Spenser 11 才能あるも
現役時代に D君 という青年がいた
いつもふらりと現れては よもやま話をする
有名私立大法科卒 そして 新興宗教の元祖といえる
知る人ぞしる存在を祖父に持つ 直系の孫
服装はいつも 気崩れした背広で 所属は総務部
何故か気に入られているのか 元気ですか と
そばに来ては 斜めに腰掛ける
単独で分厚い社史を編集する男には見えない
招かれて実家にも行き 父親が執筆した 元祖である
祖父の伝記 確か十数冊の大作を 土産に持たされた
やめとけ とアドバイスした あるベンチャーへの投資
さらに やめとけ と強く止めた 惚れられて追い掛け回された
女性との結婚
どこからそんな資金が湧いてくるのだろう 他にも
驚くばかりの不動産投資も
そのベンチャーの社長は 開発に失敗し 自殺し
投資した数百万円がこげつく
突然の電話で 今一人暮らし中と
あれだけ惚れられていたはずの 配偶者と 子供たちから
排斥されていると言うのだ
おまけに 片足が突然 不自由になり歩行もおぼつかない と
しばらく電話がないな と思っていたら
亡くなった と 知り合いから知らされた
いきさつは不明だが もしかしたら 自死ではないか
あれだけの才能を持ちながら 何という人生なのだ
彼の周りには 親身になって彼を導ける人たちは
いなかったのだろうか
偉そうなことをいう程 彼のサポートをしたのではない
のだから 彼が聞いたら怒って 来るかもしれない
いや そう また 突然に電話をしてこいよ D君
君ほどの才があれば 何だってやれたはずだ
なのに どうして 周りの人たちに 振り回されるような
生き方をしたんだ と 悔しい限りなのだ
もう遅いが どうして一度 彼と ここ K ででも
ゆっくり交歓しなかったのか 慙愧に堪えない
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