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ノートちゃんは小説というものが良くわからない #ppslgr
超巨大創作売買施設”Note”。その複数あるメインストリートのうちの一つ、『ノベル』。
いかにも商業施設めいた明るく天井の高いこの通りには、おおむね投稿したばかりの作品が閲覧されるが……一方でスペースが限られているため時間がくれば後続の作家の作品と交代となる。
もちろんこまめに投稿すれば、その分多く顔は出せるのも事実だ。俺のようなうろんなパルプスリンガーにはその恩恵は控えめだが。
いつも通りの黒ずくめで固めた威圧的服装でどっかりと与えられたスペースに座り込み、自作品を並べる。目立たせてくれるのはありがたいが、どうにもここはおしゃれ過ぎて居心地が悪い。俺に取っては荒れ寺とかの方がまだ座りがいいという物だ。しかし一番の問題はそこではなく……隣に並んだうら若き清楚な感じの女性と目が合う。
「ど、どうも」
「ドーモ」
挨拶を振られ、鷹揚に挨拶を返す。ちらり、と卓に視線を移すと彼女の作った冊子。ジャンルはエッセイと読み取れた。彼女は少なくとも俺が書いているような、人間がワンセンテンスでネギトロになる様なバイオレンスアクションは読むまい。
「あのー……」
「なにか?」
「私、何故ここに案内されたんでしょうか……?」
困惑しつつ問いかけてくる女性を前に己の額を抑えた。うむ、これだ、問題は。Noteの管理AIによる、作品の選別はまだまだ学習途中の発展途上なのか、この『ノベル』ストリートにどういう訳か全然別ジャンルの文筆作品を放り込んでしまう傾向があった。
俺の今の逆隣りと言えば、最近ますます知名度が上がっているテレビ関係者だった気がするし(テレビ番組に興味がない俺ですら知っているほどだ)先日はかの高名な詩人が隣だった。
そのジャンルもコラム、エッセイ、映画レビュー、などが混在しており、投稿者本人ですら特に小説タグを明示している様子はない。
とはいっても、刻限がくれば誰であれ席を空けるのがしきたりなので具体的に何か問題があるわけでもなく。ただただ困惑すると言うだけである。
「たまたまでしょう、人目に触れる良い機会ですから気にしない事です」
「そうですか、ありがとうございます」
おずおずと正面に向き直る隣人から視線を外すと、俺の方の真正面に問題の根源が立っていた。
エメラルドグリーンのストレートロング、前髪を麗しく切りそろえて、誰がどう見ても深窓の令嬢と言い切れる品の良い服装をまとった少女。
「私、またやっちゃいましたでしょうか?」
「問題は軽微だ、今後に活かしてくれ」
申し訳なさそうに眉尻を下げて俺の様子をうかがうその少女に、ぶっきらぼうに返すと他のパルプスリンガーの作品冊子に視線を落とす。彼女こそ、このNoteの運営を担当する管理AI、ノートちゃん……の巡回用人間躯体端末である。
彼女はまだまだ発展途上の存在であり、以前はNote全体がメキシコの荒野(未開拓)などと呼ばれる有様だったが俺が入植してからはそこまで大きなトラブルは起こっていない。何より、ちょっとしたミスなど誰にでもあるものだ。そう、ブッダでもだ。ゆえに目くじらを立てても致し方ない。
そうこうしているウチにノートちゃんが別の投稿者を案内してきた。俺かと思いきや先ほどの女性の方が交代の時間らしく、代わりに俺の隣に並んだのは、なんだかよくわからない生き物だった。Vtuberの物理アバターだろうか。
「こんにちわ」
「ドーモ」
最低限の礼儀として淡々と挨拶を返すも、やはり気になって隣人の作品をチラ見する。内容は……どうみても映画レビューである、表紙の時点で明示されていた。俺の反応をちらちらとうかがうノートちゃん。
「映画レビューだな」
「あわわ……じゃ、じゃあこちらの作品はどうでしょう?」
そう言って彼女が差し出してきた冊子を受け取るとぱらぱらと読み取る。
「エッセイだ。少なくとも私小説だとは明示されてない」
「じゃあ、その、これ……」
「生活習慣に関するコラム」
「こ、これなら!」
「eスポーツについてのイベント運営論」
立て続けに候補作を軒並み小説ではなかったことを知らされてへなへなと崩れ落ちる少女。気の毒ではあるが、ここでウソを教えるのも彼女のためにならないといえる。
「そう、気に病まない事だ。最近は小説の定義なんてふわふわもいい所で人間だって良くわかってないんだからな」
どうにもはた目には俺がイジメているように見えてしまうので一応慰めておく。実際問題、なにがどう小説と言えるのかは実にあいまいで、調べた俺も良くワカランというのが正直なところである。
「でっ、でも……最後にコレ!」
これで最後と言わんばかりに突き出された物に目を通す。眉をしかめる。
「これは、アウト」
「アウト?」
「表題じゃわかりにくいが、自動巡回型スパム販売」
俺の回答を受けてひくっ、とノートちゃんの顔が硬直した。ナムサン、スパム関連はノートちゃんの数少ない虎の尾である。
「ごめんなさい、私、征ってきます!」
「ドーゾ」
俺が返した冊子を手にきびすを返して少女は駆け出していく。そして彼女が去ってから五分もしないうちに、轟音と共にNoteの施設全体が揺れた。
「……南無阿弥陀仏、どこのアホだか知らないが反省しろよ」
多分死んじゃいないだろうが、インガオホーというヤツだ。退出通知が来ないままに、衆目の好奇の流し目を受けながら俺はメインストリートの末席に居座ったのだった。
【ノートちゃんは小説というものが良くわからない:終わり】
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