冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第ニ十話 #DDDVM
私はさも神経質に、爪先で地面をつつきながら考えをまとめる。私の爪の先にあった岩盤が、銀匙を押し付けられたシャーベットよりも脆くサクサクと削れていく。
「まずひとつ目、今の迷宮で起きた構造改変は人間でいう所の死後硬直の様な事象という推論」
死後硬直とは、生命活動が停止したことによって起きる肉体の硬直化現象だ。生ける存在はその命脈によって体内に様々な生命維持に必要な事象が発生しているが、その生命が損なわれた場合は血の循環が止まり、筋肉が硬直。そしてやがて軟化していくという。
「だがあの現象は、死がもたらした機能停止・崩壊現象のようには思えない。明らかに整然とした動きだった。であればこの案は優先度を下げて良いだろう」
しかして、迷宮としての機能が存続しているのであれば、今度は公が沈黙したままである点と矛盾が生じてくる。私の爪を受け止めていた岩盤は、まるで蟻地獄の巣穴のようにえぐれてきた。
「考えられるのは、迷宮公の体内機能を別の存在が乗っ取った可能性。言うなれば寄生虫のような存在だ。公のサイズであれば、人間が彼の機能を乗っ取れる可能性はなくもない。だが……」
迷宮公の存在は、おそらくこの世界で唯一だと認識している。私とてあらゆる事を知っているわけではないが、記憶している限りの伝承でも彼のような存在については把握していない。それはつまるところ……
「世界にほぼ唯一の存在、なおかつアルトワイス王国の管理化にあり、更には公自身が知性ある生ける迷宮であった。そんな彼に対して乗っ取りをかけることが出来るほどの、研究を行うことが果たして可能なのだろうか」
通常の生物であれば、進化のせめぎあいによって大型の生物に対し寄生出来るよう能力獲得を行えるケースもあるだろう。だが、公は悠久の時を生きてきた唯一の存在である。もちろん、永く存在する、ということはそれだけ攻略の余地も多くなる訳だが。
「放置されていたならいざしらず、王国建国当初より盟約を交わしていた公に一般の人間が干渉する余地が……?」
首を回し、この場所からほど近くにある山村に視界を回す。そこは大規模な研究設備などあるわけもなく、至って牧歌的な良くある村に過ぎない。この地の立地を考慮すれば、外敵からの干渉の受けにくさと自給自足が成り立つ環境が両立したことによって成立した居住地であろう。
「むむむ……何か、この矛盾を解消するパズルのピースは……」
その時、思考を巡らせていた私に、ある閃きが訪れた。ついぞ力の入った爪がパキリとえぐれていた岩盤を叩き割ってしまう。
「ふむ、この線は確度が高そうではある」
矛盾していた状況を解消する、一つの推論が私の中にもたらされた。だが、今の所それを裏付ける証拠については見つかってはいない。
「であればやはり、まだ彼らには探索を続けてもらう他ないか」
けして安全ではない迷宮に潜り続けてもらうのは、少々心苦しい物がある。
「今後この様な状況がふたたび訪れた時に備えて、色々魔術を揃えて置かなければなるまい」
再びブレスを伴って嘆息してしまいそうになり、何とか呼気だけに留める。ここは空中ではないのだ。
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第ニ十話:終わり|第ニ十一話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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