、股関節伸展筋としての機能が大きいです。

しかし、歩行中は見掛け上の股関節伸展のために腰椎前弯が生じるため、そこまで大きな収縮が求められることはありません。

そのため、股関節伸展の補助として働くが、下部線維の役割の大部分は立脚初期に生じる股関節屈曲制御にあるとされています。

まとめ

大殿筋の機能解剖についてまとめましたが、皆さんの参考になれば幸いです。

上部線維と下部線維についてまとめると、上部線維は立脚初期から中期に股関節外転作用による股関節内転制御として機能し、下部線維は立脚終期の股関節伸展補助と立脚初期に股関節伸展作用による股関節屈曲制御として機能します。

このように同じ筋肉でも走行によって作用が変化する筋肉も存在するため、求める身体の動きに合わせて選択的に筋肉へアプローチできると、より濃いリハビリが提供できるのではないでしょうか😊

覚えてもすぐ忘れちゃうのが嫌になるところなんですけどね😅

なので、せめて大殿筋歩行やジャックナイフ現象を目にした時だけでも、復習がてら覗いてみてください。

それでは、今回はこの辺りでおしまいです。

今後も皆様の役に立つ情報をお伝えできればと思います。




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