だから私はエルフじゃないの! -1- #胡乱エルフ
死んだ、と思った。けど死ななかった。
痩せこけた緑肌のゴブリンを前に尻もちをついたネクロエルフのヨミジは、自分達が遺体を道具にしてきた罰が当たったのだと、何に謝っているかもわからないままにゴメンナサイと繰り返し続けた。ゴブリンが錆びたナイフを振り上げ、ヨミジはギュッと眼をつぶった。
「グェーッ!?」
あがった叫び声は自分の物ではない。恐る恐る眼を開くと、目の前には何もいなかった。視線をせわしなく走らせると、左遥か遠くにゴブリンが射抜かれ木の幹に干されているのが見えた。
「ゲェッ!」
「グヒッ!」
「アバーッ!?」
入り組んだ林の中を、雀蜂よりも正確に飛び来る矢が次々ゴブリンを射殺していく。途方も無い射撃技術だった。十数余体ほどいたはずのゴブリンの群れは、ヨミジがオロオロしている間にまたたく間に数を減らし、半壊して浮足立った頃には数体までになっていた。その数体も、同じタイミングで頭部を射抜かれ即死、その後大地に転がる。
「助かった……?」
初めての体験であった。ヨミジにとって誰かに助けてもらうのは。
「大丈夫?怪我はないかしら」
木立を抜けて姿を表したのは、翠緑がかった金糸の豊かな髪を後頭部でまとめ、樹皮と獣のなめし革の複合素材で出来た服でしなやかな肢体を覆った娘だった。息を呑む。終わりの荒地に放逐された鼻つまみ者のネクロエルフである自分とは違う、本物のエルフだ。ヨミジはしめやかに土下座した。
「えっ、ちょっと、やめてってば」
「フヒッ……何処のエルフ様か存じ上げませんが、どうか命ばかりはお助けを……」
「命も何も、最初からそのつもりで助けたんだけど。ほら、気にしないで立ってたって」
救いの主は弓を爪弾いたとは思えないほど柔らかな指先でヨミジの手を取って立たせる。
「フヒ……」
「ところで一つ聞いても良い?」
「なんなりと……」
「エルフってなに?初めて聞いたんだけど。私はアルヴァ族の」
けたたましい木折れの音が少女の質問を遮った。ヨミジは縮こまり、ゴブリン所ではない脅威の登場に改めて絶望する。
林の木々を連鎖伐採と共に姿を見せたのは鉄の箱、下半分には車輪が連なり鉄板がつながった履帯によってあらゆる障害を踏破でき、上半分に乗った箱には冷たい金属の筒が竹のように伸びていた。戦車である。戦車の上箱から身を乗り出した赤髪短髪の猟犬めいたタンクエルフが、獰猛に笑みながら告げた。
「おうおう!ピュアエルフの嬢ちゃんはそこからどきな!じゃねぇとその陰気なクソスカム死体アソビエルフごと吹っ飛ぶ事になるぜ!」
鉄の箱から伸びる筒は、正確過ぎるほど正確にヨミジを捕らえていた。今度こそ終わった、彼女の身体から生きる意志が抜ける。そんなヨミジの前に救い主の少女は再び立ちはだかった。
「私はアルヴァ族の冒険者、シャンティカ。あなたは?」
「あ、あーん?オレをし・ら・な・いーっ!?この誇り高きタンクエルフ、竜穿ちのテッカ様を知らないだとぅ!何処の出だい、シャンティカとやら!」
美麗なる乙女の視線が衝突!火花を散らす!
【だから私はエルフじゃないの! -1-:終わり|-2-へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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