JAIST社会人セミナー「異文化コラボで1+1を3にする」
JAIST社会人セミナー2018 地域人材育成セミナー【水曜学ぶでしょう】。
第3回です。2018年6月27日開催の講座に参加したときの話です。
この日開催されたのは「異文化コラボで1+1を3にする」。
講師は、国連大学サスティナビリティ高等研究所「いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット」事務局長を務めていらっしゃる、永井三岐子さん。
国外で環境分野を中心に国際協力と研究活動のマネージメントに携わった経歴を経て、現在は金沢を拠点として、主に環境分野の持続可能性に関する学術研究と政策提言の活動をされておられます。
セミナー参加の動機
今回受講を決めた動機は、JAISTセミナーでは個人的によくある「副題に惹かれて」でした。
~違いを魅力に変えるコミュニケーション~
自分と他者との違い、意見の違い、ものごとの感じかたや考えかたの違い。そういったものを如何に理解に努めて認めることができるか、理解してもらって認めてもらえるか。ひいては、力を合わせて1+1を3以上にするのか。
そのヒントになることを知ることができないか、というのが、自分にとっての最大の動機でした。
講義の内容:そもそも「文化」とは?
異文化云々を言う前に、そもそも「文化」とは?
こう定義されています。
知識、信念、芸術、道徳、法、慣習、その他およそ人間が社会の構成員として獲得した能力や習慣を含む複合的全体
- レジュメより引用 -
その「文化」。もう少し具体的にみていくと...
言語
衣食住
といった、可視化される要素。このあたりはわりとよく「文化の違い」として認識されやすいところでしょう。
ところが「文化」とはそれだけではなく、
経済システム(政治行政も含む)
社会規範(家庭・職場などの人間関係)
宗教
といった、あまり可視化されない(されにくい)要素もまた文化(永井さん曰く「体験上の文化」)である…
これら全体の違いを「異文化体験」として捉えるのです。
講義の内容:異文化の体験と理解
永井さんが留学され、引き続き就職されたフランスでは、文化的価値観の二項対立を感じたとのことです。
「フランス的価値観」と「日本的アイデンティティ」。両者の文化の違いを体験され、それぞれの国や地域の言語(語学)に長けていればそれで良いというものではないということを感じられ...
その後、モンゴルへ渡って環境問題などのプロジェクトコーディネーターを務めた際には、当時、社会主義国であり市場経済が導入される前のモンゴルの「文化」に触れて、今度は、かつて二項対立を感じていたフランスの文化と日本の文化との共通点、当たり前の共通項 ~市場経済システム下の先進国の価値観など~ に気づかれた。
さらに、タイと日本の複数の機関同士の連携による気候変動適応策プロジェクトに携わった際には、両国の政府関係者同士、研究者同士、技術者同士…それぞれの立場同士では、国を超えて「文化」を分かり合うのは比較的容易だったという体験を経て...
現在、石川県内という地域内でも、さらに複雑な関係者同士…政策立案者から研究者、消費者や観光客までもが、持続可能性のためにという共通のミッションに向かって「異文化を越えて地域の価値を共に創る」ことを目指しているということです。
講義の内容:異文化=ソーシャルキャピタル
「文化が違う=価値観が違う」と言うと、なんだか相手を突き放すような、排他的なニュアンスが感じられます。
しかし、先に挙げた、
経済システム(政治行政も含む)
社会規範(家庭・職場などの人間関係)
宗教
といった、あまり可視化されない(されにくい)要素の違いまでも、ただ「自分たちのそれとは異なるもの」と捉えるのではなく、自分とは違うところに居る人の「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」と捉えて、
信頼 …直接的な人間関係における信頼、情報など間接的な対象への信頼
規範 …社会で共有されている道徳観念など
ネットワーク …相互のつながり
これらを認知し合うことによって、異なる文化を持つ人間同士の協調が生まれていく、というわけです。
「異文化」を「ソーシャルキャピタル」と読み替えて互いに共有すること
そのためには、さまざまな異文化・多文化、当事者の事情・価値観、当事者を取り巻く環境を、理解・受容・活用し合う能力、多様な資源や資本を持ち寄った「協働」をしていく姿勢、また、それを評価することが求められます。
したいという思いだけでは、異文化コラボは実現できない
