冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第四十二話 #DDDVM
そう言って、二世殿はアゴに……正確にはフルフェイスの装飾に手をあてわざとらしい咳払いを見せる。彼の身体構造として、体内に声帯や呼吸器が有るのかは……はなはだ疑問ではあるが。
「君も既に自覚はあると思うんだけど、君は今、アルトワイス王家が有する重要施設をメッタメタのボッロボロにしてしまった。しかも、偶然などではなく自分と意思として行動を起こしたわけで……まあ有り体に言って重犯罪人だねー」
「それは……わかってます。覚悟も、してます」
「ウソは良くない。死に対する覚悟なんて、おいそれと出来るもんじゃないから」
二世殿はサーン少年の震える手を取って、その硬質ですべらかな指先でもって握りしめた。その指先はあまりに非人間的、非生命的でありながら、生ける者への敬意に満ちていた様に思う。
「君達の首が飛んだところで、父はもとには戻らないし、それどころか我々を倒した相手は犯罪人などというレッテルまでついてしまう。これは実に良くない。どうせ後世に語り継がれるなら、知勇溢れる若者に敗れた、そういうことにしておきたいのが父の意向なのさ。そして、自分もまたその意向を尊重したい。わかってくれる?」
「アンタの事情はわかった……信じて、いい?」
「信頼に叶う働きをすると約束しよう、君と君の先生の未来のためにも」
そこで、ようやく少年の手の震えが止まった。が、同時に次のトラブルもまた発生してしまった。
まず最初に生じた変化は、湖畔の水面が風の波紋を明らかにこえる戦慄きを起こした事。それから、公園の噴水のように水が湧き上がると、形を一変させ、透き通る花弁を集めた薔薇に変じたのだ。
集落にも関わらず生じた変異に、リューノ殿とシャンティカ君は非戦闘員の前に出て戦闘態勢を取る。が、私はそんな二人に待ったをかけなくてはならない。あれは敵ではないからだ。
「止すんだ、ふたりとも。あれは敵ではない!」
私の言葉を否定するかの様に、薔薇の花弁に波紋が溢れたかと思えば、我々の足元に向かって、高密度に圧縮されたと思しき水流が多数撃ち込まれた。水竜の類が操るブレスに準じたそれは、並の鋼板などあっさりと両断しうるだろう。
「攻撃してきたんですけど!?」
「だから、誤解が生じている!サーン君!彼女に伝えてほしい!」
水しぶきが上がる中、私の言葉にサーン少年も頷いて見せた。だが、こちらより早く水薔薇の中央が開き、内より女性の上半身を生やしてみせる。姿を見せた女性は燃えるような赤髪のロングストレート、緋の瞳には怒りの炎を伴っていて、その身を麻のローブで覆っていた。
「アンタ達!ウチのバカ弟子に手を出したら承知しないよ!」
彼女の言葉に、一同も状況を察したのか、武器を収めようとするも水薔薇の威嚇射撃が、早い。リューノ殿とシャンティカ君の手元をかすめ、またも派手な水しぶきが立ち昇った。
荒ぶる水の華を前に、サーン少年が駆け寄っていって両手を広げる。
「先生!ちがう、ちがうんだ!この人達は味方!味方なんだよ!」
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第四十二話:終わり|第四十三話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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