永遠に手放せないものの話
「夢っていうのは厄介なもんだ。」
私の祖父がボソリと言った。今年70歳になる彼はまだ背筋もピシッと伸びているし、記憶力も衰えを見せていなかった。
「どうしたの、じーちゃん。急に。」
老いを感じさせない祖父のため息交じりの言葉がすごく気になったので、私は手を止めた。
「夢っていうのは本当に厄介なものだな。忘れようとしてもふとしたときに蘇ってきちまう。」
祖父は持っていた手紙を見せてくれた。何と役者のオーディションの結果発表だった。
『残念ながら今回はーー。』
という文字が見えたのでパッと祖父の顔を見たら、悔しくて泣き出しそうだった。まるで夢見る若者のようだ。
「お前は笑うかい?この歳になってもまだ諦めきれないんだよ。」
ハァ、とため息をつく祖父にわたしは黙ってパソコンの画面を見せた。書きかけの小説を見た祖父に言った。
「諦めの悪さがじーちゃん譲りなのはわかった。」
もう何度応募したのか分からないぐらいだった。たぶん祖父も同じだろう。
祖父はパソコンから目線を離して、私を見てニヤリと笑った。そしてわしわしとあたまを撫でてくれた。
「生きてる間に叶えられりゃ、歳は関係ねぇわな。」
私は頷いて、再び手を動かした。祖父はあーえーいーうーと唸り出した。やはり、祖父譲りだったのだろう。
以上、らずちょこでした。
※この物語はフィクションです。
ここまで読んでくださった皆様に感謝を。
ではまた次回。