互いの「違い」よりも「共通項」を見つける意識を持って、ソーシャルキャピタルとして蓄積する。それがあってこそ、異なる文化背景を持つ人間同士が協働して、1+1が3になるほどの効果を生むということです。
講義の内容:リベラルアーツの再評価
さらには、異文化を深く味わい理解することは、自分が属する文化を多角的に理解することが不可欠であって、それには「リベラルアーツを再評価する」ことが必要になるということです。
リベラルアーツ...あまりよくわかっていません。
あらゆる分野のものごとを幅広く考える力のことだろうかとぼんやり思っていました…それには「哲学」や「思想」の分野に親しんでものの考えかたや道理の幅を広げることかな、と思っていましたが、そういうことだけではないようです。
ある特定の専門分野のみに精通するだけではなく、広範な分野を横断的に行き来して、全体的な視点でものごとを見ることのできる素養、というほどの意味でしょうか。
例えて言えば「一本の木だけではなく、森全体を見ることができる視点を持つ」というイメージで捉えれば、それほど間違ってもないかなと思います。
所感
講師の永井さんの、現在のご職業、そして経歴。
それがあまりにも物凄く感じられて、これまでに参加してきたJAISTセミナーではかつてなかったほど、開始前に最も強く緊張してしまっていました。
永井さんは、かつて滞在し活動をされたモンゴルの衣装をまとった姿で講義を始めていきました。途中、しゃべってたら暑くなった…と、衣装を脱いでシンプルな出で立ちで続きを。その姿と振る舞いによって、難しくて中身の濃い講義内容をあまり硬い気持ちにならないで聴いていくことができたように感じられました。
経歴の説明を経て(やっぱりとんでもなくスゴい!)、「そもそも文化って?」と、文化という言葉の定義を確認するところから始まりましたが…
いや~、なんとなく漠然と感じていたよりも遥かに広いんですねえ。芸術、慣習、知識、あとは道徳も含まれることもあるかな…くらいにしか認識していませんでした。
だけども「社会の構成員として獲得した能力や習慣を含む」と言われると、ああ、確かに!と。普段から意識的にしろ無意識的にしろ、自分が触れている、為していること全般が文化だと、腑に落ちる感じがしました。
普段食べている食事だってそうでしょう。
普段話している言葉だってそうでしょう。
国、地域ならではの独自の要素がいろいろとあって、自分が属して馴染んでいるそれが自分ごととして当たり前のように馴染んでいたり、別の場所のものが異質に感じるもので、それを「文化が違う」と言ったり思ったりする。
そういうことだと考えていくと、先に引用した、一見小難しい感じの定義も
当たり前のことを言っているんだなあとも感じるのでした。
最後に、このセミナーを主催されているJAISTの敷田さんからのコメントと、そこから感じたことを。
文化とは「意味を説明する」こと。
特定の文化のみを保全するだけではなく、文化の変容を受け容れること。
独自性のある文化ほど、支援と共有が必要。
グループ主義で内輪に閉じて対立するのではなく、グループ間の「議論」 「ディスカッション」の先にあるものへ向かう意識を持つ。
それが、文化の違いを越えて、1+1が3以上になる効果を生む。
講義の内容も簡単なものには感じなかったし、こういうことを柔軟に実践することもなかなか思うに任せないでしょうけども、多くの人やものごとに関心を持って、その動きを持続させていくところからはじめていくといいのかな、と感じました。
JAIST社会人セミナーについて
JAIST(ジャイスト)とは、北陸先端科学技術大学院大学の略称です。
この大学自体は石川県能美市にありますが、金沢駅前の日航ホテルに隣接する「ポルテ金沢」のオフィス棟の中に、金沢駅前オフィスとしてやや小規模な研修スペースがあります。
JAIST社会人セミナーは、毎月後半の水曜日に開催されています。
事前の申し込みは必要ですが、受講にあたっての前提知識や資格のようなものは特にありません。誰でも無料で参加できます。
北陸先端科学技術大学院大学ホームページ:
https://www.jaist.ac.jp/index.html
JAIST社会人セミナー案内(事前申し込みはここからできます):
https://www.social-jaist.com/
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あまり敷居が高いものと捉えずに、毎月後半あるいは月末の、水曜日の夕刻から夜にかけて。敷居の高い教育機関が提供する、気軽に参加できる学びの場。そこでひとときを過ごして学び楽しむのも悪くはないと思いました。
「水曜学ぶでしょう」試しに如何でしょう?