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冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第ニ十一話 #DDDVM

私の杞憂を吹き払うしなやかな強さを持って、リューノ殿とシャンティカ君の二人は遅い来る脅威を打倒していた。

どうやら当初遭遇した三角錐を張り合わせたタイプだけではないようで、正方形のブロックを見えざる傀儡糸でつないだ奇妙な人型のゴーレムに始まり、これまた宙に浮遊する玉を真珠の首飾りのように散りばめ天球軌道を周回させる個体。あるいは三角形の鋭角の素材をハチを模したかのように組み合わさった個体など、バリエーション豊かな防衛機構達が彼らを出迎えていたのだ。

だが、そのいずれの相手も、リューノ殿の実直ながらも洗練されているのが竜である私にも分かる太刀筋の前に流れるようにきりさばかれていった。
シャンティカ君の援護もまた、森の民である以上生活ときってはきれない弓の冴えにより、脆弱な部位を的確に射抜き、敵対者を排除していく。

「一般の迷宮にいるような種族は見当たらないのだね」
「私見ですが、公の内部は生態系を持つのには余りにも足りないものが多いのだと思います。例えば……水ですね」
「そういえば、この中……全然水が見当たらないけれど」
「死者を元とするアンデッド系統や、そもそも生命活動を必要としない魔法生物を除けば、魔物といえど水を完全に必要としない種族は非常に限られています。そして水がなければ、土は乾ききってしまい苔や菌類といった被食物も生じません」

彼の説明には、私も黙って聞き入ってしまった。この辺りは、本の虫である引きこもりの私よりも、幾度となく数多の土地を踏破したであろう彼の経験の豊富さが物を言うところだ。

「魔物も生き物である以上、生態系が維持できない場所には生息出来ない、というわけだね」
「ええ。アンデッドについては、かつて存在していたにしても王国と公の間に盟約が交わされた際に一掃されたでしょうし、魔法生物は公専属の使い魔が徘徊している以上、別途投入する意義は薄いのではないでしょうか」
「確かに。であれば、ここは人工の施設と同様に、人の手の行き届かない場所にはびこる種は存在し得ないということだね」
「おそらくは。ですが往々にしてこちらの想定を覆す存在は何処にでもいるものです。シャンティカさん、ワトリアさん、引き続き慎重に探索しましょう」
「ええ」

代わり映えのない黒灰色の通路を進んだ彼らの視界に、近づく前までは壁の様にしか見えなかった扉が入り込んできた。その扉は彼らの接近に応じて一定のパターンに従って光点を明滅させた後、一切継ぎ目の見当たらなかった壁面の中央から分割。それぞれ左右に別れて壁の内側へと飲み込まれていった。

「罠……でしょうか」
「その可能性は低いと思います。ですが私が先頭に中を探りますので、お二人はそこでお待ち下さい」
「わかったわ」

盾を前面に押し出し、ネコ族にも劣らぬしなやかな足取りで大きな広間に踏み込むリューノ殿。彼が周囲を見渡すも、一向にトラップが起動する様子はなかった。彼の合図に従い、続いて二人も謎めいた大広間の内側へと入り込む。

【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第ニ十一話:終わり|第ニ十ニ話へと続く第一話リンクマガジンリンク

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