綿矢りさ『インストール』が好きすぎてオマージュ小説を書いてみた
『文壇のアイドル・リサちゃんがツーショットチャットルームを開設したよ! みんな気軽に遊びに来てね♪』2001年の文壇に彗星のごとく現れ話題をかっさらった17歳の女子高生作家・綿矢りさ。彼女の処女作「インストール」のオマージュ短編です。チャット文体なのですぐ読めます。5000字。「インストール」を読んだこと無くても楽しめるよ!
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リサさんが入室しました。
タカさんが入室しました。
タカ>リサちゃんお早う タカといいます出勤前の俺の相手して!
タカ>リサちゃんいる?
タカ>おーい
タカ>ハイ?(^^;)
タカ>なんか言ってよ、ねえ
リサ>ごめんなさーい みやび、今 一人エッチしてたあ
タカ>wwwwwwwwwwww
タカ>朝からwwwww
タカ>リサちゃん最高(^O^)
リサ>かかってきなさい、楽しませてあげるわ。
タカ>んーそうだな 色々教えてほしい(^O^)
リサちゃん>♪
タカ>リサちゃんはどうやってこんな話を思いついたの?
リサ>コンピュータ及びチャット
タカ>へえ(^O^)
タカ>エッチな世界ものぞいてたの?
リサ>にゃーん。
タカ>ごまかす?w
リサ>その中で光るエロチックな写真と、そこから広がる私の知らない世界。おもしろそうだった。
タカ>見てたんだ(^o^)
リサ>ぬれた。一つHな言葉を書かれるたびに、一つHな言葉を書くたびに、下半身が熱くたぎって崩れ落ちそうになり、パンツが湿った。
タカ>え? てことはリサちゃんもチャットやってたの?(*^.^*)
リサ>キーボードをひたと見つめながら軽やかにキーを叩き
タカ>プロw
タカ>エッチなチャット?
リサ>制服着たままエロチャット
タカ>えっろ (*^.^*)
タカ>てかリサちゃん17歳じゃない?18禁のサイトにアクセスしてたって事?(・・?
リサ>もう十七歳という気持ちと、まだ十七歳だと安心する気持ちが交差する。
タカ>複雑なオトシゴロ?(*^.^*)
リサ>エロの世界は、大人にぶっつけられる前に自分から飛び込んで行ったら、恐くないものなんだ。
タカ>身体はオトナだもんね♪
リサ>今やってることの不健康さに感じてしまう。
タカ>ヤバい
タカ>オレも
タカ>勃ってきた
タカ>出勤前なのにww
タカ>どうしてくれる?
リサ>にゃーん。
タカ>遅刻するw
タカ>またくる(*^.^*) ありがと たのしかった 短い時間にごめんね 落ちるね
タカさんが退室しました。
ARASHIさんが入室しました。
ARASHI>こんばんは
リサ>かかってきなさい、楽しませてあげるわ。
ARASHI>仕事つかれたー
リサ>なんのお仕事してるの?
ARASHI>コンピューター関係のサラリーマン
このところ忙しかったから すごい精力たまってるわけ
リサ>リサのところに来てくれてウレシイ!
ARASHI>満足させろよ
リサ>気分は博打女郎
ARASHI>リサは高2だっけ?
リサ>セックスも体験していない処女の十七歳
ARASHI>処女? 彼氏もいないの?
リサ>死にたーい。
ARASHI>死ぬ前に俺とヤろうよ
リサ>おもしろいね、話聞かせてよ。
ARASHI>俺のセックスはスゴいよ
リサ>セックスにかなりの警戒心を抱いたりしていた
ARASHI>大丈夫 リードするよ
リサ>何歳?
ARASHI>俺? 28
ARASHI>俺をモデルにして官能小説書いてよ
ARASHI>カーセックスとか興味ある?
リサ>まだお酒も飲めない車も乗れない
ARASHI>運転は俺がするから関係ないでしょw
ARASHI>BMW乗りたくない?
リサ>けどそれが?
ARASHI>興味ない? 海にいこうよ。
リサ>飛び込めば人生の目標やら生きがいやらを見つけられるかもしれないし
ARASHI>飛び込まないけどw
ARASHI>リサちゃん過激だね
リサ>♪
ARASHI>そのへんの汚い海じゃなくて、湘南まで連れてくよ。どう?
リサ>薄汚いロマンの雰囲気
ARASHI>ハ?
ARASHI>何? いきなり何キャラ?
リサ>自分をキャラクター化している傾向が強い。新しい自分をネットの中で創造し、それになりきって電脳世界を永く彷徨う。
ARASHI>ハ?
ARASHI>俺が?
ARASHI>調子乗んなクソアマ
ARASHIさんが退室しました。
安藤さんが入室しました。
安藤>こんにちは。安藤と申します。
リサ>かかってきなさい。楽しませてあげるわ。
安藤>頼もしいw
リサ>新世界突入!
