冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第ニ十七話 #DDDVM
一行の道行きを見守ると同時に、私は送られた伝書鳩の返信を紐解いた。天高くさす陽の元にて、幻の鳩の姿がひもが解けるようにほどけ、一人のステテコパンツだけをはいた老人の姿へと変わる。私が、人間種の魔術について知見を求めた相手だ。
「ごきげんよう、シャール君。なおこの幻像はわしがテキトーに記録したものだから、受け応えはできん。ので、質問があれば返信を送ってくれたまえ」
一字一句聞き漏らさぬよう、聴覚に集中するも、門番達の今度は何がはじまったんだという風情の困惑顔についつい苦笑してしまう。
竜の前にほぼ半裸の老人が立っているのだから、奇妙な光景であることは異論ない。
「端的に回答すると、おヌシの質問については理論上は可能じゃろう。もっともその長距離を間断なく維持出来たなら、ソヤツは一等優れた才能の持ち主と言えるな」
伸びた白ひげをしごきながら、王国随一の魔術の使徒はのんびりとした口調で私の推論に対して答えをくれた。
「もちろんいくつか解決すべき問題はあるがの、重要なのはすでに実現されているっちゅーこっちゃ。であればその術者は優れた発想をもって解決策をこしらえたんじゃろー。うん、ウチの学部にぜひとも欲しい逸材じゃの。何をやらかしたか知らんが、みっかったらワシのとこに来るよう口添えしてくれたまえよ?」
「善処しましょう」
「うん、おヌシならそう答えると思っとった。まあワシ、聞こえておらんがな!カッカッカ!」
つい口をついて出た言葉に、合わせられてしまった。このご老公は魔術の見識以外にもすこぶる聡い。
幻の像は宙を指先でなぞると、平易な陣が描かれた魔術式をその場へとうつす。
「これが問題の魔術の基本式じゃて。ま、おヌシほどの優れた魔術師に講義する事はさしてなかろーもん。聞かれた要件を満たす仕組みはすでに入れてあるから、後は自分でいじって確認してくれたまえ」
映し出された陣を脳裏に貼り付けると、自らの爪で再現してみる。虚空に浮かび上がった魔術の陣模様は、竜の私でもすんなり起動する事が出来た。これで、トリックの再現が私の手でもある程度可能になったといえる。
「わしからは以上。礼の返信はわしに、追加の質問はわしでなくても済むから、コヤツにでも送っといて、と。ほいじゃまたの」
陽の光に融ける様に、幻の像は溶け消えていった。すぐさま、お礼の一言を添えた伝書鳩を編み上げて宙へ放つ。
「先生?」
「ああ、失礼。知見を伺った相手からの返信が届いてね」
「ふうん、マメなのね貴方。やっぱり」
「調査には地道な情報集めが欠かせないものだよ。推論はあくまでも推論でしかないのだから。それで、君たちの方は順調かい?」
「順調、怖いくらい。使い魔も出てこないし、今のところ一本道で脇道も無くなってる。これって大丈夫かしら」
「その可能性は低いと考えている、リューノ殿はいかがかな?」
「私も同意見です。もっとも確証はありませんが……」
「なーによ二人して。これじゃ私がアホの子みたいじゃない」
むくれるシャンティカ君。
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第ニ十七話:終わり|第ニ十八話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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