全裸の呼び声 -58- #ppslgr
「ふたりとも下がっておれ。こやつの相手はワシでなくば務まらぬじゃろう」
「貴様はいつもそうだな、ラオ。いつだって正しく、迷いがなく、先頭に立つ。そうだ、あの大虐殺の折でさえ、それは変わらなかった……」
闇の露出者は、厳粛なる面の瞳をわずかに細め、郷愁の念を醸し出した。二人の股間は、光と闇、表裏一体、陰陽図めいて各々の存在を主張している。ラオが歩み寄り、間合いが縮む。
「あの頃はワシと兄者、ともに肩を並べ、無辜の民のためカラダを張って戦ったのう。そして助かった者も、犠牲になった者も、数限りなくおった……」
「過ぎた話だ。我はすべての脆弱なる被服者を、異界の祝福をもって昇華し、誰一人余さず真なる露出者へと救ってやろう。そして時代は露出こそが正となり、被服こそが邪となるのだ」
「適応できぬ者はどうなるんじゃ。切り捨てると言うのか?」
「時代についていけぬ者など、いつの世もいるものだ」
「……否!人為による選別は淘汰ではない!殺戮じゃ!断じて看過できぬ!」
「本当に、お前はいつでも正しいな。だが止めたくば」
闇の露出者が言葉を切った瞬間、風が吹いた。闘志の風が。境内に避難していた小鳥達は逃げ惑い、枝葉の奥へと姿を消していく。
「力だ、言葉ではなく貴様の露出こそが正しいと力で示してみせろ!」
「やめる気は、ないのじゃな」
「くどい」
「しからば……裸ーッ!」
「裸ーッ!」
何たる露出闘気のせめぎあいか。まるで大いなる寒流と暖流の臨界点めいて、常人の理解を超えた力が渦を巻いてねじれ、ぶつかり合う。雄叫び一つで、凡人が合間に割って入ればもみじおろしハンバーグとなること間違いなしの強大な圧が生じたのだ。
それだけではない。両者はそのまま間合いを図り、畳縦二枚分の距離を保ったかと思えば全く同じタイミングにて構えをとる。真なる露出の構えを!
『プロポーションッ!!!』
瞬間、爆風が巻き起こったと錯覚するほどの余波が一帯を駆け抜ける。現に神社の主はあっさり吹き飛ばされそうになって、アノートのキャッチに救われた。
「わからん……何が起こっているかわからんが下手に割って入ればただでは済まんのはわかる」
「ポージング戦だよ」
「はい?」
「真なる露出絶対強者同士の戦いは、それぞれの露出力を如何に見せつけるかで決まるんだ。露出力の差がそのまま両者の力量の差となって決着がつく。見て欲しい、このレベルの戦いでは放出された露出力が余剰熱エネルギーとなって二人を取り巻いている。この戦い、先に崩れた方が負ける……!」
「ついていけん……」
レイヴンは、そろそろ一度帰って暖かいおふとんで休みたくなってきた。だが目の前で行われているポージング合戦でラオが敗れれば、そのままこのドブヶ丘案件は解決されることなく世界は露出者正義の世界か、あるいはまるごとドブヶ丘へと生まれ変わってしまう。
今の世界の命運は、二人の全裸中年男性の双肩にかかってしまったのだ。
【全裸の呼び声 -58-:終わり|-59-へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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