安藤>ハイテンションですねw
リサ>しかしそれはチャット嬢になりたての頃だけの話であって、二週間たった今ではそのようなウブさは全くない。慣れた。
安藤>チャット、楽しんでるんですね
リサ>わくわく
安藤>わくわく
リサ>短い返事をどれだけテンポ良く画面に乗せるか、そこがミソだな。
安藤>分析的ですね
安藤>さすが、天才文学少女☆
リサ>中学生の頃には確実に両手に握り締めることができていた私のあらゆる可能性の芽が、気づいたらごそっと減っていて。
安藤>焦ってるんですか?
安藤>まだ高校生だから、大丈夫ですよ。
リサ>それはね、
安藤>リサさんって普通に高校通ってるんですか?
リサ>劣等生
安藤>自虐的w
リサ>あ、それはめでたい、
安藤>?
リサ>幸せ?
安藤>僕ですか? まあ、そこそこには。
安藤>仕事も安定していますし、妻子もいますし。
安藤>リサさんは幸せですか?
リサ>また変なロマン追いかけてる。
安藤>ロマンって、恋愛ですか?
リサ>変に情緒がある。
安藤>お年頃ですものね☆ リサさんって好きな男性のタイプは?
リサ>私は男の子の恥ずかしがっている顔を見るのが大好きである。
安藤>リサさんって結構Sなんですか?
リサ>かかってきなさい。楽しませてあげるわ。
安藤>Sっぽい顔立ちだなあと思ってたので、うれしいです
リサ>おもしろいね、話聞かせてよ。
安藤>僕はMなんです。
リサ>かわいそうだね?
安藤>ああ
リサ>IT社会、世も末だなあ
安藤>そうですよね こんなところで知らない若い女の子に……
安藤>でもこういうところでないと、自分の性癖を告げる相手もいないのです
リサ>好奇心丸出しにして眼を輝かせて聞く態勢に入った。
安藤>本当ですか
安蔵>本当だったら、嬉しいです
リサ>私自身だって、そりゃもう年齢も名前も嘘だらけ、インターネット上の匿名性を思う存分利用させてもらってここにいるので生意気なことは言えない
安藤>え? リサさんって、女子高生じゃないんですか?
リサ>やはり女子高生というのはブランドらしい
安藤>女子高生ではないのですか?
リサ>実は本物の女子高生ですと名乗りたくなるようなチャットの会話は、幾度となく繰り返された。
安藤>すみません
安藤>なんか萎えてしまったので、やめます
リサ>オカマー
安藤さんが退室しました。
のりひろさんが入室しました。
のりひろ>突然やけど聞かせてもらう リサが一番感じるトコってどこ!?
リサ>あのね、あそこの、でっぱったところ。
のりひろ>クリトリス?
リサ>やあだ
のりひろ>クリトリス
のりひろが退室しました。
あなたのお母さんさんが入室しました。
リサ>かかってきなさい、楽しませてあげるわ。
あなたのお母さん>母です。梨沙、こんなところで何してるの。
リサ>今日はこういう日、お母さん大登場の日。
あなたのお母さん>早く支度して芥川大作家先生のおちんぽぴゅっぴゅしにいくわよ!
あなたのお母さんさんが退室しました。
カトウさんが入室しました。
リサ>かかってきなさい、楽しませてあげるわ。
カトウ>威勢がよろしい
カトウ>新進気鋭の女流作家がなぜチャットを始められたのか興味を持ちました。
リサ>ジャーン!
カトウ>新作に向けて取材ですか?
リサ>それよりこれからどうしましょう。
カトウ>どうって? 才能あるあなたとお話がしたいです。
リサ>おしゃべりおしゃべり、
カトウ>次回作はもう執筆されているのですか?
リサ>やはり自分を天才だと思わせたいし思いこみたい
カトウ>意気込んでいますね。次は芥川賞狙いですか?
リサ>歌手になりたい訳じゃない作家になりたい訳じゃない
カトウ>そうなのですか? 意外です。作家として邁進されるのかと。
リサ>全部捨てなければ!
カトウ>名声も?
リサ>にゃーん。
カトウ>小説家になる気は無かったのにインストールを文藝賞に応募したのはなぜ?有名になりたかった?
リサ>だってあたしには具体的な夢はないけど野望はあるわけ。きっと有名になるんだ。テレビに出たいわけじゃないけど。
カトウ>デビューしたかった?
リサ>私はそうやってすぐ変人ぶりたがる。
カトウ>目立ちたかったということですか?
リサ>ヒステリックさを感じるほど
カトウ>目立ちたいから、あんな話を?
リサ>私、女子高生として、旬は旬なりの決断を下さねばならない。
カトウ>エロスをテーマにとったのは話題性も狙ったのですね。
リサ>自称変わり者の寝言
カトウ>あなたは面白いですね、リズムや言い回しが独特で、流石気鋭作家。
リサ>そう、良かった。
カトウ>あなたが作家として一皮剥けるにはもっとエロスの研究が必要かと思います お若いうちに
リサ>例えばこの若さ、新鮮な肉体。
カトウ>そうですね。
カトウ>最近セックスしましたか?
