2023年ハイライト あの日の続きを生きてるよ
「あー楽しかった」
東京ドームを出ると頭の中はこの言葉でいっぱいだった。
11月。まだ寒くなりきらない都会の夜風が心地よく、周囲の光が暖かかった。涙や笑顔でいっぱいになった人混みは、これから先ほとんどが知り合うことなんてなく通り過ぎていくだろうが、ついさっきまで同じ景色を見ていたと思うと急に親しみがわいてくる。
感動、心が動いた、そんないくつも気持ちを表現する言葉がある中でも、あの時はこの言葉以外当てはまらないように思う。心の中が「楽しかった」でいっぱいになった。
4年前の11月。BUMP OF CHICKENのツアー最終日、東京ドーム公演に参加した。
BUMP OF CHICKENのライブはまだ数えるほどしか行ったことはないが、なぜかいつもライブのあとは夢の中にいるような気持ちになる。もちろん曲や歌詞はしっかり受け取り、もれなく藤くんの最後のMCでしっかり泣いて、これからの現実を彼らの音楽とともに生きていける、きっと大丈夫だと全身に力が入っていたはずなのに。なぜかすべて終わると、どこか夢見心地でふわふわと「楽しかったな」なんて、子供のような感想しか出てこないのだ。
「楽しかった」、そう手放しに思える瞬間がどれほどあるだろう。たいていの出来事は楽しかったと思う一方で、どこか現実が結びつき、自分自身の過去や未来と重ね合わせてしまうことも多い。今後の覚悟であったり、今までの自分の頑張りを肯定したり。もちろんそういう経験や出来事は必要だし、そういうことがなければ日々の現実を乗り越えることは簡単じゃない。だからこそ、「あー楽しかった!」なんて全身で思える体験はさらに貴重ではないかと思う。
2023年、今年1年で「あー楽しかった」と思える瞬間はどのくらいあっただろう。
コロナになってからライブには行っていない。
今年度から職場の部署が変わり、なれない仕事に毎日よれよれになっている。
そんな毎日に心の底から「楽しかった」と思える出来事があっただろうか。
初めてライブに行ったのは高校生の時。あの時から、大げさかもしれないけどライブに行くことが生きがいだったし、大好きな人に会うために辛いことも頑張ってきた。
ライブはどこまでも非日常だし、行くまでも行ってからもたくさんの感情を引き起こす。そうやって感情の引き出しが増えていく、特別な出来事。
そんな特別な出来事からかけ離れて数年。非日常の素敵な出来事はそうそう起こらない。
毎日毎日の繰り返し。
だけどその中にも小さい非日常や「楽しかった」が隠れてるはずだ。
近場だけど新しく買った服を着て出かけたあの時。
コンビニの新作パンが美味しかったあの時。思いがけず笑ったあのドラマ。繰り返し読んでは同じところで涙するあの漫画。びっくりするほど透き通った青空。真っ赤な夕焼け。夕方から夜に変わるあの紺色。真ん丸な月。ドキドキするあの言葉。駆け引き。大好きな人達の音楽、笑い声。
どこまでも続くような日常だけど、小さい楽しかったを探して拾って積み重ねて。
そうやって今年も過ごせたのかな。
東京ドームで藤くんは最後に「明日は今日の続きだよ」と話してくれた。
あの時の言葉を胸に、あの日の続きの今を生きてるよ。
キラキラした非日常でもらった感情と、眩しくなくて小さくて大事な日常で見つけた気持ちと一緒に。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?