冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第十九話 #DDDVM
私は居ても立っても居られず、手持ちの資料を鞄におさめ背に乗せると住まいを飛び出した。共有している視界の中では積まれたレンガを置き換えるような気軽さで迷宮の内部構造そのものが組み変わっていくのが分かる。
私が舞い戻ったところで、既に迷宮奥深くに進んでしまっている彼らに対して何が出来るというわけではない。それでも照りつける太陽を負ってじりじりとあがる熱を感じながらに飛ぶ。
だが、幸いにも迷宮の変化は彼らを押しつぶしたりなどすることはなくたちどころに収まっていった。もっとも彼らが進んできた通路の前後は完全になくなり、通路の方向も九〇度ずれてしまっている。
「ワトリア君!無事かね!」
「は、はい……シャンティカさんとリューノさんもご無事です」
彼女からの返答を聞き、思わず吐息が漏れた。見た目ばかりは豪勢な黒いブレスが、虚空を焼いて霧散する。
彼女の眼鏡越しに見た所、出口のない密室に作り変えられたわけでもなさそうだ。もっともそうなれば、私が眼鏡にかけた魔術への経路<パス>をたどって穴掘りする他あるまい。
「流石に王家が災厄の遺物を託す相手ではありますね。例え構造変形ですり潰されなくても、事あるごとに内部構造が変わってしまうのでは探索は非常に難しくなります」
「書いていた地図ももう参考になりませんね……」
「出口のない部屋にならなかっただけ良しとしましょうか」
「ええ、しかし公は生きておられるのでしょうか?」
「それは、私の方で確認しよう。君達は脱出するにせよ奥を探るにせよ、探索を続けてくれたまえ」
「わかりました」
あれほどのことがあったというのに、リューノ殿は落ち着き払った様子で行動を再開する。そんな彼におっかなびっくりといった様子でついていくシャンティカ嬢。そしてワトリア君の身震いで私の視界がぶれた。
彼らが行動を再開する一方、私は迷宮公の元へと早々に舞い戻った。私の眼に門番の二人がぎょっとした表情で私を見ているのがうつる。
「お、お早いお戻りで……」
「申しわけない、おふた方。緊急事態なのだ、公の状態を確認させていただきたい」
「は、はぁ……わかりました」
極力落ち着いて話したつもりだったが、どうにも私の切羽詰まった雰囲気が彼らにも伝わってしまったのかもしれない。おっかなびっくり脇に退く彼らをよそに、私は迷宮公の、竜を模したと思しき死に顔に迫った。
まじまじと観察し、閉じられた瞳をそっと開けて覗き込み、言葉をかけて見るも反応はやはりない。
「あの、一体なにを?」
「公が本当に停止しているか確認をば。先程内部構造の組み変わりが発生したようで」
「なんですって⁉ああでも、公の状態はずっと変化なかったかと……」
「確かに、そのようだね」
事ここに至って、死んだふりであれば内部構造が変わった事を知っている私を前にしてふりを続けても意味は無いだろう。その他の反応もやはりない。であれば、やはり公は完全に停止している可能性が高い。
「では一体何故……」
それを判断するには、あまりにも情報が足りなすぎた。
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第十九話:終わり|第ニ十話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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