リサ>ばかみたい。
カトウ>大事な話ですよ。
リサ>やらせていただきます。
カトウ>流石理解が早い。
リサ>忘れていた真面目な本能が体の奥でくすぶっていた。
カトウ>本能を解き放ってください。
リサ>ぶるぶる
カトウ>今、どんな服を着ていますか?
リサ>軽い風が吹いて、何度もスカートがはためき、その度にいちいちパンツが見える。
カトウ>いやらしいですね
リサ>あんた、私のこともインストールしてくれるつもりなの?
カトウ>そう。私にインストールします。
リサ>ああん
カトウ>インスコスコ
リサ>きゃ
カトウ>だいじょうb
リサ>道の踏み外しである。
カトウ>motto
カトウ>a
リサ>ぶるぶる
カトウ>iku
リサ>昇天、してしまったらしい。合掌。
カトウさんが退室しました。
聖璽さんが入室しました。
リサ>かかってきなさい、楽しませてあげるわ。
聖璽>堕落した文壇に舞い降りた天使よ、今宵あなたと言葉を交わしたい。
リサ>そう、良かった。
聖璽>僕が貴女の『インストール』を読んで一番感じ入ったことは、若さ、女子高生、人妻などの属性が記号的に取り扱われていることだった。
聖璽>同時に客としてチャットに訪れる男達も、悲しい性欲一点のみに集約された匿名的な存在に堕していると考えられた。
聖璽>貴女が『インストール』で書きたかったことは、電脳世界の刹那的なかかわりによって記号的な存在に堕してしまう人間存在のむなしさなのだろうか?
聖璽>しかしラストシーンでは主人公野田が、生身の人間との真面目なつながりを希求している。人間は記号的な存在ではなく生身を持って分かり合えるのだ、という前向きな主張にも読み取れるが、しかし、
聖璽>主人公があまりに能天気に不登校から脱するように思われてしまった。むしろ真逆で、記号的になりがちなチャットの世界でなんとか人間性を取り戻す物語にする方向性は無かったのだろうか。
聖璽>そう、まさに今、僕達がしている、いや、しようとしているように、
リサ>何が変わった?何も変わらない、私は未だ無個性のろくでなし
聖璽>嗚呼絶望しないでください。僕が貴女を立体の存在にする。
リサ>この何者にもなれない枯れた悟りは何だというのだろう。
聖璽>僕だってしがない浪人生さ。しかし、社会が貼り付けた薄っぺらい属性に負ける気はない。ましてや貴女は、押しも押されぬ話題の実力派若手作家なのだから。
リサ>女子高生十七歳、肉体みずみずしく、良くも悪くもマスコミにもてはやされている旬の時期である。
聖璽>失礼、僕の見方こそ記号的だっただろうか。でも許してほしい、貴女の若さより美しさより、僕はまず貴女の才能に惚れこんでいるのだ。
聖璽>僕が妄想を押し付けているように感じられたら申し訳ない。
リサ>だから無理に二人抱き合っているという高度な妄想の世界を作ろうとするより、”今までみやびそんなやらしい言葉を返されたことなかったよ"とか”興奮しすぎて今パンツびしょぬれ"みたいに、画面の向こうで悶えている雅、を想像できる言葉を使った方がウケる。
聖璽>?
聖璽>もしもし
聖璽>バグ?
聖璽>bot?
リサ>こんなふうにゴミ捨て場に異端児気取りで、くそっ
聖璽>会話が噛み合っていないように思うが
リサ>『ここ噛んでーっ』なんていうあまりにも本物のセックスに近づきすぎている台詞はウケないということも学んだよ。
聖璽>なぜさっきから、本文の引用ばかりを?
リサ>しゃらくせぇ。
聖璽>貴女は本当のインストールの作者?
聖璽>ここにいるのは誰?
聖璽>俺は騙されている?
リサ>死んでも人のおもちゃになるな。
聖璽>お前が俺のおもちゃになるな。
聖璽>お前は誰だ。
聖璽>お前は誰だ。
聖璽>お前は誰だ。
聖璽>お前は誰だ。
聖璽>お前は誰だ。
聖璽>お前は誰だ。
聖璽>お前は誰だ。
聖璽>お前は誰だ。
聖璽>お前は誰だ。
聖璽>お前は誰だ。
聖璽>お前は誰だ。
聖璽>お前は誰だ。
聖璽>お前は誰だ。
リサ>営業妨害なんですけど~。
聖璽>いいだろう。望み通り出て行ってやる。ただしお前が僕のホームページにアクセスしてからだ。この文字の上をクリックしろ。
聖璽>http://……
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聖璽>http://……
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聖璽>http://……
聖璽>http://……
聖璽>お前は誰だ。
聖璽さんが退室しました。
リサ>そして私はそうやって一人の男が落ちた後、入れ替わりでやってきた新しい男と、また自己紹介から始めなきゃいけない。
渋澤怜(@RayShibusawa)
よく分からかった人にはこの解説記事がおすすめ。
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