全裸の呼び声 -36- #ppslgr
現代らしからぬ暗さの夜道をくぐり抜け、目的の建物へとたどり着く。見通しのいい全面ガラス張り、自動ドアの玄関はこの異界に似つかわしくない小綺麗な門構えだ。もっとも、本来自動ドアであろうガラス戸は二人が前に来てもうんともすんとも言わない。仕方なく手動で開けて入る。
「これはまた、なんとも」
「普通だね」
白基調の意匠で飾られたエントランスは、昭和風のレトロさこそあるものだがドブヶ丘らしからぬ落ち着いた雰囲気の室内。ただし全体的に薄暗く、よく見ると照明はどれも半分の数しか点灯していない。
「あーっしゃ、珍しい。お客さん?……うっわ血スッゴ。ダイジョブ?」
呼びかけられた声が聞こえた右手を見ると、木製のチェックイン・カウンターに独特の褐色肌ギャル風の女性が、気だるげにこちらへ視線を投げかけていた。
「自分の血ではないから心配は無用だ。それより、ここは宿泊施設であっているか?」
「見りゃーわかんでしょ。そーだよ」
「見ても聞いてもピンと来ないが、まあいい」
エントランスの広さに反して、店員らしき人影は目の前の女性だけだ。
「ドブヶ丘っぽくない建物だけど、バブル期由来だったりする?」
「ナニソレ、ウケる。そーだって。あーしは産まれてないから爺ちゃん婆ちゃんからの又聞きだけど」
フロントの回答に、レイヴンは眉をひそめた。大破壊のおり、過去の建築物で破損を免れた物は決して多くないからである。もっとも、そうなにもかも壊れたわけでもない。著名なランドマークには奇跡的に残った建物もいくつもあるが。
「いくらだ」
「一人、まー3000円ってとこかな。今日の気分は」
「ん。釣りはいらない」
「まいどありー。好きな部屋使ってちょーだい。どうせどこも空いてるからさー」
「鍵は?」
「ないよー、そんなの。ここに泊まりに来るのは裸一貫の文無しばっかりだから、盗れるものなんて命くらい。きひひ」
ここまでのやりとりで、レイヴンとアノートはどちらもこのホテルが、バブル期に立てられたはいいが放棄され、地元民が勝手に占拠貸し出ししている廃墟……という設定だと理解した。もっとも外に比べれば天国と地獄ほどには差があるだろう、今の所は。
「マシな部屋はあるか?」
「そーねー、上に行くほど手つかずでマシかも。下はほら、忍び込みやすいし。あ、エレベーターは動かないからあっちの階段でヨロ」
ほったらかしとあらば、電気設備がまともに動かないのも致し方ないかも知れない。フロントが指差したほうの逆側には飲食店の掛け看板もあったが、当然のごとく灯りはついていなかった。もっとも、やっていたとしても入ることはなかったであろう。
「それじゃ、ありがたく」
「どーぞごゆっくりー」
言うが早いか、フロントはすでに女性誌に視線を落としていた。今どきなら大抵はスマホの役割なので、やはりこの辺りではスマホを持ち歩くのは一般的ではないようだ。
【全裸の呼び声 -35-:終わり|-36-へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
注意
このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。
前作1話はこちらからどうぞ!
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