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Photo by
rocjet1972
湯気の精
今日はわたしの30歳の誕生日だった。
そこで、16歳の女性と、真冬の別府温泉に行った。
彼女はまだ高校生なので、お父さんとお母さんには内緒だ。
わたしのために、「友達と旅行に行く」と両親に嘘をついてくれた。
ひらめの刺身、百合根の茶碗蒸し、銀杏の素揚げを食べて、
わたしは純吟醸を二合、彼女は少しだけ、梅酒を飲んだ。
窓を開けると雪が降っていた。
頬の上気した彼女と、部屋づきの露天風呂に入った。
ヒノキの香りがすがすがしい。
肩に舞う雪がなぜか熱く、お湯に浮かぶ柚子が水紋をつくっている。
部屋の窓硝子が曇り、水滴が流れている。
「まるで泣いているみたいね」
そう彼女は言った。
「わたしもそのうち、泣くことになるのかしら」
わたしは笑って、そんなことはないと言い、
二人でお湯から上がると、
彼女はうっすらと汗をかいていた。
彼女が湯上がりに、桃色の爪を切っている。
雪はまだ降り続いていた。
なぜか、寂しかった。