愛されたい彼女と愛したい彼の話【後編】
朝、蓮が起きると育美が既に朝食を用意してくれていた。全ての支度を終えた育美が座るのを見て自分も座ると、コーヒーを渡された。
美味しそうな匂いがするのに、蓮は気分が良くなかった。育美が話し出すことを何となく察してしまったから。
「…あのね、蓮。私ちゃんと1人でご飯作れるよ?」
蓮は黙ったままだった。
「走ったりしなければちゃんと移動できるし、掃除とか洗濯とかも大丈夫だよ?」
「…重すぎると持てないだろ。」
「そういうときは誰か呼ぶよ。」
「俺がいるだろ。」
育美はため息をついた。そして言った。
「終わりにしよう。こんな生活。」
蓮は項垂れた。いつか言われると思ってたし、言われないかと望んでしまったこともある。
「…俺はもう、いらない?」
そう聞くと育美はブンブンと首を横に振った。
「あなたを解放したいの、好きな人出来たでしょ?」
言うのも辛かった。好きな人に好きな人がいるなんて。そしてそれを否定してくれないことも。
「解放も何も、俺には育美が必要なんだよ。育美の傍にいたいんだ。好きなんだよ。」
育美はずっと涙を堪えて微笑んでいる。蓮は逆に涙を抑えずに流したままにしていた。育美はすうっと息を吸うと、ずっと言いたかったことを言った。
「それはただの罪悪感で、愛じゃないよ。」
蓮は顔を伏せた。そしてこぶしを膝の上で握りしめた。
どうして俺は彼女を愛せないのだろう。どうして他の人を好きになってしまったのだろう。
彼女を、愛したかったのに。
そんなことを考えて、動けなくなってしまった。
育美もさすがに堪えきれず、一筋だけ涙を流した。
どうして私は彼に愛されないのだろう。どうして他の人を好きになれないのだろう。
彼に、愛されたかったのに。
それでも育美はティッシュを取りに行き、蓮の前に置いた。
「もし、さっきの言葉が本当になったら、また伝えに来て。」
覚悟は決まっていた。この先、何があろうとも蓮を待ち続けるんだと。
2人で住んだ部屋は、いつも以上に悲しい白さで、住人を見守っていた。
ただその白は、新しい朝がもたらしてくれる優しさも秘めていた。
終わり
以上、らずちょこでした。
※この物語はフィクションです。
ここまで読んでくださった皆様に感謝を。
ではまた次回。
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