全裸の呼び声 -50- #ppslgr
久しぶりに人間性のある食事を済ませた一行を待っていたのは、より一層変質が進んだドブヶ丘だった。あのニューラルネットワークAI描画によって構築されたが如き、ギリギリ人間が意味のとれるような取れないような……そんな曖昧な図形。おおまかな特徴で言えば、昨夜よりも日本の現代都市に近づいていた。だが、それでいて重要な要素は相変わらず抜け落ち、ずれて構築されているとあってとても居心地のいい空間とは言えない。
道路に立ち並ぶ建物が標榜する断片的な文字情報も「あなたがおまえ社員枡カット」「アルプス郷田ジャイアンツ虚車」「決断的ラブ行為」「見られている辛味」など、単語単位では意味が汲み取れる物の、まとまった語意としては支離滅裂な物ばかりだ。
「やっこさん、若干こちらへの理解が進みつつあるらしい」
「ふむぅ……素直に喜べんのう」
「今の所直接のコンタクトはないしね」
泰然とした態度のアノートの言葉を、レイヴンはいぶかしむ。自分に読み取れる範囲では、同行者の二人が捻じ曲げられた痕跡はない。しかしそれも表層的な、ごく浅い情報にすぎない。より深く、静かに直結されていた場合はわからない可能性が高かった。
「どうかした?」
「いや、露出会を探すのはいいが、こうも建物がすげ変わっていると目印にできるものが何もないな、と」
「カッカ!それについてはワシにまかせておけ!ヌヌヌヌヌーン、裸ーッ!」
ラオが奇怪な構えからの露出シャウトを行うと、股間の輝きが収束し、ある方向を指し示した。まるで3D地図アプリのナビゲーションめいた輝きだ。
「これは露出レーダーじゃ」
「露出レーダー」
「さよう。これは本来全裸露出同志と人知れず巡り合うための技であったが、露出派閥が散り散りに別れた今となっては、相争う相手を探すための悲しい業となってしまったのじゃ……」
「だいたいわかった。つまり露出会がいる方向がわかるが、なぜそこにいるかなどはわからない。そういうことだな」
レイヴンはいい加減に、ラオの語る裏露出事情を一から十まで理解することは放棄して、目的達成に必要な部分だけを理解するのに努めた。実際、状況を前にすすめるにはそれで充分だったし、露出界隈のトリビアを今後の人生で使うアテもなかった。
「その通りじゃ。今は最寄りの全裸露出集団を指し示しておる」
「じゃあ、他に当てもないしレーダーを頼りに進もうか」
特定方角を指し示す股間発光の全裸中年男性を先頭に、白黒の胡乱コンビがついていく姿は、控えめに言って不審者という枠に収まらないひどい隊列だったが、ドブヶ丘を行き交う人々がそのことにリアクションを取ることもなかった。ドブナイズド存在汚染を受けた人々にとって、そんなことは驚くに値しない、どうでもいい事態に過ぎないからだ。
それはひとえに、一帯住人が受けた存在変質の深刻さを物語る事実であった。
【全裸の呼び声 -50-:終わり|-51-へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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